講和条件
この文章、一つだけこの世に存在しない単語が使われておりますのでぜひ探し出して報告お願いします()
此処はとある紛争地域。些細なすれ違いから起きた多民族国家内での紛争によって、国土の半分が焦土と化した終末の地。国の未来を担う若者は祖の悉くが下らぬ『正義』による血の礎となった。
血を流しすぎた両民族のトップは、引き返せぬ路と知りながらもなんとか店仕舞いができぬものかとこの数か月、やつれた顔に張り付いた隈が頬まで及ぶほどに模索していた。
「中尉、少し珈琲と煙草を持ってきてくれんか」
扉の向こうにいるであろう若年の中尉に注文を飛ばしたのは、ストレスによって真っ白く染まった頭を掻く壮年の男性だった。彼の目の前には積みあがった書類が東国にあるという電波塔のように彼を押しつぶさんとしている。
彼はこの戦争の最高指導者の片割れだ。その性格は磊々落々としたものであり、万人から悪い印象は抱かれない人物だった。しかしてその頭脳は秀英ひしめく軍学校の中でも折り紙付きのものであり、その証拠として軍学校を第二席で卒業した。過去の栄光とはいいものだ。いつまでも浸っていられる合法麻薬のようなものなのだから。
重い黒檀の扉を二度ノックする音で、中将のトリップは終わりを迎えた。
「か、閣下、珈琲と煙草をお持ちしました」
「……入れ。あぁ、いや、入室を許可する」
「し……失礼します」
柄にもないトリップを邪魔されたことへの苛立ちで中尉に棘のある物言いをしてしまったことを中将は少し反省する。しかし、老人の楽しみを奪われたのもまた事実なので、少しだけ若い中尉をからかってみることにした。
「アルベルト・ルーデンス、一つ君に質問だ」
「……と、おっしゃいますと?」
「この紛争、どうやったら終わらせられる?」
自分でもなかなかに意地悪な質問だとは自覚している。しかし、この程度の意趣返し程度は許されるのではないだろうか。
「個人的な所感であれば、お答えすることもできます」
「それで構わん。できるだけ、細かくだ」
「彼我の戦力差は拮抗状態、あるいは我が軍の局所的劣勢状態にあります。そのうえ、兵站も崩壊寸前。あちらもこちらとそう大差はないはずですが……一つだけ、決定的に覆せないものが、あります」
「続けたまえ」
中尉も言葉を選んでいるのだろう。だからこそ、その事実を告げることに抵抗がある。
「後ろ盾、です。あちらには国際世論がついてしまっている以上、もうどうしようもない」
「……続けたまえ」
「……講和しか、無いものと存じ上げます」
同じ結論。同じシナリオ。何度やってもそれにしか行きつかなかった。振ったのはこちらなのにも関わらず、気が滅入ってしまった。特大のため息とともに、一つだけ愚痴を零した。
「妥して講和を結ぶしか、路は在らず、か。……畜生め」
あぁ、運命というものがあるのならば、今すぐに銃殺刑に処してやりたい。今までなしてきたことは一体何だったのか。国の未来を担う若者の命を磨り潰してまで得たものは一体何だったのか。運命の女神に中指を。
「でッ、伝令ッ!!」
重い空気の執務室に転がり込んできたのは通信畑の人間だろうか。手には少し歪んでしまった紙が握られている。そしてこの狼狽えよう。きっと、ロクでもないことだ。
「報告したまえ」
「は、はッ!敵軍、休戦ラインより進軍!数五万、敵航空戦力により制空権喪失!進軍先は――」
あぁ、運命の女神よ。なぜ、今なのですか?
「首都、メリンスクですッッッ!!!」