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1-4 小田原と御母衣と本






 そんなこんなの勢いでハンサム騎士の契約を結んでみたものの、なんだか乗せられたような気がしてならない。


 次の日、授業中も自分の選択が正しかったのかと自問自答し続けていた。


「ガッカリしてメソメソして、どうしたんだい宇部氏」

「あっ、小田原おだわらくん」

「私の席からでも溜め息まじりで悩ましげな宇部氏の姿が伺えましたぞ。さては恋煩いですかな」


 眼鏡の奥で、彼の目が光った。

 彼は小田原おだわらきよし

 高校1年からのクラスメートで、僕の数少ない友人の一人である。校内での使用が禁止されているスマホを堂々と握りしめてやってくる。

 恋愛シミュレーションゲームで培ったという高い知力、判断力、直感力はゲーム外で活かされることは少ない。


「悩んでるのはそうだけど、恋煩いじゃないよ」

「ややっ、まさか私の勘が外れるとは! して、その悩みとは一体なんなのですかな」

「うーん、そうだなあ」


 これって人に言ってもいいものなのだろうか。信じてもらえるかどうかは別として、ヒーローの招待って基本的に明かさないものだよなあ。


「大したことじゃないよ。それより、お昼にしようよ」

「おお、秘密をはぐらかされると気になってしまいますなぁ。しかし、秘密のないヒロインには魅力がないと私はよーく知ってますぞ。さあさあ、お昼にしましょう」


 僕、ヒロインだったのか。まぁ小田原くんの発言をいちいち真に受けてたらまともではいられない。


「宇部氏の弁当は相変わらず美味しそうですなあ。今回もまた、姉上殿のお手製ですかな」

「まあね」


 大学生の姉は料理好きで、毎日弁当を作ってくれる。

 昔に同級生からシスコンといじられた思い出があるため、あまり姉について話すつもりはない。


「僕からしたら小田原くんみたいに惣菜パン買うほうが羨ましいけどなあ。その日の気分で選べるじゃないか」

「とはいえ味気ないものですぞ。やはり愛のこもった弁当が羨ましくて……むっ、あれは」


 小田原くんが教室の入り口に目をやった。

 すでに授業が三時限も終わったお昼休み。こんな時間に学生鞄を背負って登校してくる女子は一人しかいない。


 御母衣葉菜みぼろはなさんは眠たそうにあくびをしながら、窓側最後列に座る。初秋の日差しはまだまだ熱いのだろう、ゆっくりとカーテンを閉めてまた席に座った。


 肩にかかるかかからないかといったくらいの長さの髪をヘアゴムで束ねる仕草には、どこか大人っぽさを感じられる。


「御母衣氏は相変わらず、キュートでミステリアスでフリーダムですな。彼女のように自由に生きてみたいと思って常々から憧れの眼差しを向けておりますが、社会規範に反することが私にはどうも恐ろしくて恐ろしくて」

「いやいや、小田原くんもいい塩梅で自由に生きてると思うけど」

「リアリィ!? キュートもミステリアスも感じられますかな!」

「いやキュートではないけど、ミステリアスだと思うよ」

「うーん、それでは29点、赤点ですなぁ……」


 キュートのウエイトやたら高いな。

 フリーダムとミステリアスはどうでもいいのかよ、小問かよ。


 内心でツッコミを入れながら、卵焼きを一口。

 柔らかい卵の中に、歯応えのある野菜の食感。

 ホウレン草? いや、水菜? よく分からないが、美味しいな。


 ここで御母衣さんの方にに目を戻すと、席にはもう彼女の姿はなかった。

 教壇を踏む音が聞こえたのでそちらを見ると、一冊の本を持った御母衣が教室から出ようとしていた。


「御母衣氏があのように本を持って出たときはしばらく帰ってこない傾向にありますな」


 確かに。読み始めると夢中になって回りが見えなくなるタイプなのだろうか。そのブックカバーの下に一体どんなタイトルが隠れているのだろう。


「どこで本を読んでいるのかも謎ですが、それほどまでに御母衣氏を夢中にさせる本……あのカバーで隠しているのは一体どんな本ですぞだろうか」


 うわ、思考丸かぶり……ですぞだろうか!? どんな語尾だよ。


「提案ですぞ、宇部氏。御母衣氏を尾行してみませんかな」


 小田原くんが声と目を潜めて言った。


「えぇ、いいよ」

「何故ですかな? みぼろんミステリー探検隊を結成しましょうぞ」


 誘い方もネーミングセンスも変態染みている、さすが小田原くんだ。僕にはそれに染まる勇気はない……勇気、勇気?


 またその単語が自分の中で引っ掛かった。


 御母衣さんのことが気になっていながら、人目や常識外れが怖くて行動に移せない。

 しかし、リリィはこう言っていた。僕の強さは自分と違うものを受け入れることができることだと。

 受け入れて、それを僕はどうする? 

 自分の殻に閉じ籠って、何にも活かせないまま……。


「残念ですなぁ。今回も私が一人で」

「あーあー! 僕も行くよ」

「えっえっえ!! なんですと! 宇部氏がまさか、女子生徒を尾行するという変態と見られても仕方ないような私の個人的趣向に付き合ってくれるとは、珍しいこともあるものですな!」


 うわあ、丁寧に最悪な表現をしてくれたものだ。


 最近分かった。考えすぎて堂々巡りになったとき、逆に衝動的に行動してしまう傾向があるようだな。

 うーん、これは勇気と言えるのか、はたまた。

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