第5章 不確かな僕ら
暗い暗い、世界。そこには行き場の無い存在がただ一つ佇んでいるだけ。
「ここはどこなんだろ……?」
誰もいない、何も聞こえない、何も見えない、虚無の世界。
「あぁ……そうか……」
その存在は何かを思い出した。
「私、消えちゃったんだった……」
そう、その存在はもう消えてしまい、もう誰の記憶にも残っていない。
「大丈夫、私は平気だから……」
その存在はそう呟き、もうこのまま眠ってしまおうと思う。
そうした方が楽だから、何も思い出さなくて済むから。
しかし、眠ろうとすればするほど思いだしてしまう、あの場所を、コスモスを、なにより楽しかったあの日々を。
「なんで私の記憶は消えてないの……? こんな記憶なんてあってもなんの意味もないのに……消してよ……ねぇ消してよっ……」
しかしその声は虚しくこだまするだけ。
もうその状態に泣きそうになる。でもきっと泣けないんだろう。この世界に涙なんて概念はどうせ存在しないんだから。
「…………」
やめよう、全ての思考を停止しよう。そうすればこんな気持ちも湧いてこない。
すると自然に意識が薄れていくことを感じる。意識が落ちる寸前に、その存在は無意識のうちに呟いた。
「会いたいよ……みんな……会いたいよ……達也」
「うぅ……」
木漏れ日が降り注ぐ中、夏目達也は目を覚ます。
時刻は昼前ぐらいだろうか。
最初に視界に入って来たのは、何やらよく分からない、子どもが作った秘密基地の様なものだった。
「なにこれ……てかなんで俺こんなところにいるんだろ、昨日散歩してて気が付いたら寝ちゃったパターンかな……」
ふとその秘密基地の様なものに立て掛けてある、看板に目が行った。
「コスモス……? なんだコスモスなんてどこにも咲いてなくね……?」
周りを見渡してもどこにもそんな物は咲いていない、ただ草が生い茂っているだけ。
なんでだろう。
彼は不思議に思う。
この場所にいると、ひどく気分が悪くなってくる。
彼はオェと、えづいてしまい急いでこの場所から離れる。
「はぁはぁ……なんだこれ」
林道を下り、海沿いの道路を歩いて行く、すると先ほどまでの吐き気はウソのように治まってしまった。
「何なんだよ……なんか変なもんでも食ったか……」
彼は自宅に戻った、すると玄関にばあちゃんが出てくる。
「達也どこに行ってたんだい?」
「えっ、まぁ適当に散歩してた……」
こんな言い訳で大丈夫か、と一瞬彼は思ったが、
「そうかい、まぁご飯作ったから食べてけ」
と、全く気にしていない様子でばあちゃんはそう答えた。
達也はテーブルに腰をおろし、ご飯を食べる。
「ねぇばあちゃん。俺さ、こっちに帰って来てから何してたっけ?」
「家でダラダラしてたじゃないの。あっ……でも少し前に家に来た、髪の長い可愛らしくて優しそうな女の子の名前はなんて言ったかねぇ……」
ばあちゃんは何かを思い出そうとしている。
髪の長い女の子、達也はそのような人物を思い出そうとするが、出てこない。
「ばあちゃん、それ適当に言ってない? てか俺、ぶっちゃけこっちに誰も友達いないからね」
「うーん、ばあちゃんの記憶違いかねぇ……名前が出てこないねぇ、悠季ちゃんとは違うんだけど……」
悠季、その言葉を聞いた瞬間、なぜか達也は少し頭が痛くなった。でもなぜだかは分からない。そんな名前の人物など知らないから。
「ごちそうさま」
彼は立ち上がり、自室へと向かう。
敷きっぱなしの布団に寝転がり、彼はこの町に来てからの事を思いだしてみる。
普通に、懐かしく思いながらこの町に帰って来て、普通にのんびりとした日常を過ごしていたはずだと思う。
「…………」
でも、なぜかこの記憶に違和感がある。感覚的なものでしかないのだが何かぽっかりとピースが抜けてしまったかのような気持ちになった。
風がなびき、カーテンを揺らしながら部屋に入ってくる。
すると、その風に舞ったのか一枚の紙が達也の顔を覆う。
達也はちょい、とか言いながらその紙を払い、見てみた。
その紙には絵が描いてあった。いや絵などとはとても言えない、子どもが書いたラクガキの様なもの。
紙の中心に大きい樹が描いてあり、手をつなぎ輪になった三人の子どもがその木を囲んでいるなんだかシュールな絵。
「うん……? なんか書いてあるな。なになに……こすもす……?」
とたん、体に電気が走ったかのような衝撃が来たような気がした。
「まただ……」
なんだよさっきからコスモスってよ、まったく意味が分からん。この言葉を聞くとひどく気分が悪くなる。
彼はそう思い、そのラクガキを適当に部屋の隅に投げ捨て立ち上がり、
「コンビニでもいこ……」
と、そう呟き階段を下り、外に出る。とたん夏の高すぎる日差しが彼を襲った。
「あっついなぁ」
彼はパタパタとTシャツを仰ぎながらコンビニに向かった。
「夏休みってぶっちゃけやる事ないんだけど……」
天原悠季は自室でだらしない部屋着のまま寝転がりテレビを見ている。
「あれ? 今日ってなんか遊ぶ約束でもしてったっけ?」
思いだしてみる、しかしそんな記憶はどこにもない、そんな事よりもなぜか足のふくらはぎが筋肉痛になっている事の方が、彼女は気になった。
「いてぇ……なんでこんなとこが筋肉痛なんだろ……まぁいいか……てか腹減ったなぁ……」
彼女は何か食べ物があったら盗んでこようと、そう思いキッチンに向かう。一瞬コンビニにでも行こうかとも思ったがめんどくさいのでやめた。
「何にもないじゃんか……お母さんって……いないじゃんみんな」
家には悠季一人きりだった。
「どうせ暇だし何か作ろうかなぁ」
彼女はそう呟きながらお菓子の作り方が書いてある本をぺらぺらとめくる、すると一つのページが目に入った。
「ティラミスかぁ……うわっ……めんどくさっ……やめよ」
と、呟き他のページを見る。
「…………」
だが、再びそのページを覗いてしまう、なぜだかは分からない。なんだか少しだけ作りたくなってきた。
「材料は……あー足りないや、しょうがない、めんどくさいけどコンビニにでも買いに行こうかな」
彼女は着替え外に出る。
「眩しいなぁ……」
夏の昼下がり、彼女はのんびりしてるなぁとか思いながらコンビニに向かった。
そう、いつもと変わらないバカみたいに穏やかな日々を刻む。誰かが誰かを忘れても、誰かが泣き叫んでいても、何も変わらないいつも通りの日々。
達也は、コンビニまでの道のりを歩いていた、一歩一歩、歩くたび草履に心地いいアスファルトの感触が跳ね返ってくる。
穏やかな海岸線沿いの景色を見ながら歩いて行く。
「うん? なんだこれ?」
彼の目線の先には、本来ならば緩やかなアーチを描いていたであろう、少し一部が凹んだガードレール。
彼はおもむろに近づく。
「なんかここだけ凹んでるから、すげぇ目立つわ。どういう訳で凹んだんだろ、こんな風にドカって感じでぶつかったのかな」
とかふざけてガードレールにつかまっていると、
「っ……」
また少し、頭が痛くなってきたため、彼はそそくさとコンビニに向かう。
「ふぅ……あっつ……。やっと着いたわ」
彼はコンビニを見つけ、入ろうとする。
華奢な女とそれに対比するように大柄な男がコンビニの入口の前でなにやら楽しそうに会話をしている姿をなんとなく彼は見つめた。
「まぁ、地元民にとっては俺みたいな奴はマイノリティだよねぇ……」
とか、呟きながらその地元民の横を通り過ぎる、その二人と達也の視線が一瞬交錯した。
「っ……」
またかよ、と達也は思う。
脳の奥深くがえぐられるかのような痛み。その痛みと同時に脳の中が白い霧に覆われるような感覚に襲われる。
「今回のはちょっち酷いな……」
なんとか店内に入ったのだが、店の端にしゃがみこんでしまった。
世界がぼやけ、視界がトリップする。
「まぁ……また、時間が経てば治るでしょ、それまでちょっちタンマ……」
達也は、必死に深呼吸をして、体を落ち着かせる。
「大丈夫?」
若い女の声が聞こえた。
その声に達也は顔を上げる。
「あぁ……はい、心配しなくても大丈夫です。すぐおさまりますので」
話しかけてきたのは入口の所で楽しそうに話していた女だった。
達也はもう帰ろうと思い、立ち上がりコンビニから外に出る。すると女は心配なのかついてきた。
「はぁはぁ……」
頭が割れそうに痛い。
達也は少し歩いただけで再びしゃがみこんでしまう。そんな達也の姿を見た女は一緒にいた大柄の男に助けを求めた。
「ねぇ新一、この人、体調悪いみたいなんだけど、やばいよね。パトカー呼ぶ?」
「救急車だろうが、なんで警察呼ぶんだよ……」
新一、その言葉が達也の脳の中で反問する。
なぜだかは分からないが、深く深く響く。
達也は激しい頭痛により、汗が止まらない。するとその姿を見た大柄の男は背中をさすってきた。
「おい、お前大丈夫か?」
その言葉に達也は答えられない。
「確かにやばいな、えっと携帯……は持ってきてないわ、悠季お前携帯持ってるか?」
悠季、その言葉も何か引っかかる。
この女がばあちゃんが言っていた悠季なのか? なら髪の長い女って誰だ?
と、達也は思う。その時達也は気が付いた。
この頭痛の原因。
それはこの二人だ、彼を介抱するこの二人。
いちいち、この二人の一つ一つの言葉が彼の頭の中に響く、ならばこの二人から離れてしまえば良い。
「やめろ……」
達也はこの二人から遠ざかるように一目散に駆けだした。
「ちょ……ちょっと、どこに行くの?救急車呼ぶから待ってなって」
女が叫ぶがそんな言葉は達也は聞かない。そして全速力で自宅まで戻るよう駆け抜ける。
「ちょい……聞いてんのっ! 新一、追いかけようっ途中で倒れたら大変だよ!」
その言葉に男は頷き二人は達也を追いかける。
「はぁはぁ、はぁはぁ……」
強烈な日差しに目まいがする。
悠季に新一、達也は走りながらその名前をもう一度頭の中で反問する。しかし、もちろん何にも思い浮かばない。なのになぜかは分からないが無性に怒りがわいてくる。あの二人の事なんて全く知らないのに、無性にイライラしてくる。すると後ろから、
「ねぇちょっと、止まってってばっ!」
あの女、悠季の声が聞こえてきた。
「まじかよ……なんで追いかけてくんだよ」
気が付けば先ほどまで歩いていた海岸線沿いに来ていた。
正直、彼はこの割れそうな頭痛で思いのほかもう走れる体力が残っていない、それでも彼は走る。しかし互いの距離は徐々に縮まっていっていく。
「ねぇ待ちなって、新一お願い捕まえてきてっ!」
あの男が、おぉと頷き全速力で追いかけてくる。加速的に互いの距離が縮んでいく。
「はぁはぁ……あちぃ……」
自分は何をやってるんだろう、と達也は思う。
なんで俺はこの二人から全力で逃げてるんだろうかと。
すると、一瞬、脳裏に何かがよぎった。
夜、自分が狂ったように笑いながら走っている。一人じゃない、他にも誰か一緒に走っているそんな風景。
(だからぁ、もう私たちは〇〇ってことっ)
記憶が繋がらない、その不快感に達也はもううんざりする。
「くっそ……なんなんだよっこれは」
二人から離れているはずなのになぜか頭痛治まらない、そして。
「ゲッチュ!」
と、言う声と共に達也は新一に捕まる。
「悪いな。俺、陸上部なんだわ」
「そうですか……もう走れん。てか立ってられん」
達也は地面に派手に座り込んだ。すると、遅れて悠季がやって来る。
「なんで、ハァ、逃げたの?」
息を切らしながら彼女は達也に問う。
「いや、パトカーとか言ってたから……警察呼ばれると思ったから……あせって逃げた」
もちろんこんな言い訳は嘘なんだが達也はそう言った。
「呼ばないし、てか救急車呼ぶって、言ったじゃん」
「それで、終わった後、あの時助けたお礼に金よこせって作戦だろ? 揺すられるようになったらどうすんだよ……? 逃げるでしょ、逃げるしかないでしょ、他にどうすればいいんだよアン?」
自分でもなんでこんなに熱くなってるのか分からないが、気が付けばそう叫んでいた。するとまた視界がボヤけてくる、一瞬意識を失いそうになるがなんとか持ちこたえた。
「ちょっと、フラフラじゃん。もう大人しくしてなって、今から救急車呼ぶからさ」
悠季は携帯を出した。
「あれ? 110だっけ? 救急車って」
「ちげーよ、お前どんだけ通報したいんだよ、ほら貸せ俺が連絡してやるからさ」
新一は、悠季から携帯を渡してもらい、救急車を呼ぼうとしている。
「…………」
達也は治まらない頭痛で下を向きうつむいていた。
「悠季……新一……」
すると、一瞬彼の中に一つの言葉が浮かんだ。
「葉月……」
鼓動が高鳴る。
「うわああああっっ!!!」
達也は気が狂いそうになり、視界が白い霧に覆われそうになる中、やみくもにここから少しでも離れるように、走りだす。
「痛い、痛いっ、やめろっ、なんなんだよ、この記憶は……」
もう何も聞こえない、何も見えない。
刹那。
「うっ!」
彼は派手に何かに衝突した。
「キャッ! 大丈夫?」
悠季が倒れている彼に駆け寄る、その姿を見た新一も続く。
「おい、しっかりしろ!」
新一が達也の体を揺する、しかし達也は答えない。
「おいっ! 返事しろっ」
「…………」
「おいっ!」
「ハハハハ……」
達也は唐突に笑いだした。
「おい葉月……俺を舐めんなよ? ここで過ごした日々ってのは簡単に忘れるほど俺の中では安っぽくないんだわ、12年前の約束も、今この時も、お前の身の毛がよだつほどつまらなかったギャグも、こんなくそったれな筋書きに消されてなんかたまるかよ……」
彼は立ち上がり、体に付いた砂を払った後に、再び笑ってしまった。
「どうせだったら、もっとカッコよく記憶を思いだしたかったな、昨日ぶつかった時より余計にガードレールへこんじゃったよ、どうしよう……」
もう一瞬で分かってしまうくらいへこんでしまっている。
「記憶と言えば……例えばほら、主人公が魔王に洗脳されてヒロインを襲おうとするシーンがあるとするじゃん。襲おうとする瞬間に昔、主人公がヒロインにプレゼントしたネックレスが、キラッって輝いてさ、それで主人公が記憶を思い出すみたいな。こんなのどうだと思う悠季?」
と、言う達也の問いに悠季は。
「ねぇ、新一。この人、気が狂っちゃったのかな? なんかいきなり意味不明な事言いだして怖いんだけど……」
「そりゃあ、あんな勢いでぶつかればおかしくなるだろ」
新一は少し笑いながらそう言った。
「…………」
達也は改めて気付かされた。
記憶が無くなってるのは自分だけではないという事を。悠季や新一もまた同じように記憶を失っている事を。しかも今の会話を聞いてみると、二人は達也と葉月に関しての事だけ忘れてる様だ。
「と、言う事は……」
達也は二人の顔を見つめる。
二人は少し引き気味で達也を見つめていた。
「俺とこいつらは葉月が存在していた事によって、生まれた出会いって事……か」
本来ならば、それは決して出会う事の無い運命。
しかし葉月が存在した事により、葉月と達也が交わした約束、葉月と悠季たちが交わした約束。その二つが交錯した事によって。
達也と悠季、新一は出会った、しかしもう今は。
「葉月がいない……だから悠季と新一には本来ならば出会うはずの無い俺との記憶はもう必要ない……か……」
達也がそう呟くと、悠季は不思議そうに達也を覗く。
「てか、なんで私たちの名前知ってんの?」
「ほら……変態だからさ俺、悠季なら知ってるだろ? 俺が変態だって事」
「えっ……何言ってんの? 変態って……てか、君の事を私はまず知らないんだけど……隣町から来たの?」
「…………」
もう、それだけで十分だった。新一も悠季も、もう何も覚えてないんだろう。コスモスも、そして葉月の事も、昨日の夜にバカみたいにみんなでかけっこをしたことも。
達也は再び、歩き出す。先ほどまでの頭痛は今ではもうウソのように治まっていた。
「ちょっとだから座ってなって」
「もう治ったから」
「だからってすぐに動かない方が」
「やめて下さい……もう良いですから……」
「…………」
達也は、悠季に冷たく言い放つ。瞬間、かわいそうかなと思いもしたが、彼は無言でその場を離れた。
もう追ってくる気配はない。
「なぁ、葉月お前はこれで良かったのか……? これがお前の言う幸せってやつなのか……? そんなのってさぁ……そんなのって……」
こんな終りは悲しすぎるから、そんな腐った定めなんて悲しすぎる。
もう頭痛はしない。、しかしこんな状況を思い出すんだったら、こんな腐った運命を思い出すぐらいなら先ほどまでの方がましだった。
彼はため息をつく。
「こんなにどうしようもない状況は久しぶりだ……葉月お前は今どこにいるんだよ……何をしているんだよ……」
空はこんなにも、広くて優しいのに、太陽はこんなにも、美しく簡単に世界を照らしてくれるのに、彼はその景色を見上げると、やり場のない怒りに駆られてしまう。昨日と何も変わっていないから、変わらない日常を象徴してる景色だから。
葉月が消えても、そして仮にもし自分が死んだとしても、この空は、この太陽は、何も変わらないんだろう。きっと何にも変わらず強引に世界を照らし続けるんだろう。そんな事を思っていると、やり場のない怒りに駆られる。そして無意識に地面に落ちている石を手に取り、空に投げよう振りかぶる。
「やめよう……ガキじゃあるまいし……」
達也は石を手放し、家に帰る。
気が付けば、家の前まで戻って来ていた。
「ただいま……」
達也は、リビングのソファーに腰を下ろした。
「ばあちゃん、いないのか……」
と、彼は呟くと先ほどまでの疲れが一気に達也を襲ってきた。次第にまぶたが重くなって来る。
「もう、良いや……一回眠ろう……」
「う……んっ……」
強烈な夕日がリビングの中に差し込んできて、その光で達也は目を覚ます。
「起きたかい?」
ばあちゃんの言葉に、達也はうなづき、ソファーから身を起こす。
「あっタオルケット……かけてくれたんだ……ありがと、ばあちゃん」
ばあちゃんはニッコリと笑いながらテレビのチャンネルをポチポチと切り替えている。
達也は窓から差し込む夕日を漠然と見つめていた。夕日が海を照らし、その光が乱反射して、まるで世界の果てまで続いているかのような一本の海岸線を作りだす。ここ数日過ごした時間の流れの速さがウソの様に思える程、穏やかな時の流れを彼は感じていた
「綺麗だなぁ……」
眠りが深かったのか頭が重い。
「ねぇ……ばあちゃん……」
ばあちゃんは変わらずテレビを見ている。
「俺さ、多分……絶対に手放したらいけない物を手放しちゃった気がするんだよね……いや、そもそも大切って事にすら気付いてなかったかも」
ばあちゃんは急に体を達也の方に向ける。
「なにがあったんだい?」
と、優しく微笑むばあちゃんに達也は口を開く。
「葉月がさ、消えちゃったんだ……もうほんとに唐突の出来事でさ、俺はただ見てるだけで何もできなかった……」
彼は続ける。
「それだけじゃない、葉月が消えてから……ウソみたいに新一も、悠季も全てを忘れちゃってるんだよ……もういろんな事がいっぺんに押し寄せてきて何をすればいいのか分からないって感じ……」
ばあちゃんはその達也の言葉を黙って聞いている。
「さすがの俺でも、悠季と新一の記憶に残ってないのはちょっちきついわ……あんなにいろんな事があったのに、あんなに楽しい日々だったのに、何一つ覚えてないんだよ……葉月はこんな結末でも幸せって言っていたけどさ……」
途端に一気に溢れそうになる気持ちを必死にこらえる。
「「俺にはこんな結末は受け入れられないよ……だってそんなの悲しすぎるじゃんか……切なすぎるじゃんか……悲しいおとぎ話なんていまさら流行らなくね……?」
その言葉に、ばあちゃんは嬉しそうな顔をしながら言う。
「達也はやっぱり変わったねぇ。最初会った時も思ったけど……大人になったよ。昔はあんなに大人しい子どもだったのにちょっと見なくなったらこんなに他人の痛みが分かる子になって」
ばあちゃんはさらに続ける。
「なにが正しいのかなんてのは自分で決める事なんだよ。周囲の雑音なんかを耳に入れてはいけない。自分を見失ってはいけない。自分が見た事、感じた事、それだけを信じなさい。信じれば自ずと答えは見えてくる」
「…………」
いつもと変わらない声色なのになぜか心の奥に届いた気がした。
「自分を信じる、か……。ばあちゃん、やっぱり俺……嫌だ。こんな運命は嫌だ。葉月も悠季も新一も救いたい。みんな……みんな救いたい。欲張りかもしれないけどさ、俺はもう一度みんなそろって、あの場所に集まって、みんなで笑い合いたい」
「うん、成長したね達也。やっぱりカッコ良くなったよ。ばあちゃんの目は間違ってなかった」
「いや、べつにカッコ良くないよ。てか恥ずかしいからやめて」
そう、達也は呟き腰を上げ二階の自室に向かった。
「…………」
自室に入った達也は考える。
どうすればいい。どうしたら再び葉月と会う事が出来るのだろう、どうしたら彼女を復活させる事が出来るのだろう。
そもそも問題は葉月だけではない。
悠季と新一も、さっきまでの自分と同様にコスモスに関する全ての記憶を忘れているんだ。
だとしたら、まずは二人の記憶を思い出させる事が先決ではないのか。
悠季も新一も、大切な友達だ。俺が葉月に願った事で生まれた関係で葉月がいなくなってしまった今、もうあの二人と俺を繋ぐものは何一つないのかもしれない。でもそれは仕方ない事、なぜなら俺達は本来なら出会わないはずの運命だから。
でも。
「俺は自分を信じたい。あいつらを信じたい」
誰にも決して侵される事の無い、心の奥底の自分。
その自分がみんなを救いたいと思った。
全てを知ってしまっても、それでも悠季や新一と友達でいたいと思った。
「葉月……」
彼は、夕焼けに美しく輝き、窓際に飾ってある葉月が作ったコスモスの樹のガラス細工に手を伸ばした。
刹那。
「つっ……!」
頭の中に、何かが強制的に流れ込んでくる。様々な情景が脳にフラッシュバックされる。
そう、それは記憶、そして思い。
達也は瞬時に理解した。
「これは、葉月の思いだ……」
もう、会えないと思っていた葉月がこのガラス細工を通して凄く近くに感じられる様な感覚がした。
とても、綺麗で純粋な彼女の思い、懐かしい感覚。
「そうだ、まだある……。いや、最初からあったんだ、俺たちみんなを繋ぐもの、葉月が消えてもなくならない俺たちの絆」
コスモスの樹。
そう、コスモス。
みんなで作った、約束の証、友情の証。
変わらない太陽や青空と同じ様に、あのコスモスもきっと何食わぬ顔をしてあの場所に変わらず佇んでいるんだろう。
「待ってろよ。お前ら」
走り出していた。
達也は夕日が辺りを照らす中、外に出て走りだしていた。
意味の無い事かもしれない、すごく滑稽な事なのかもしれない。でもやらないよりはましだ、とそう思いながら彼は葉月が残したガラス細工を握りしめる。
一度失った絆を取り戻すため走り出していた。
天原悠季は気晴らしに家の前に出て、夕日を眺めていた。
「綺麗だなぁ……まぁ夕日なんて別に毎日見てるんだけどね」
夕日が海を照らし、その光が乱反射して、まるで世界の果てまで続いているかような一本の海岸線を作りだす。
「今日久しぶりに新一に会ったなぁ」
ここ、最近ずっと会ってなかったからね、なんて彼女は思う。
「そういえば、昼に会った頭痛クン大丈夫だったのかなぁ……とても大丈夫には見えなかったけど」
私から逃げるように走って行くんだもん、ちょっとショックだったし……しかもいきなりガードレールに激しく当たったりもしてた。
「当たった瞬間、グーンってなってたなぁエビみたいに……」
グーンって今思いだすとちょっと面白い。
なんて彼女は思っていると。
「よう、悠季。さっきぶり」
「あっ、頭痛クン。体調戻った?」
達也が現れた、夕日で彼の影が伸びる。手には虹色に輝くガラス細工が光っている。
「あぁ……おかげ様で」
「そう、なにそれ?」
達也の持っているガラス細工に悠季は指を指し言う。
「ハハ、これ知らない? 俺の初めてできた友達がくれたものなんだ」
「ふーん、そうなんだ。てかそんな情報を言われてもぶっちゃけ興味ないけどね」
悠季は冷めた目で達也を見つめた。
「とても大切な友達なんだよ、俺にも……そして悠季、お前にもな」
「なんでそこで私が出てくるのさ、関係ないじゃん。昼間会った時も思ったけど、なんか私の事知っているみたいに言うのやめてくんない?」
「知ってるよ。悠季の事なら」
「うわ……キモっ……マジでそういうの引くんだけど……」
悠季は露骨に嫌悪感を示す。
「歌手になるのが夢なんだよな、あとティラミスを作るのが上手いとか」
「えっ……」
悠季は達也を見つめた。夕日が逆光になっていて眩しく感じる。
「なんでしってるの?」
その悠季の問いなど気にせず、達也はガラス細工を夕日にかざした。
「なぁ、綺麗だろこれ」
「答えてよ」
達也は変わらずに続ける。
「思いが伝わってくるんだよ……透明で、暖かくて希望と優しさに溢れていてさ、それでいて儚くて、すぐにでも崩れてしまいそうな、痛々しい思いがさ」
「だから無視すんなよ」
「今、あいつはどこにいるんだろうな……」
「ちょっと、聞いてんの?」
悠季はいら立ちを隠せない。
「俺の言っている意味が分からないか悠季?」
「だからさっきからそう言ってんじゃん」
「じゃあ教えてやるよ」
達也は、悠季にガラス細工を差し出す。
「触れてみろよ。俺の言葉の意味が分かるから」
悠季は疑っているかのようにおそるおそる手を伸ばしガラス細工に触れた。
「……っ!」
彼女の頭の中に、何かが強制的に流れ込んでくる。様々な情景が脳にフラッシュバックされる。
そう、それは記憶、そして思い。
彼女は瞬時に理解した。
「はづ……き……葉月が消えちゃった……」
無意識のうちに、涙が溢れてくる。
「達也、達也。葉月が……葉月が……」
彼女は泣き叫ぶ。
「葉月が……ウソだよね……嫌だよそんなの、再会したばっかりなのに……もう消えないって言ったじゃん……約束するって言ったじゃん嘘つき……葉月の嘘つき……!」
悠季は崩れ落ちひたすらに涙を流す。
達也は静かに彼女を見つめている。
「…………」
悠季の姿を見て達也は激しく後悔した。
軽率だったと、記憶を取り戻すというのはそういうことだったと。
彼女にかける言葉が見つからない。
ただ漠然と悠季を見つめることしかできない。
「達也……葉月が消えちゃった……」
すすり泣きながら悠季が呟く。
「分かってる……」
努めて冷静な声色で彼は返す。
「私、忘れてたよね……なんでこんな大事な事を忘れてたんだろ……もう意味分かんない……」
「後で全て教えてやるよ、新一がまだ記憶を取り戻していないんだ。だから少しここで待っていてくれないか……」
達也は悠季の目を直視できない。
正直に言うと、彼は迷っている。今の悠季の反応を見て、二人の記憶を取り戻すことが本当に正しい事なのか彼はもう分からなくなってしまった。
「待って……」
悠季は真っ赤な目をこすりながら立ちあがる。
「私も行く……」
「無理しなくて良いよ」
「だめ、私が新一の記憶を取り戻してあげないといけない……」
悠季はその真っ赤な目で達也を見つめている。
「分かったよ、ほら受け取れ」
達也はガラス細工を渡す。
「なんでこんなに暖かいんだろ……なんでこんなに綺麗なんだろうね葉月の思い……。あの子が一番悲しいはずなのにね……」
悠季はガラス細工を漠然と見つめる。
「待っててね葉月」
そう悠季は呟き、新一の家に向かう、達也も少し離れてついて行く。
もううっすらと日が陰ってきてる中、悠季は新一の家の前に着いた。
悠季は当然きょろきょろと周りを見渡す。
「あれ? あいつの自転車がない、部活なのかなぁ」
「もうとっくに終わってるだろ」
達也も辺りを見渡すが見つからない。
「だよね……どこ行ったんだろ?」
悠季は疲れたのかしゃがみこんでしまった。
「…………」
瞬間、不意に一つの可能性が達也の頭の中によぎった。
「なぁ悠季……新一はもしかしてもう記憶を取り戻してるのかもしれない……」
悠季は驚いた表情で達也を見つめている。
「予感でしかないんだけどさ、葉月は悠季と新一の二人と約束を交わしたんだよな、だったらさ悠季が記憶を取り戻した今は……」
「新一の記憶も戻っている可能性があるって事?」
悠季の問いに達也は首を縦に振る。
「行こう。あいつは多分コスモスのところに向かったと思う」
悠季は立ち上がり、二人で来た道を引き返す。
すっかりもう日が暮れてしまった中、悠季と達也は海岸沿いを走る。
「バカだったな……」
達也は走りながら小さく呟いた。
「新一っ!」
悠季が叫ぶ。
うっすらと前方に明かりが見え、その明かりはどんどんと近づいてくる。
「おっお前ら……」
新一だった。彼は自転車から降りる。
「おい、お前ら葉月と一緒じゃないのか?」
「新一、分かってる。落ち着いてよ」
悠季は諭すような口調でいった。
「なぁ葉月はどこにいるんだ? 俺さ、なぜか葉月の事を忘れてた……突然さっき葉月の事が頭に浮かんでさ、自分の目で高台に確かめに行ったら……」
新一はそこで首を横に振る。
「いないんだよ……」
新一は戸惑いを隠せないでいる。
やはり達也の思った通り、彼は思いだしていた。悠季が記憶を取り戻したと同時に彼も記憶を取り戻していた。
「私たちももう知ってるよ新一……だから落ち着いて……達也が理由を知ってるらしいから」
「本当か達也……?」
二人の緊張した視線が達也に向く。
「あぁ本当だ」
達也は語りだした。
「葉月が消えてしまったのは俺のせいなんだ……。実は俺さ、12年前にお前らより少し早く葉月と出会ってたんだわ。その時葉月に、友達になったお礼に願い事を叶えてあげるって言われてさ、ガキだった俺は、友達と一緒に秘密基地が作りたいって言ったんだよ……」
その言葉に悠季は驚く。
「じゃあ、私たちが葉月と交わした約束ってのは……」
達也はうなづく。
「あぁ俺が願ったからなんだ……」
さらに彼は続ける。
「バカな俺はそんな大事な事を一切忘れていてさ、コスモスが完成した瞬間にやっと思いだしたんだわ……。そして同時にコスモスが俺に教えてくれた……葉月が消えてしまうって事を……」
「ウソだろ……おい……じゃあ葉月は」
新一はしゃがみこみうつむいてしまう。
「俺は消える寸前まで葉月のそばにいたんだ。どんどん透けていく葉月を見ておきながら、現実を受け入れる事が出来なくて、立ちすくんでいるだけだった……カッコ悪いだろ」
悠季はもう目じりに涙をためている。
「それで……消えちゃったんだね……」
「あぁ……ハハ、情けねぇだろ? お前らに散々偉そうな事をぬかしといて、いざ自分の事となるとこれだぜ? 多分葉月は感覚的に分かってたんだと思う。自分の存在が消えてしまう事を……」
「私何にも気が付かなかった……」
「いや、悠季お前は悪くない。悪いのは全部俺なんだよ。俺があんな事を願わなかったらこんな事にはならなかったのに……。こんな情けない俺に葉月は最後にありがとうなんて言ったんだぜ……? 笑っちまうだろ……」
「達也……」
そんな達也を見て悠季は何も言えなくなってしまう。彼女はこんな達也を初めてみたから、いつもへらへらしていて、悩み事なんか全くないような奴で、こんな思い悩んだ顔をする様な人間ではないと思っていたから。
「……でもさ、私たちが記憶を失ってたのはなんで……?」
「葉月が言うには、私はこの世界に必要のない存在だから私と関わった記憶は、この世界に必要ない、だから世界に消されるって言ってた……俺も忘れてたし……」
達也は悠季に問い掛ける。
「なぁ俺が記憶を思い出させた事って正しかったか? お前はこれでも良かったと思えるか? 葉月や……コスモスや俺の事を忘れていたとしても、忘れていた時の方が幸せだとは思わないか?」
と、その達也の真剣な問いに悠季は言葉を窮す。
「…………」
瞬間。
新一が達也の胸倉に掴みかかった。
「お前……黙って聞いてりゃマジでムカつくわ……葉月と再会したあの日、お前は俺たちに言ったよな。悲劇の主人公を演じてんじゃねぇって、自分から掴みに行くしかねぇって、お前のあの言葉はウソだったのかよ……?」
「はっ、ぬかせ……それとこれとは話がちげぇだろ。じゃあ記憶を思い出したお前は今、後悔してないのか? こんなつらい現実思いださない方が良かったと思ってんじゃねぇのか?」
達也は冷めた声色で新一に睨みかかる。
「そんな事思って……」
「うそだな、俺はお前らの今の姿を見てとても後悔してる。記憶なんて取り戻してやるべきじゃなかった……」
達也のその言葉に新一は激昂した。
「ふざけんじゃねぇ! 俺は後悔なんて何一つしていねぇよっ。どんな結末だろうとそれが俺の歩んできた全力の証しだっ!一つも欠ける事なんて許さない、全部全部俺の大切な記憶なんだよっ」
そんな新一に達也は動じず、努めて冷静に新一を見つめる。
「別に無理をしなくて良い。俺が悪いんだ……だってさ俺たちは元々出会う運命じゃなかったんだぜ? 現にお前らは俺の事を忘れていたろ……つまりそれは葉月が関わっているからなんだ、葉月が巡り合わせた偽りの出会いなんだよ俺たちは……悪いなこんな事に巻き込んでさ……」
達也のその言葉に、新一は拳を握りしめる。
「おっ、殴るのか……ハハ。そういえば少し前にも丁度ここで俺はお前にボコボコにされたっけな。良いぜこい、それでお前の気が済むのなら俺はまた殴られてやるよ」
「っ……お前……!」
新一が掲げた右手に達也は目をつぶる。
刹那。
「え……」
抱きしめていた。
新一は達也を抱きしめていた。
「きやすく運命なんて言葉使うなよ……出会いが偽りなんて言うなよ……俺も悠季もお前を責めたりなどしない……むしろ記憶を取り戻してくれて感謝してるくらいさ、たとえ出会いが偽りだったとしても、今の俺の気持ちは決して偽りなんかじゃない……」
「…………」
「お前が願ったこの願いで、俺たちが出会えたのなら、俺はお前の願いに感謝したいくらいさ……」
悠季も続いて言う。
「達也この前言ったよね。どういう風に生きていきたいかって事が大事だって……私さ、葉月を含めたこのみんなと生きていきたい……みんなで笑い合って生きていきたい……私がこんな風に思うのは、達也が私に教えてくれたからなんだよ……?」
「…………」
「覚えてる? 私、言ったよね。もう友達だって……。だからさ、そんなに自分を責めないで……私たちは達也が思ってる以上に色々な物を達也からもらったんだからさ……」
「…………」
新一はうなづき、笑いながら。
「俺たちが葉月と出会ったのも、そして再会できたのも全部お前のおかげなんだよ、お前がいてくれたから今の俺達がいるんだ」
新一は達也の肩を掴む。
「らしくないぜ達也……お前はいつも通り、ヘラヘラしてチェケラチェケラ言ってる方がお似合いだ」
達也は少しうわずった声になりながら答える。
「……いやそれはただの痛い奴だろ……てかさ、マジそういう体育会系のノリやめてくんね? マジ寒いんですけど、つーか俺そんなへこんでないしね、ただ少しだけお前らがかわいそうだなって思ってただけで……別に……」
達也は新一から離れ、2人に背を向ける。
「はー……熱い熱い……新一お前いったい平熱どれくらいだよ、38℃位いってるんじゃね? てかあれか? もしかしたら俺がそっち系に目覚めたのか? だとしたらそれはそれでエグい展開……」
など、達也は何やらぶつぶつと呟いている。
「達也?」
悠季が問い掛けるが達也の耳には入っていない。
おい、と言いながら新一が達也に近寄る。
「ダメ、新一」
悠季が新一の服の袖を掴む。
「なんでだよ?」
「達也、多分泣いてる……」
「えっ……」
すると、達也は肩を小さくふるわせながら言った。
「なぁ葉月を救いに行こう……。この悲しいおとぎ話を俺たちの手で書き変えるんだ、おとぎ話はやっぱりハッピーエンドじゃなきゃな」
と、その達也の言葉に新一と悠季は微笑む。
達也は拳を握りしめ、
「これは葉月……お前の物語なんかじゃない……最初から最後まで全部俺の物語なんだよ……待っとけよこの野郎」
と、そう呟き達也は不敵に微笑んだ。