表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

第2章 それぞれの思い

「ここに来て毎日何をしてるの?」

 少女が問う。

 すると少年は、困った様子で言う。

 「別に何もしてないけど……」

 それに少女は言う。

 「じゃあなんでここに来るの……って、あっ分かった! もしかして君は友達がいないんでしょ」

 笑いながら言う。

 それに少年は、顔を赤くしながら、

 「いっ……いるよ、友達くらい……君の方こそ僕がここに来ると絶対にいるじゃんか……」

 と、言う。

 すると、少女が自信満々な表情で言った。

 「だって私友達一人もいないんだもんっ!」

 それに、少年は

 「…………」

 少年は困ってしまう。

 そして言う。

 「んー、なんて言うんだっけ……こうゆう時……あっ思いだした」

 少女に指を指しながら言う。

 「痛々しいよ……」

 すると、少女は。

 「グサッ! ひどい、今傷つきました私……エーンシクシク……」

 そのわざとらしい演技に少年は思わず笑った。

 それは少女の前で初めて見せる笑顔だった。

 そして言う。

 「僕が、君の初めての友達になってあげる」

 「…………」

 少女は、少し止まる。

 そして、言う

 「ほんとっ!?」

 「うん、ほんと」

 「まじでっ!?」

 「うん、マジで」

 「正気!?」

 「正気だよ……」

 などと、意味不明なやり取りをしながら少女が小指を突き出す。

 「約束しよっ」

 すると少年は小指を差し出しながら言う。

 「普通、友達の約束なんてするのかなぁ……」

 「常識にとらわれてたら、つまんない大人になるよっ」

 「意味分からないよ……」

 そして約束を交わす。

 「指切ったっ!」

 それは少女の初めての友達。

 それは少年の初めての友達。

 「じゃあ、私の初めての友達になった君には、お姉さんが特別なプレゼントをあげよう」

 胸を張り言う。

 「なにをくれるの?」

 少年が言う。

 すると、少女はニヤニヤしながら言う。

 「聞いて驚くなよ……なんと君の願いを一つ叶えてあげるのです、えっへん!」

 「……うそくさ」

 「うそじゃないっ、ほんとなのっ」

 「絶対ウソだよ、この世は全て需要と供給で成り立ってるんだよ、なのにそんな一方的に与えてもらえるのなんて信じれるわけないよ」

 「うるさいよっ」

 コツ!

 少年の頭をこつく。

 「いいから、お姉さんに言ってみなさい、その願い叶えてあげるから」

 すると、少年は、

 「…………」

 困ってしまう。

 叶えて欲しい願いそれは確かにあるのだが、言うのが恥ずかしい、とてつもなく恥ずかしい。

 「ほら、早く教えてよ」

 少女がニヤニヤしながら言う。

 そんな態度で来られると尚更恥ずかしい。

 「分かったから、言うから、そのニヤニヤするのやめてよ」

 それに、少女は

 「分かったよ」

 という。

 そして少年は言う

 「僕の願いは…………」

                                   ・

                                   ・

                                   ・

                                   ・

                                   ・

 強烈な光から視界が晴れた時、最初に見たのは新一と悠季それに、見知らぬ女だった。

 顔はどうだろう? まぁ可愛い。 悠季とは少しベクトルは違うが、それでも見劣りする事の無い、美しく無邪気に笑う笑顔が特徴の女。

 背中まで伸びる黒くて艶のある美しい髪、くっきりと女性らしい瞳、ワンピースのような少し変わった服を着ている。

 悠季と新一に優しく何かを話しかけている。

 それを彼は、

 「…………」

 達也は、見つめる。

 そして思う、

 な……なんか意識が戻ったら急にこんな感動の再会みたいになってるやん、笑いは? 笑いはいらないのか?

 など思う。

 だか、目の前に心から満面な笑みを浮かべる3人を見て。

 「必要ないか……てか俺邪魔だな……」

 そう言って気付かれないようにその場を後にする達也。  

 その時、少しだけ羨ましいと思ったが、その気持ちを心の奥に押し込めた……。

 そんな達也の後ろ姿を悠季は見つめる。

 あいつが本当に葉月を召喚したのだろうか? それともあいつは関係ないのか?

 と、悠季は思う。

 だが、

 「…………」

 今だけは……。

 今だけは少しだけ感謝しよう。

 悠季はそう思い、再び喜びを分かち合った。






 「眩しい……」

 日差しが顔にあたり、目が覚める。

 すると横に、2人の女が気持ち良さそうに寝ている。

 「葉月に、悠季……あぁそうか、そのまま寝ちゃったんだっけ昨日」

 と言いつつ伸びをする新一。

 そして昨日の事を振り返る。

 本当に不思議な夜だった。

 悠季が泣いていた、それに俺は何もすることができなくてただ励ますだけで……するといきなりあいつが現れたんだっけか……

 あいつは怒っていたな、お前ら甘えてんじゃねぇとか言って、そして……。

 そしてあいつが葉月を召喚した、まぁ本当かどうかは分からないが……。

 でも結果として、今俺たちは再会している……。

 「…………」

 なんなんだよあいつは……今まであんなフワフワした奴と出会った事ない、ほんと不思議な奴だぜ……。

 俺は、あの時何もできなかった……。

 でもあいつはいきなり俺たちと葉月を再会させた、待ってるだけだった俺たちに、自分で掴めとそう言いながら。

 「てか今何時だ」

 携帯を見る。

 「やべぇ、午後練に遅れるっ」

 そう言い立ち上がる。

 すると、悠季が目を覚ます。

 「あれ……? 新一……あっこのまま寝ちゃったのか」

 ふわふわした様子で呟く。

 それに新一は言う。

 「わりぃ、起しちまったな。俺は部活があるから帰るけど、どうする?」

 「うーん……そうだね私も一回帰ろうかな……」

 そう言い、悠季は再会した彼女を、

 葉月を見つめる。

 「かわいい……寝てるよ、ねぇ新一、葉月寝てるよ」

 「そりゃあ、寝るだろ……起こしちゃ悪いから早く行くぞ」

 「うん」

 そして2人は高台を去る。

 海沿いを歩きながら悠季は新一に話しかける。

 「ねぇ、昨日の事なんだけど……」

 「あいつの事か……」

 「うん、本当にあの変態が葉月を召喚したのかなぁ……?」

 「さぁそれは分かんねぇ……」

 「気にならない?」

 「まぁ気になる」

 そして彼女は言う。

 「あいつを私たちの約束に巻き込むってのはどう?」

 それに新一は、

 「絶対それ言うと思ったぜ、まぁお前が言うなら俺は何も否定しねぇよ」

 と笑いながら言う。

 「私誘ってみるね、おしっ、じゃあまた夕方にあそこに集合でっ!」

 悠季は家に戻る。

 そして新一も走って家に帰り、急いでスポーツバッグを持ち学校へ向かう。

 




 「10分遅刻か……」

 ストレッチをしながら新一は呟く。

 その新一を見つめる、ぼさぼさ髪の男と坊主の男。

 「おい、神楽部長遅刻してきたぜ」

 「また、あの連れの女とイチャイチャしてたんじゃねーのっ」

 「ばかっ……部長に聞こえてたらどうすんだよ、お前またコンビニの時みたいに胸倉掴まれるぞ」

 「ハハ、もし次また来たら俺も容赦しないけどね」

 そんな声が聞こえる。

 「…………」

 新一は思う。

 まだ懲りてないのか? あの2人はこないだコンビニで会ってきつく言っといたつもりなのだが……ほんとゴミみてぇな性格してるぜ2人とも。

 するとまたその2人は。

 「てか、部長が遅刻とか珍しくね?」

 「うん。友達と遊んでたんじゃねーの……?」

 「バカ、部長は友達一人もいねぇから、帰る時も学校の時もずっと一人だろ、可哀そうだからそうゆう事言ってやんなって」

 「あぁ……わりぃわりぃ」

 「たっくお前は……」

 楽しそうに話す二人。

 そして練習が終わる。

 新一が2人に詰め寄る。

 「おい……おめぇら」

 そして…………。

                              ・

                              ・

                              ・

                              ・

                              ・

 「じゃあ、あの変態野郎の家にでも行こうかな」

 天原悠季は、達也の家に向かう。

 「てゆうか……あいつが、いまだに絹枝おばあちゃんの孫とか信じれない」

 「なんであんなに優しいおばあちゃんがいるのにあんな低俗な男になるんだろ」

 そうブツブツと呟いてると、達也の家の玄関に着く。

 「おじゃましまーす……」

 そして入る。

 すると目の前にあの変態がいた。

 「うわっ! びっくりした……いきなり入ってくんなよお前、そうゆう田舎くさい文化とかやめろってマジで」

 達也が言う。

 すると悠季は冷めた視線で、

 「……てかあんたお風呂入ってたの?」

 と言う。

 少し濡れた髪に腰に巻いてあるタオル、いかにもそれである。

 すると達也は急いで二階に駆け上り、

 「どうしたんだいきなり?」

 Tシャツにジャージとラフな格好に着替えてきた。

 「まぁ、とりあえず中で話ししたいんだけど……」

 悠季が言う。

 「あぁわりぃ……入れよ」

 リビングに案内する。

 「で?」

 達也が問う。

 それに悠季は改まった様子で、

 「あんたってさぁ超能力とか持ってるの?」

 など、とても抽象的な事を言う。

 すると達也は言う。

 「あぁ持ってるぜ」

 それに悠季は、

 「うそくさ……じゃあ今なんかやってみてよ」

 と言う。

 「あぁ良いぜ、じゃあ今から、目の前にいる小学生がどんなパンツを穿いてるか透視して……」

 ガスッ!

 「えぇ……超能力なんて持ってないですよ僕は……」

 「最初っからそう言えよ」う。

 「もういい……率直に言う。私たちと一緒に秘密基地作るの手伝って」

 そう言われた達也は一瞬驚いたがすぐに。

 「良いよ」

 呆気無く了承した。

 達也も何故あんなでっち上げな行動で葉月を呼び寄せれたのかが不思議でたまらなかったのだ。


 







 「そろそろ用意していくかな」

 達也はそう言いつつ、あの武士道ジャージを穿く。

 「これ意外に足にフィットするんだよね」

 外を見ると、もう日がうっすらと傾いている。

 そしてあの高台に向かう。

 「眩しいな……」

 夕日が、もう視界いっぱいに入ってくる。

 林道の中を入っていき、するともう3人はそろっていた。

 「遅いっ!」

 「お前だろ……」

 新一が突っ込む。

 そのやり取りに悠季は無視をして言う。

 「ねぇ、達也この子紹介するね、名前は葉月って言う……」

 と言いかけている時に……。

 「ヤッホー! 私葉月って言いますっよろピコ!」

 そう言い、握手を求めて来る。

 それに達也は、

 「…………」

 一瞬、どうすればいいか困る。

 こいつ、俺を試しているな……たっく、清楚そうな顔をしてよぉ……しょうがねぇ……ここは俺がカウンターとして一発。

 そう思い彼は言う。

 「俺、夏目達也よろシコッ! いきなりで申し訳ないんですけど、スリーサイズを教えてくださいっ! コマネチっコマネチっ……」

 決まったぜ、クリティカルヒット。いきなりスリーサイズを聞いて尚且つコマネチまでやる、もう自分でも意味分かんないこの俺の世界観についてこれるはずがない……悪いな、新入り。ここは純粋に経験がモノを言う……

 と思いかけた刹那。

 「えーと、スリーサイズは上から82-59-84かなっもう言わせないでよっはずかし\\\」

 逆にカウンターをされる。

 すると達也は。

 「えっ……普通ほんとに言わないよね……」

 続けて、

 「やべぇ……こうゆう返しの時の引き出し俺持ってないんだけど……」

 と言い新一を見つめる。

 「いや、おれを見んなよ」

 冷静に言う。

 すると、悠季が、流れを無視して。

 「てゆうか、どんな基地を作るか全然考えてなかったね……どうする?」

 と言う。

 それに葉月は言う。

 「それなら、お姉さんに任せなさいっ」

 胸を張る。

 そして人差し指を空にかざし、文字を描くように動かす。

 すると。

 「……っ!」

 3人は驚いた。

 「な、なんだよこれ」

 達也が言う。

 自分の頭の中にどんどんと強制的に入ってくる情報。そして見えてきたのは。

 「秘密基地……」

 悠季が言った。

 それは、この空間の中心に位置する、樹の幹の上に小さい子供が、入れそうな小さな家があり、そして申し訳程度のブランコ。

 「すげぇ、頭の中に写真で撮ったみたいに、くっきりと分かる」

 新一が驚いている。

 それに葉月は、

 「にゃはは、どう? 少しは驚いた? 魔法使いっぽくないこれ?」

 とニヤニヤしながら言う。

 すると達也は、

 「いや……おれはこんなんじゃまったく驚かない、まだB級ホラー映画の方が全然驚くわ」

 それに新一は言った。

 「いや……お前足震えてんじゃん……」

 「あぁ……これはあれだよ、あの……携帯のバイブ」

 そんな、言い訳に悠季は

 「あんた、何強がってんの?」

 などと言う。

 何も返せない。

 そして、達也は話を変えた。

 「てか、なんでそんなに秘密基地を作りたいんだ、新一」

 それに新一は驚き、

 「さぁ、それはわかんねぇ葉月に聞いて」

 すると葉月は、にた~と笑いながら、

 「それが忘れちゃったんだよね」

 と言い続けて。

 「まぁ、思い出作りにはなるじゃん」

 と、笑いながら言う。

 それに悠季と新一は笑いながら頷いた。

 しかし達也は、

 「いや……全然ならねぇよ、めんどくせぇし、俺やる気の無い現代っ子代表だからさ……」

 と、話の流れを断ち切るかのように言う。

 それに悠季は言う。

 「あんた空気読みなよ……」

 「空気と教科書は読まないようにしてるんだ」

 自信満々に達也は言う。

 「ププ」

 葉月が笑う。

 「いや……笑ってんじゃねーよ葉月、お前の夢の中に登場したろか」

 「アハハ面白いな~達也は、2人ともよく笑いを我慢できるよね」

 そう言って、笑いながら新一と悠季を見る。

 すると2人は言う。

 「全然こいつ面白くねぇから」

 「だよね、基本下ネタばっかりだし……」

 冷めた表情で言う。

 それに達也は、

 「いや……おもしれぇから俺、てか下ネタばっかりとか言うのやめろよ傷つくから、主に作者が」

 そんなやり取りを見て葉月は笑う。

 そして言う。

 「アハハ、じゃあ早速今日からやってこうよ、そうだなー私と悠季はこの辺りの草刈りするから、達也と新一はなんか使えそうな材料集めてきて」

 「可愛く『お願いニャン』って言ったらいいよ」

 達也が試すように言う。

 「お願いニャン\\\」

 可愛く言った。

 「……やべぇ、マジどうする新一? こうゆう時どうすればいいか説明書に書いてない?」

 「そんな説明書ねぇから……」

 と言いつつ辺りを散策しに行く2人。

 その2人に葉月が、

 「日が暮れる前に戻ってきなさいよー」

 と言いそれに達也は、

 「了解だっちゃ」

 と言い辺りを見渡す。

 「おっ……ねぇ見てみて新一」

 達也が木の枝を拾い野球のポーズをとる。

 「クロマティ」

 「……いやクロマティはシュール過ぎるだろお前……」

 続けて。

 「てかお前野球部なの?」

 と辺りを散策しながら言う。

 すると達也は、

 「そこ聞く? 帰宅部に」

 と言い続けて。

 「俺さぁそこだけがちょっと後悔してんだよね……なんつーの部活ってさぁ練習辛いし、夏は暑いし、冬は寒い、しかもキツイ練習したからといって必ずしも試合とかに出れるわけでも無いじゃん」

 新一は、まぁそうだなと言い変わらず辺りを見渡している。

 「今、中学の頃を思い出してもなんであんな無意味な事をしたんだろうって思うんだよね、でもさぁこう今思い返しただけでもさぁ」

 突然笑いながら。

 「自然とにやけてくるんだよ」

 と、そして言う。

 「特にその、同じ仲間たちとの思い出とかさ……でもいつもそうゆうのって後々になって気付くんだよ、高校入学当初の俺は何も考えていなくて……気が付けば今の状態ってわけ、まぁバイトとかはしてるけど……そんな熱中出来るもんでもないし……そうゆう意味でお前とか悠季とかは、なんつーの……その……全力っつーか、すげぇ人間的魅力に溢れてるっつーかな」

 それを聞いた新一は少し驚いた。

 何にも考えていなくて、いつも適当で……ヘラヘラしてる……。

 そんな奴だと彼は思っていたから、

 「…………」

 でも違った。

 こいつが言った事は自分に対する後悔。

 だがなぜだろう、不思議とかっこいいと思ってしまった。

 そして言う。

 「お前って何も考えていないようにみえて意外に考えているんだな」

 その言葉に達也は少し笑いながら、

 「まぁエロい事に関しては殊更よく考えてるな、昨日も悠季ちゃんの未発達な……」

 と言おうとするが。

 間髪いれずに新一は、

 「悠季に密告しとくわ」

 と、笑いながら言う。

 すると達也は、

 「いや、男同士そこは空気読めや、それともあれか、お前は俺が悠季のメガトンキックをくらってパンパンに腫れて外人ぐらい高くなった鼻を見たいのか?」

 と、やけに冷静に言う。

 が、 それに新一は言う。

 「ちょっと見たいな……」

 「お願いします、勘弁して下さい。」

 「ハハ」

 とそんなやり取りの中。

 新一は達也が先ほど言った事を考えてみる。

 あいつは俺を魅力的といった。

 あいつは部活をやればよかったと言った。

 部活? 同じ仲間たち? ハハ……。

 そして呟く。

 「部活なんてくだらねぇ集まりだよ……」

 そう呟いた……。

 







 「もうっ最悪っ! こんなに汚れるんだったらジャージとかで来ればよかった」

 悠季はお気に入りのチェックのスカートに付いた泥を落としながら言った。

 その悠季の姿を見て、葉月は笑いながら言う。

 「アハハ、悠季が泥だらけだとなんか昔を思い出すよね」

 「昔?」

 「うん……ねぇ覚えてる」

 とそう言い、葉月は夕日を見つめながら言う。

 「毎日、毎日悠季と新一が朝からこの場所に来てさ……追いかけっことか、かくれんぼとかやって……今思うとなんであんなに楽しかったんだろうって思うくらい毎日楽しくって、それこそもうこのまま時間が止まってくれって思うくらいでさ……」

 それに悠季も夕日を見つめながら。

 「うん……楽しかったなぁ、あの頃は……もっとずっと、今より世界が単純で……何にでも感動できた」

 「アハハ、やっぱり楽しいとか面白いって思う気持ちは大事だよ。笑ってる時とか、わくわくしてる時ってさぁ……楽しいと思うのと同時に一番自分らしく輝いている時だと思うんだよね」

 その言葉に、悠季は葉月の顔を見つめる。

 「葉月は詩人だね」

 それに、葉月は嬉しそうにして、

 「だてに、精霊やってないからねっ!」

 胸を張る。

 すると悠季は驚いたように、

 「えっ!? 葉月って精霊だったの? 幽霊かと思ってた……」

 と真顔で言う。

 「ひどっ……幽霊ってまだ死んでないから私……」

 「アハハ……ごめんごめん葉月」

 すると突然思い出したように言う、

 「てゆうか、昨日は会えたのが嬉しくて聞けなかったけどさ、葉月は今まで何をしてたの」

 続けて。

 「仲良くなったと思ったら、いきなり消えちゃって毎年、葉月が消えちゃった日にこの場所で待ち続けたけど、全然会えなくて……」

 と、そこで話すのをやめる。

 すると葉月は、

 「ごめんね」

 と、一言だけ言った。

 いや、それだけしか言えなかった。

 自分自身、彼女の疑問に答えてあげたいと思うが、自分自身も何をしていたのかなんて覚えていなくて全てが霧に覆われているようなそんな状態なため、葉月はただ謝る事しかできなかった。

 悠季はそんな葉月を見つめて、

 「い……いや、そんなに真剣に謝らないでよ……なんか私がワルモノみたいじゃん」

 続けて言う。

 「ただ……一つだけ約束して欲しいんだ……もう私の前からいなくなるなんて嫌だからね」

 それに彼女は、

 「うんっ」

 と答える。

 するとおもむろに悠季に近づき、

 そして。

 「悠季可愛いっ!」

 と言い抱きつく。

 「もうほんと、可愛いっ! 好きすぎて気が狂いそうっ! チュッてしていい? ねぇチュッてしていい?」

 と、かなりの勢いで言う。 

 そんな事を言われて悠季は、

 「キャッ、ちょ……ちょっと何やってんのっ、くすぐったいよ」

 などと言いじゃれあっている。

 刹那。

 パシャ。

 響くシャッター音。

 「いやーいかに自分が良い時代に生まれたか実感したね。だってこの携帯のおかげで悠季ちゃんのこんなにかわいい笑顔を保存できるなんて、もう一億総カメラマン時代万歳っ! て感じだよね」

 と達也は新一を見ながら言う。

 そして見られた新一は冷めた目で彼を見つめながら。

 意味深に、

 「お前……」

 と呟く。

 瞬間。

 悠季が目にもとまらぬ速さで達也に近づき、男のシンボルを思いっきり、

 蹴りあげる。

 「トッ……トッピロキーーーーーーーー!!!」

 達也は叫んだ。

 しかし悠季は止まらない。

 すばやく彼の携帯を奪い取りデータを消す。

 すると達也が悶えながら言う。

 「あぁ……今夜のおかずがぁ……」

 それに悠季は見下ろして、

 「ゲス野郎……」

 と言い放った。

 するとそんな様子を見て、

 葉月は自らの太ももを軽く露出させる。

 そして、赤面しながら。

 「少しだけなら……」

 と呟く。

 が。

 「それはいいわ……」

 間髪いれずに達也が言う。

 葉月は大爆笑した。

 「アハハ、ほんと達也って面白いねっ! 笑いを完全に理解してるよアハハ」

 と、そんな理解不能な様子を新一は見つめる。

 そして、

 「すげぇよこいつら……」

 と意味深に呟いた。

 そして気が付くと日が暮れていて。

 葉月は言う。

 「じゃあ続きは明日だね」

 それを聞いた3人は頷く。

 「また明日」

 達也はそう言って歩き出す。

 それに新一と悠季もついていく。

 「やっぱりあんたって変態ゲス野郎だよね……マジ最悪」

 悠季は達也に言う。

 「ちげぇから、あれはただのボケだからあのくだりが終わったら消そうと思ってたし」

 「絶対ウソ、なんかたくらんでた顔してたもん」

 「してねぇから……お前マジあんまり調子こいてると、後ろから優しく抱きしめて『愛してる』ってささやくぞオラッ……」

 「あんたそれ、モテない男の考えじゃない……」

 「あん? お前さぁ俺がいなかったら葉月と再会出来なかったってのに……その言い草はないわ……」

 「うぐっ……それを言われると……」

 少し驚いた様子で言う。

 それを見た達也は、

 「まぁ……そうだな、少しでも感謝の気持ちがあるのならここは体で払って貰おうか」

 しかしそれに悠季は答えない。

 「おい、ちょっといつものムエタイキックの下りはどうしたんだ……」

 と達也はいう。

 が、目の前に。

 目の前に2人の男が立っている。

 達也はこの2人を知っている。

 昨日コンビニにいた2人だ……。

 そう思う。

 そして、そのうちの一人ぼさぼさ髪の男が口を開いた。

 「神楽部長……あの……俺らが悪かった……」

 それに新一は、

 「…………」

 答えない。

 「いや……無視しないでください、その俺らも調子に乗ってたっつーか……反省してるんだ、だからもう一度チャンスを下さい」

 「失せろ……」

 冷たく言い放つ。

 ここで引いたらいけないと判断したのか隣の坊主頭の男も言う。

 「頼みます。もう一度だけお願いします部長」

 刹那。

 新一は坊主男を殴る。

 そして派手に後方に吹き飛ぶ。

 「テメェ、都合が良すぎねぇかオラ……昨日も言ったよなやる気がないなら来なくていいってよ。全然反省してねぇじゃねぇか」

 新一は言う。

 しかし坊主頭の男は答えない。

 いや答えられない、殴られた時のダメージで意識が朦朧としている。

 しかしそんな事は関係ないと言わんばかりに彼は続ける。

 「ムカつくんだよ、テメーら……自分たちが大会で結果出せないからって、俺の事陰でグチグチ言いやがって、陰で言うことしかできねぇのか、情けねぇ……昼と同じことをもう一度言ってやるよ、お前らに陸上をやる資格はないからやめろ」

 その言葉に、ぼさぼさ髪の男はひどくイラついた様子で見つめる。

 その様子を見た新一は、

 「あん? んだよその目は……その生きがった態度がムカつくんだよ……!」

 と言いまた殴りにかかる。

 瞬間。

 「キャー!」

 悠季の悲鳴が響き渡る。

 達也が悠季のスカートをめくり上げていた。

 その悲鳴に新一は慌てて振り向く。

 そして達也が言う。

 「い……今時、水玉模様とか……どんだけ健気なんだよお前……」

 と間抜けな事を言う。

 しかしそんな事はどうでもいいのか新一が言う。

 「何やってんだよお前」

 「いや、こうでもしないとお前また殴ってただろ……俺の機転の利かせ方おしゃれだろ……?」

 「そんな事聞いてねぇ、何やってんだよ……?」

 新一が低い声色で言う。

 それに達也は言う。

 「何やってんのはお前だよ新一」

 それに新一は何かを言おうとするが、それを無視して。

 「陸上やる資格ないからやめろって……ハハ、俺からしたらお前がやめろって感じだけどな」

 すると新一が達也の胸倉をつかみ言う。

 「何なんだよお前、昨日から俺の言う事に真っ向からして来てよ……ムカつくんだよ」

 完全に激昂している。

 そして、達也の頬を捉える。

 達也は、面白いように後ろに吹き飛ぶ。

 「っ……」

 そして歪む視界の中思う。

 俺は、何をするために帰って来たんだよ、少なくとも殴られるためではないんだけど……悠季はどんな表情で見てるのかなぁ? あれ、今俺武士道ジャージ穿いてるっけ? 

 など、そんな事を考えているとなぜか笑えて来て……。

 そして叫ぶ。 

 「何度でも言ってやるよ、お前にスポーツをやる資格なんてねぇんだよっ!」

 がしかし。

 「うるせぇっ!」

 再び達也の頬を捉える。

 「…………」

 かわいそうな奴だな……と達也は心底思う。

 多分きっと……こいつは陸上一筋で生きてきて……陸上が自分の唯一の居場所で、陸上だけが自分の存在を確かなものにしてくれる……すげぇよ……ほんとすげぇよお前、そんなにストイックな奴初めてみた。

 それ故に周りとの温度差に腹が立ち、より孤独になる。

 そんな彼の生き方を知って。

 そんな不器用な彼の生き方を知って。

 達也は、

 「…………」

 壊したいと思った。

 「人間ってのはよ……ゲスな生き物なんだよ……自分で理解してても、妬みや恨みなんてもんは持っちまうんだよ! そんな奴らの相手をしてたらお前までそいつらと同じになっちまうぞ!」

 それに新一も負けじと叫ぶ。

 「……っ、お前みたいになぁ……適当に刹那的に生きている人間には俺の気持ちなんて分からねぇんだよっ!」

 殴る。

 感情の赴くままに。

 自分の生き方を証明するように。

 殴る。

 その、拳を達也は全てもらう。

 そして新一は渾身の一撃を放とうとする。

 しかし、

 「…………」

 新一は恐怖した。

 もう何度目だろうか、何発も殴っているはずなのに、

 なのに達也は。

 いくらでも受け止めてやる、とそんな風に思わせる目で新一を見つめている。

 その目が、その覚悟が新一に流れ込む。

 激昂していた、心が一気に冷静になっていくのが自分でもわかる。

 すると、さすがにもう限界が近いのか倒れている彼が弱弱しく呟く。

 「なぁ……新一、別に後輩に優しくしろとか……そうゆう事じゃないただ、もっと広い視野を持ってくれよ……お前のその狭い世界で全てを決めるのは早すぎるんじゃねぇか……」

 その言葉を新一は黙って聞く。

 「お前は、もっと上に行かないといけねぇんだよ……そしてお前には上に行ける力がある」

 「…………」

 新一は不思議に思う。

 今まで自分の周りにはこんなに自分に興味を持ってくれる人などいなかったから。

 こんなに自分の考えとぶつかる奴などいなかったから。

 「なぁ、お前はなんでそんなに俺を気に掛けるんだよ……」

 考えていた事が、気が付けば口に出ていた。

 すると達也は驚い様子で、

 「えっ!? なんでって聞かれても……やっぱお前と悠季が好きだからかなぁ……」

 その何のひねりも無い返答に新一は思わず。

 「ハハッ」

 と笑ってしまう。

 「何だよそれっ、たったそれだけの理由でお前はこんな状態になってんのか意味わかんねぇよお前っ」

 そして、一粒の涙がこぼれる。

 その大きい肩が小さく震える。

 「たったそれだけの理由で……こんな体の状態になって……っ……」

 目に涙を浮かべ言う。

 「悠季の言った通り、お前は本当に変態野郎だぜ、いいぜ分かったよ、こいつらをまた部員に戻してやる……そして葉月との約束、それにお前も最後まで携わっていてくれないか」

 すると達也は。

 「ハハ」

 と笑いながら立ち上がり言う。

 「いやいや……とりあえずお前、涙拭けや……たくっお前が泣かなかったらいい感じに青春っぽい感じになったのに……マジ悠季といいお前といい……なんでそんなに泣くんだよ……マジ安っぽくなるからやめろや」

 と言いつつ、卑しい笑みを浮かべ言った。

 「あと、俺は男でも全然ありだぜ新一」

 するとそれに悠季は、殊更に冷めた態度で、

 「気持ち悪……」

 と言う。

 そして、本人を除くその場にいる全員が笑った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ