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第1章 ふたつのサイカイ

 彼方、水平線の境界をくぐるように、かもめは水面のぎりぎりを飛んでいた。

 いつもの道を抜けた、いつものこの場所。

 何もない、絶え間なく茂る木々だけが映る空っぽなこの場所。

 空虚すら漂う隙間もなく、またそんな意識なども潮風にさらわれていってしまう程に

 空っぽなこの場所。

しかし、この日は異なっていた。


 「なにしてるの?」

 少年が呟いた。

 すると木の上から見下ろしていた少女は

 「Hなこと」

 といたずらな瞳でそう言った。

 それに少年はは困った素振りでえぇ……と呟いたがそれを無視して少女は

 「君は何をしてるの?」

 なんて言う

 「別に何もしてないよ、ただ……」

 「ただ……?」

 「この場所は僕の秘密の場所だから……」

 「だから……?」

 「知らない子には来て欲しくない……」

 すると少女はいきなりアハハと笑いだし

 「じゃあ、友達になろうよ」

 なんて言う、それに少年は

 「…………」

 どうすればいいのか困ってしまった。

 それに少年は…………。

 

 そこから始まった。




 



 「キャッ!!」

 突然そんな声が聞こえて夏目達也は重いまぶたを開ける。優しいすずらんの香りに自然と意識が覚醒していく。

 そして自分がバスの中で気持ちいい日差しによって無意識のうちに寝てしまった事と今、猛烈に隣の見知らぬ女の肩にもたれ掛かっている事に気が付いた。

 「…………」

 そして、さぁどうしよう、と冷静に考える。

 今この瞬間に慌てて起きて謝るか? いやそれだと自分が故意にやってしまったと認めてるようなもんじゃないか、そうだここはこのバスの揺れを使って自然に元のニュートラルな位置に戻るんだ、そうすればモウマンタイ。

 と、思考をまとめ終わった刹那。

 達也の痛覚に雷鳴が轟いた。

 その女の鋭い肘打ちが達也の顎を振りぬいたのだ。

 あまりの痛さに達也は

 「ごめんなさいっ、悪気はないんです、マジ勘弁して下さいっ」

 と言い残し、丁度バス停に停まったバスから急いで切符を運転手に渡し、降りた瞬間にバスとは反対の方向に駆け抜けた。

 「ハァハァ」

 達也は走る、そう何かから逃げるように、いやその何かは分かっている、そう紛れもなく痴漢の冤罪から逃げてるのだが、その状況に達也は

 「痛すぎて白目向きそうになったぜ……」

 と間抜けな事を言いながら走り後ろを見つめる。

 するとゆっくりと重いエンジン音を発しながら再びバスは発車した。

 達也は立ち止りどうだと、言わんばかりの笑みを浮かべ、そして言う。

 「さすが我が故郷、時ヶ丘……容赦ないぜ」

 Tシャツをパサパサさせながら周りを見つめた。

 「…………」

 達也は自嘲気味に笑いそして思う。

 あれ? ここどこ? 道と木以外何もないんだけど、そうだこんな時はバス停だバス停の名前を見よう、さすが俺グッジョブおれ。

 彼はバス停を見つめた、そこには白浜と書いてある

 「あー白浜ね、じゃあ時ヶ丘までえーと……5つ? えっ!? マジッすか先輩? そんなに遠いの……?」

 ひどく失望した。

 

 痴漢に間違われて、尚且つ今のこの状況と来て達也は

 「ハハ、いきなり俺すげぇ可哀そうじゃね? しょうがねぇ歩いていくか」

 と自嘲気味に笑いながら歩き始める。

 しかし、そんな心に陰った暗雲は殊の外早く、目の前の木々をひとつふたつ抜けた所で見えた海原が吹き飛ばした。

 その圧倒的な光景に達也は息を飲んだ。

 日本海特有のごつごつとした岩が見渡す限り海岸線を埋め尽くしていてそれに達也は。

 「うわ……ぜんぜん海水浴する気になんねぇ……俺の想像と違ってたし、もっとビキニとか焼きそばとか砂浜とか想像してた俺がバカだった」

 と、諦念が声となり漏れる。

「よく考えたら道内にそんなとこねぇよな、てかだんだん思いだしてきたんですけどこの光景、この目の前に広がる海そして道路を挟んで後ろに広がる山、うんやっと帰ってきたよ我が故郷、時ヶ丘やっぱ良い町だよ、うん……この、人がほとんどいない感じもすげぇ好きだし、この昔と比べて、なんちゃって道路が舗装されてる感じとか最高だな、うん」

 そして一呼吸置いて言う。

 「ちょー帰りてぇ……」

 まず、やっぱよく考えて行動しんといかんよな、故郷とか言ってもほとんどこっちで過ごした事覚えてねぇし、こっちに友達なんて誰一人いないし……訛りがきつくてみんな何言ってるかわからんし……なんて少しだけ思う。

 そんな憂欝な気分のまま目の前の石を蹴飛ばした。

 すると遠くの方から声が聞こえる。

 「おーい、てっくんけぇ、てっくんけぇ」

 その瞬間達也の顔に笑みが零れる、なぜなら彼の記憶の中に自分の事をてっくんと呼ぶ人物など一人しかいないから。

 「ば……ばあちゃん」

 彼は走りだしていた、この押しつぶされそうな孤独の中で見つけた唯一の光だったから。

 そうこの景色だ、この家も、このばあちゃんの軽トラもそう全部あの時と変わっていない……やっと帰ってきたんだ、達也はそう思った。

 グニュ。

 「えっ……」

 刹那、達也の視界は上を向いた。

 そして叫ぶ。

 「さっきの石はこの展開へのフラグかーーーーい」

 その叫びは夏の高すぎる空に消えていった。

                                 ・

                                 ・

                                 ・

                                 ・

  古めかしい、木造の家屋。

  彼が出て行ったあの日のままこの家は変わってはいなかった                               

 「いてて……」

 達也は先ほど転んですりむいてしまった肘をさすりながら呟いた。

 それにばあちゃんは笑って

 「てっくんは昔からドジだったからねぇ」

  と、微笑んで絆創膏を患部に貼る。

  俺って昔ドジだったのか、などと思いながら、達也は

 「ありがと」

 と言った。

 そして、持ってきた旅行バックを担ぎあげて。

 「よしじゃあちょっち荷物置いてくるわ、部屋の場所はかわってないよね?」

 達也の言う部屋の場所とは、2階の和室であり、時ヶ丘にいた十二年前、そこが自分の部屋だった。

 その問いにばあちゃんはにっこりと頷いた。

 そして達也は2階に上がり部屋をみる。

 「…………」

 うわー我ながら無機質な幼少期を送ったもんだなーと達也は思う。

 そうあの頃と確かに変わっていないのだがその部屋に置いてあるのは、小さいテレビと、あんまり痛んでない畳、それとタンスだけでとても幼い子どもが住んでるような部屋には見えなかった。

 「普通こういうタンスとかには、だいたいビックリマンチョコのシールとか貼るもんだろ昔の俺、普通に何も貼ってないし、やべぇなこんなとこでちょっと俺の育ちの良さ出ちゃったよ」

 などと呟いている。

 部屋の窓から目の前に見事な海の景色が広がっていてその景色を見つめて改めて達也は昔ここにいたんだなと実感した。

 持ってきた旅行バッグを置き荷物の整理を始めた。

 そして一通り終わると、夕日が海の水面に反射しもう眩しいくらいに美しい光が部屋にはいってきている。

 その夕日を見つめて達也は、

 なんとなく少し散歩にでも行ってみようと思った。

 するとばあちゃんが手に何かを持っており達也の部屋に入ってきた。

 「そういえば、てっくんが帰ってくるって聞いたけぇジャージ買ってきといたよ」

 と、優しい声音でジャージを達也に渡した。

 それに達也は同じく優しい声音で

 「ありがと」

 と呟く、それにばあちゃんはにっこりと微笑みながら下に降りて行った。

「散歩でも行くか」

 窓の外に広がる夕焼けに誘われたか達也は導かれるように外へと出た。

 とりあえず海岸沿いの道路を歩いていく、すがすがしい風を浴びながら歩いていく、達也以外誰もいない道を歩いていく。

 すると達也は、

 「やっぱこっちの町は夏でもすごしやすいな、風が涼しいわ、だけど人がいねぇ」

 と呟きながら、少し先にトンネルがあるのを見つける。

 それに彼は驚いた。

 「うおっ! トンネル出来てるし、道路といいトンネルといい人がいないのにこんなにインフラ整備したってしょうがないだろ……」

 と愚痴をこぼしていると、道路から山に入る林道が視界に入った。

 道幅はどうだろう、人が2、3人並べる程度だろうか。

 その林道を達也は見つめる。

 すると何かに導かれるように達也は林道の中に入っていく。

 こんな林道誰も利用なんてするはずが無いのになぜか地面が轍になっていて、

 そして達也はどんどん奥に、上に上がっていく。

 すると突然、開けた場所に出た。

 そこは、どうだろう、達也の部屋のように海が一望でき、そして眩しいほどの夕日が入って来ており、草は伸びたい放題で、その空間の中心にそれほど大きくはない木が佇んでいて、そうまるでここだけ時間が止まっているかと錯覚してしまうような、そんな不思議な場所で。

 「…………」

 この場所をみて彼は不思議と懐かしいと思った。

 この懐かしいはこの時ヶ丘が懐かしいとか、そんなノスタルジックな、漠然としたものでは無く、いくばくか胸騒ぎに近いものだった。

 気が付くと夕日が沈みそうになっていて、慌てて帰ろうとこの高台に背を向ける。

 そして

 「また来よう」

 と呟きこの高台を後にした。

                                 ・

                                 ・

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                                 ・

 日はすっかり落ち、辺りは暗くなっている。

 天原悠季は家の外で星を眺めている。

 「もう、10年以上前なんだよね……」

 彼女はそう呟き、そして思う。

 もうそろそろ割り切らないといけないのかな? 新一は優しいから、毎年落ち込む私に励ましの言葉を掛けてくれるんだ、そして私はまた自分の沈みそうになる心を奮い立たせられる、でも……たぶん新一はもう諦めているんだと思う、きっとこのどんどん風化していく思い出の中で新一はもう割り切っているんだ、なのに私は……。

 「…………」

 悠季は見上げていた顔をそっと下ろす。

 違う……あの頃の思い出は風化なんてしていない、むしろ月日が経つにつれその頃の思い出はさらに輝きを増していっている、でも

、もうそろそろ踏ん切りを着けなければいけないんだよね……。

 そして悠季は星空に向かい言う。

 「私、今回で最後にするね……新一にも言う」

 それは過去への決別、そしてあの日交わした約束への決別。

 「うん……だから……。」

 そのだから……の続きを言おうとしたが、その言葉を心の奥に押し留める、自分が酷くわがままを言っているように思えたから。

 そして、一呼吸置き彼女は、おしっ! と呟く。

 すると突然思い出したかのように、

 「あっ! 今日雑誌の発売日だった、買いに行かなきゃ」

 彼女はそう言いだし、財布を持って出て行った。

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 「うめぇ! やっぱこっちは魚が美味いわ」

 達也が刺身を食べながら言う。

 「いっぱいけぇ米たくさん炊いたから」

 おばあちゃんは満面な笑みを浮かべる。

 「うん、マジこれならめっちゃ食えるかもしれん、ばあちゃんごめん塩取って」

 あいよ、と言い達也に塩を渡す。

 「ありがと、えっ!? これ『すお』って書いてあるよ、ばあちゃん」

 するとばあちゃんは変わらぬ笑顔で言う。

 「すおだよ」

 「あぁ……訛りの問題ね」

 そんな会話の中、達也は晩飯を食べ終えた。

 そして。

 「アイス食べてぇ……」

 などと言い出す。

 「でもなぁーさっき冷蔵庫に入って無かったしなぁ、うーん……」

 と一人でぶつぶつと呟きそして、

 「おし!買いに行こう。」

 と立ち上がりおばあちゃんに一声告げてから彼は外に出ていく。

 「たしかここをずっとまっすぐ行くとコンビニがあった気が……」

 などと呟きながら夕方に一度訪れた林道を通り過ぎる。

 刹那、達也の耳に羽音を響かせて案の定、虫が付いた。

 「きょえぇぇぇぇぇーーーーーーーー」

 その叫びと同時に達也は走る。

 「虫無理、マジ無理、いや、いや、いや怖い怖い……ちょマジ俺都会っ子だから勘弁してよ」

 と、言いながら駆ける。

 すると目の前にコンビニが見えてきて安心したのか彼は、

 「セーフ」

 と言いコンビニに入ろうとするが足をとめた。

 入り口の手前、駐車場の端の方で達也と同年代だろうか、4人の男女がにらみ合っていた。

 「…………」

 いやーマジ勘弁してよ、俺マジ不良とかそういう殴る系のノリ無理なタイプの人間だから……と彼は思っていると、

 突然、体格の良い男がボサボサ髪の男の胸倉をつかんだ。

 その光景を……。

 その光景を見た達也はすぐさまそいつらに近づく。

 そして昼ごろに充電が切れていた携帯をなぜか耳に当て、そして言う。

 「すいません、警察の方ですか、あのー……」

 と言った瞬間、掴まれていたボサボサ髪の男ともう一人、坊主頭の男がどこかへ走って逃げ出しその場には体格の良い男とその連れと思われる女、それと達也だけになる。

 「…………」

 いや……ダサいとか、臆病とかそういう意見はなしだぜ、それこそ目の前でけんかが始まってそれを見てるだけで何もできない傍観者になる方がダサいだろ? ほら誰一人怪我してないやん、やべぇ俺のこの機転の利かせ方マジ才能だろ、

 と達也は思い、そして残った2人にお辞儀をして、その場を後にしようとする。

 だが、

 「いや……待てよ」

 男の少し低い声が響く。

 すると達也は、

 「すいません」

 と言い、足を止めずさらにその場から離れようとする。

 「いや……止まれよ」

 「いやぁ、すいません」

 「だから止まってねぇから、止まれって」

 「いや……急がないと、もう暗いですし」

 そこで男が強引に達也の肩を掴み引き寄せる。

 すると達也は

 「っ……、暴力はよくない……」

 それに男は、

 「いや、殴るなんて一言も言ってねぇから」

 「殴る奴が殴るって言ってから殴るわけねぇだろ、てか自分の体格見てから言えよ」

 と達也は言いながら、改めて男を見つめる。

 良い具合に引き締まった体に、少し濃いめの顔で色黒の肌に合う短髪の青年、一見見れば整った外見をしてるのだが、その高圧的な態度のせいか、少しガラの悪い印象を与えている。

 その男が口を開く。

 「てか、悠季、お前の知り合い?」 

 と隣にいる、悠季と言う人物に聞く。

 「いや……私の知り合いじゃないよ」

 と言い達也と目が合う。

 刹那。

 「ああああああああああああぁぁぁぁっ!!」

 と悠季が叫び達也に人差し指をぴんと立てつけた。

 達也も気付いたのか、

 「やべっ!」

 と言ったと同時に、全力で逃げる。

 が、連れの男が一瞬で達也を捕まえる。

 「なんであの時の変態野郎がここにいるのよぉーーー!」

 と彼女はさらに叫ぶ。

 そう、彼女は達也がバスの中で寝てしまった、その時の隣の少女で。

 だが、達也は。

 「えっ!? すいません……ちょっと何言ってるのか分かんないんすけど……」

 と、とぼけてみるが……。

 「じゃあなんで今逃げたんだよオラっ!」

 と男に言われる。

 すると焦った様子で達也は、

 「はい、ごめんなさい、ごめんなさい反省してますから、マジで怖いから……」

 続けて。

 「確かに私はあなた様の彼女さんにセクハラまがいの行動をしてしまいました、しかしそれは眠った拍子で起こった言わば事故のようなものでして……」

 と、饒舌に話しているとその彼女が、

 「ならなんで、逃げたのよ?」

 と当然の事を聞いてきて、その問いに達也は、

 「いや、言い訳したって無理っしょ。痴漢に間違われたらそれで終わり……じゃあどうする? 逃げるでしょ、逃げるしかないでしょ、他にどうすればいいんだよ?」

 など途中から熱くなりながら答える。

 するといきなり男が、

 「ククク……ハハハ……」

 いきなり笑いだし言う。

 「俺がこいつの彼女? ハハハマジおもしれぇ……ハハハ」

 すると女は急に顔を赤くし、

 「何笑ってんのっ!」

 バキッ!

 鋭い蹴りが炸裂する。

 すると達也は思わず、

 「うわ……出たっ!」

 と、とっさに思った事が口に出てしまった。

 それに、悠季は怒った形相で達也を睨む。

 「…………」

 しかし達也は不謹慎なことに、その姿を可愛いと思ってしまう。

 大きく意思の強そうな目、長く揺れるまつ毛、多分染めてないと思われるだろう色素の薄い髪、そして非常に華奢な体つきに似合っている、ショートカット。

 達也は唾を飲み込んで。

 なんて言うか、純粋にかわいい……。

 そう思ってしまい、ジッと見つめてしまう。

 「な……何?」

 悠季は言う。

 「あっ……いや、てかじゃあ2人付き合ってるんじゃないのかよ……」

 達也は頭を掻きながら言った。

 すると男が笑いながら言う。

 「誰がこんな小学生みたいな体型の奴と付き合うかよ」

 すると悠季がまた怒りながら、

 「ハァ? また蹴られたいの新一」

 と言う。

 すると達也が不意に言う。

 「新一?」

 「なんだよ?」

 「いや……なんもない」

 するとその新一が口を開いた。

 「てかお前見ない顔だな隣町の奴か?」

 同じ事を考えていたのか悠季も、

 「私も思ってた、だいたい歳が近い子たちはもう小中高とずっと一緒だからね」

 するとその質問に達也は、

 「隣町っていうか、小さい頃はこの時ヶ丘に住んでたんだけどね、引っ越しちゃったからさ」

 それに新一は、

 「あぁ、そうかどの辺なんだ家は?」

 「あのーバス停の近くなんだけど……」

 するといきなり悠季が、

 「えっ!?」

 と分かりやすいリアクションをし、

 「近所じゃねぇかよ悠季と」

 と新一は言う。

 続けて、

 「引っ越しって事は、またこっちに戻ってきたのか?」

 「ううん、高校最後の夏だし、もう10年以上ばあちゃんに会ってなかったからさ、久しぶりに顔ぐらい見せとかないといけないと思ってさ」

 「そうか……てか高校最後って事は俺らとタメだな、なあ悠季」

 なんて言う。

 それに悠季は頷きながら、

 「そうだね、だからか何か私たちと同じ感じがすると思った」

 すると純粋に気になった様子で達也が言う。

 「てかバスで起こった事、怒ってないの?」

 その問いに悠季は一瞬ムッとしたが、

 「だって、あれ別にわざとやったわけじゃないんでしょ……?」

 「まぁそうだけど……信じてくれるの?」

 「まぁ……わざとじゃないなら、そんなに怒ってもしょうがないし」

 と背を向きながら言った。

 「…………」

 あれ? こいつ地味に話が分かる奴? 意外に物わかり良いじゃん、可愛いし……と達也は思う。

 すると達也は、

 「悪かったな」

 と呟き、

 「じゃあ、そろそろ帰るわ」

 と、やや不自然な流れでそう言った。

 言われた2人は、じゃあね、と返す。

 背を向き達也は歩き出す。

 達也がいなくなり、

 「…………」

 残された二人の間に妙な間が流れる。

 「不思議な奴……」

 悠季が言う。

 「確かに、てかお前人見知りなのに何か妙に馴染んでたな」

  悠季は驚いて、

 「はぁ? 別に馴染んでないから、人見知りでもないし」

 顔を赤くしながら言う。

 「ただ……」

 「ただ?」

 「何か感じない? あいつに」

 「言われるとそうだな、なんか初対面なのにあんまりそんな感じがしなかったな、ああいう男が好きなのか?」

 「ばかじゃない……」

 そう言い、悠季は思う。

 性格とか、あの変態野郎が持っている独特のオーラとかそんな事じゃない、あいつは今日会ったばかりだ、しかもバスの中で肩に持たれ掛けられて……なのに、言葉にできないけど何かを感じる。

 そんな事を考えていると新一が、

 「お前なにしにコンビニに来たんだよ」

 なんて言ってくる。

 それに悠季は、

 「あっそうだ、雑誌買いに来たんだ」

 「おし、じゃあついでに俺がアイスでもおごってやるよ」

 「ハーゲンダッツ」

 「アホか」

 そんな事を言い合いコンビニに入って行った。

 その頃、達也は帰り道、突然何かに気付き呟く。

 「アイス買うの忘れた」

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 「うっ……うーん」

 波の音が呼び覚ます。

 布団からモゾモゾと起き上がり、階段を下りる。

 「おはよう、ばあちゃん」

 「おはようさん、てっくん」

 朝の簡素な挨拶。

 「朝飯食うか? てっくん?」

 「んー……あんま腹減ってないんだよねぇ……良いや、腹減ったら適当に食べるよ。」

 それにばあちゃんは頷き、

 「てっくん、久しぶりに帰ってきたんだから、親戚の人に顔見せてあげんしゃい」

 「あぁー確かにそうだね、うんじゃあ暑くなる前にでも行ってこようかな」

 そう言って、着替えのため2階に戻る。

 おもむろに鏡の前でどちらかと言えば細身の体を動かし様々なポーズを取っている。

 着替え終わり外に出る。

 イヤホンを耳に掛け、彼は端末から音楽を流した。

 耳の中に流れる旋律に埋もれることもなく、時折寄せては返す波の音が彼の鼓膜を揺さぶった。

 穏やかな晴れ間に殊更のんびりとした時間の流れ広がる中、彼はまっすぐと歩いて行った。

 

  まだ太陽は、高く照らしている。

  親戚の家に到着して簡単な挨拶をし、おみやげにお菓子を貰い受け、帰り道。

 「うわーこんなにお菓子貰ってもなぁー、俺そんなに甘いもん好きじゃねぇーしな……」

 などと呟きながら、歩いていると前方にやけに体格のいい男がジャージ姿で歩いている。

 達也はその男に声をかけた。

 「こんにちは」

 「あん? あぁお前か……」

 「いや……あんって……やっぱ君怖いわ」

 「なんだよ」

 「部活帰りですかい?」

 「あぁ」

 「何やってるの?」

 「陸上」

 「そうなんだ、てかまだ部活があるのかよ、もう3年なら引退じゃね?」

 「いや、俺まだ全国大会があるからさ」

 すると達也は、

 「ふーん、そうなんだ……って、えっ!? 全国!?」

 達也は、目を丸くした。

 「お前雑なリアクションすんなよ、あぁ全国出るんだ俺」

 「すげぇじゃん」

 と言い新一の体をペタペタと触る。

 「ちょ……おいっ、さわんなよっ、気持ち悪ぃな」

 「いや、少しくらい良いだろ」

 「ちょ、やめんか!」

 突き放す。

 赤面する新一に達也は小粋に笑いつつ、

 「あれ、今日は一緒じゃないの?」

 「一緒? あぁ……悠季の事か、そんなに俺もあいつとは頻繁に会ってねぇよ昨日はたまたまだ」

 すると、何かに気付いたかのように、笑いながら新一は、

 「何だ、もしかして惚れたのか?」

 なんて聞いてくる、それに達也は、

 「惚れてはないけど、可愛いよな」

 と、あっけなく肯定する。

 「…………」

 新一は予想してなかったのか、戸惑いそして、

 「なんかあっさりしてるな、てかやめといた方がいい、あいつはああ見えて意外に繊細だから扱いが難しいぞ」

 なんて言う。

  達也はすぐさまに、

 「大丈夫、大丈夫。俺も繊細だから」

 「どこがだ」

 間髪いれずに新一が突っ込んだ。

 若干笑いながら達也は言う。

 「それにしても、悠季ちゃんと新一仲良いよな」

 「いや、仲が良いっていうか……約束したから」

 「約束?」

 達也が問う。

 すると新一は、

 「いや、お前には関係の無い話だ」

 不審に思いつつ、この事は聞いちゃいけないと察したのか達也は、

 「あぁそう」

 と返した。

 すると丁度家の前に着き達也は言う。

 「じゃあ、俺ここだから」

 「おう、じゃあな」

 新一の歩く後ろ姿を達也は見つめる。

 「…………」

 約束ねぇ……。

 と、感じるが達也は心の滞りを流すように、

 「昼寝でもするかな」





 「おばあちゃーんっ」

 女の声が玄関に響く。

 「う……うーん」

 達也は寝返りを執拗にうつ。

 「誰ですかい」

 達也が布団からでて、階段をおり玄関へと向かう。

 その音に、女は気付いたのか、

 「おばあちゃーーん、またカレー作りすぎちゃった」

 達也は

 「ばあちゃんならカラオケ行ったよ」

 と返し玄関を方へ視線を配った刹那、達也と女の視線が交差した。

 そこには昨日の女がいた。

 「なんで、変態野郎がここにいるの?」

 悠季の顔付きが瞬く間に強張った。

 それに達也は、

 「いや、自分の家にいちゃいけねぇのかよ」

 すろと悠季は驚いたように言う。

 「まさか、あんたの名字って夏目?」

 達也は頷く。

 彼女の、Tシャツと、ハーフパンツとゆうラフな格好に少しいやらしい視線を送りながら、

 すると悠季が呟いた。

 「てっくん……」

 「ちょっ……なんでそれ……」

 すると悠季はニヤニヤしながら

 「そう、あんたが夏目達也か、いや絹枝おばあちゃんがいつもあんたの事を話していたからさ、ねぇてっくん?」

 「すいません、それやめてもらえますか……なんか恥ずかしい」

 そう言うと、不意に匂いに誘われる。

 「カレーか……」

 達也が言う。

 すると悠季はとっさに後ろに隠し言う。

 「こ……これは違う……」

 「いや、そうでしょ、さっき『またカレー作りすぎちゃった』とか言ってたじゃん」

 「別にあんたのために作ったわけじゃない……」

 「うわ、自意識強いなお前」

 ガスッ!

 「……寝起きなのに」

 すると顔を真っ赤にしながら悠季は言う。

 「そんなに嫌なら食べ無ければ良いじゃない」

 「いや、嫌とか一言も言ってねぇから」

 続けて言う

 「てか、なんで恥ずかしがってんだよ、恥ずかしがるなよ、むしろ『私カレー作って来たけど、もし食べたかったら、私の足を舐めなさい』ってぐらい言えよ、そしたら俺も、はい食べたいので舐めさせてくださいって言って……」

 バキッ!

 「まぁ……今のはさすがに冗談だけどね」

 「だんだんあんたがほんとの変態に見えてきた……」

 悠季が呆れた顔で言う。

 すると達也は言う。

 「ごめん、寝起きだから……」

 「理由になってないし、もう帰る」

 そう言ってカレーを置いて帰ろうとする。

 それに達也は。

 「カレーありがとね」

 それに悠季は答えず去っていった。

 結城がいなくなった玄関に残され、もう沈みそうな夕日を達也は見つめた。

 グゥ……。

 腹に響く空腹音。

 キッチンへと向かい、皿にご飯を入れ悠季が作ったカレーをかける。

 「美味いな……」


 満腹になったのか、達也が呟いた。

 「うーんどうしようかなぁ、またあの高台にでも行こうかなぁ」

 それは、昨日彼が訪れた林道の奥、不可思議なあの場所だった。

 昨日訪れたばかりなのだが不思議と、もう一度行きたい、そう達也は思った。

 そして、外に出てあの場所に向かう。

 辺りはもうすっかりと日は落ちていた。

 「別に行ったからって何にもする事無いんだけどねぇ……」

 そう、あの場所に行ったからって、殊更何かをするわけではないのだがなぜか惹きつける、そんな魅力があの場所にはあった。

 そして、林道に入り、轍になっているところを進んでいく。

 すると、

 「えっ!?」

 奥に誰かがいる……

 達也はそっと近づく。

 近づくとだんだん分かって来た、その誰かは歌を歌っている。

 「綺麗な声だな……」

 抑揚が利いて、透明感があるな声。

 その人物を達也は見つめた。

 「ちょい……なんで……」

 そこには、

 「きゃっ!? なんで変態てっくんがいるのよここに」

 それに達也は、

 俺のセリフだよと一瞬思ったがあえて、

 「いや……散歩してたらここにたどり着いた」 

 とごまかしていた。

 「あんた、ほんと暇人だね……」

 それに達也は、ほっとけ……と答え、続けて言う。

 「てか、歌上手いね」

 「……うるさい」

 と嬉しさと恥ずかしさが合わさった微妙な表情をして言った。

 すると達也は笑いながら、

 「何? 歌手にでもなるの? あっ……いや、やっぱ今の無し……」

 と言い淀んだ。

 悠季は困惑し、達也を見つめる。

 達也は踵を返して

 「おつかれっす」

 と言い残し、立ち去ろうとした。

 「待ちなよ、女の子が夜一人でいるのにほっとくのあんたは」

 悠季が問い掛ける。

 達也は足を止めてしまう。

 そして、ゆっくりと彼女の足音が近づいてそっと呟いた。

 「私、歌手になりたいんだと思う……」

 月明かりに、照らされる、林道を2人で並んで歩く。

 「思うってなんだよ、自分の事だろ、でもそういう夢みたいのが明確に決まってるのってかっこいいな」

 「よく分かんないけど、昨日から思ってたけどあんた変なとこで遠慮するよね」

 「えっ……、いや遠慮してないからマジで、俺ほど遠慮しない奴いないから」

 「なにごまかしてんの」

 「あっ俺んち着いた、じゃあね、カレー美味かったよ。」

 すると、逃げんなっと後ろから聞こえたが達也はそれを無視して家に入った。

 そしてやや重い足取りで階段を上がり布団に倒れこむ。

 「なんだかんだ言って、新一も、悠季もすげぇ奴だな」

 同時に俺はなにをやってたんだろうとも彼は思う。

 彼は考える。

 俺は、この学生の間に何をやったといえるだろうか、勉強? そんなはずない。 部活? やってない。 趣味や恋愛? あんまり興味ない。 友達と学校が終わったらゲーセンか、適当にダベる、そんな毎日……俺は何をやっていたのだろうか……

 「…………」

 そんなの最初から分かってる、なにもやってないんだ、毎日適当に刹那的に生きている。俺が一番なりたくない人間、そんな人間にまさに自分はなっている。

 「なんかいいな、あいつら……」

 そんな事を考えていると、いつのまにか眠りに落ちた。





 「う……うーん、もう昼か……起きよ」

 達也は布団から起きる。

 「雨か……」

 外は雨が降っている。

 そして達也は一階に下りる。

 そこには丁度昼ごはんを用意しているおばあちゃんがいた。

 「おはよう、もうご飯できるから一緒に食べようね」

 優しい笑顔でおばあちゃんは言う。

 「おはよう、腹減ったよマジで」

 達也が腹をさすりながら言う。

 そしてようやく用意できたのか、

 「いただきます」

 と、言い2人とも食べ始める。

 「はぁー……」

 達也が派手にため息をつき、そして言う。

 「あのさぁーばあちゃん、マジいい加減にして……このサバのみそ煮……」

 「チョー美味しいんですけど……」

 おばあちゃんはニッコリと笑い。

 「てっくんは、変わったねぇ」

 すると達也は驚いた様子で、

 「えっ……なんで」

 と、返す。

 「いぃや、昔はあんなに小さくて、人見知りだったのに、今はこんなに大きくなって」

 「そりゃ、大きくなるに決まってるでしょ、もう18だよ俺」

 「優しい子に育ったね、てっくん」

 と言われ、達也は先ほどと同じくため息をつきそして、

 「あのさぁーばあちゃん、マジいい加減にして……その褒め言葉……」

 「チョー恥ずかしいんですけど」

  彼は自分の部屋に戻る。

 「優しい子に育ったねって」

 彼は窓を見つめた。

 「今日は雨止みそうにないなぁ……」

 そしてどうしようと考える。

 また寝るか? 俺寝るの好きだし、それとも逆に勉強するか?

 達也は英語の教科書をバックから出した。

 改めて教科書を見る、

 ゾーンに入ったのかウソのように集中して勉強を始める。

 「ぬっ……もうこんな時間か俺の集中力やばいだろマジで……」

 そう言い、日が暮れても降り続ける雨を見つめる。

 腹減ったなぁ……

 そう思い達也は下に降りる。

 「勉強って意外にお腹減るよね」

 なんて言いながら、居間に置手紙がある事を発見する。

 その手紙をみる。

 『お友達とカラオケに行ってきます、おばあちゃんより』

 「まじかよ……」

 お湯を沸かしテレビをつける。

 「世の中色々大変だなぁ……」

 なんて事を呑気に呟いていると、

 「……っ!」

 一瞬だが強烈な頭痛が達也を襲う。

 「な……何だよ今の……っておっと」

 お湯が沸いた。

 「マジうまそう、いただきまーす」

 カップめんを食べる達也。

 「おっ……」

 窓の外を見つめると、先ほどまでの雨がすっきりと止んでいて、明るい満月が照らしている。

 「昨日は悠季がいたからなぁ、おしもう一回行くか」

 そう言い、部屋着から、Tシャツとジャージに着替え、外に出る。

 「何だろうな、この雨上がりの風景や匂い……なんか俺は知っている気がする」

 かすかな胸騒ぎに連れられて彼は。

 彼はあの場所へ向かう。

 満月なのに星がすげぇ見えるなぁと思いながら彼は轍を進んでいく。

 すると、そこには……。

 そこには、あの二人がいた。

 張りつめた空気が漂っている。

 「もう……葉月には会えないのかなぁ……」

 悠季が今にも泣きそうな顔で呟く。

 「あきらめるなよまだ、信じれば必ず……」

 新一が悠季に言う。

 すると悠季が夜空を見上げ。

 「ねぇあの日の約束は反故にされたの? もう会えないの? そんなの嫌だよ……葉月……」

 そんな状況をいきなり見た達也は、

 「…………」

 明らかに場違いな空気と感じながら二人に近づく。

 すると二人は達也に気付いた。

 「おい、なんでお前がここにいるんだよ、関係ねぇんだからどっかいけよ」

 新一がいきなり達也に言う。

 それに達也は、あまりに的確でその通りだと思ったのか笑う。

 「いや、まぁそうだけどさ……なんで悠季ちゃん泣いてんの? そんな顔してると可愛い顔が台無しだぜ」

 と言う。

 すると、新一が達也に掴みかかり激しく言う。

 「てめぇ! マジ調子こくなよおい……何も知らねぇくせに知った口ほざいてんじゃねーぞ……」

 それに達也は落ち着いた声色で返す。

 「あぁ……なにも知らねぇよ、ほんとになんにもしらねぇ」

 さらに続ける。

 「だから教えてくれお前が言いかけた約束の事なんだろ? それを聞かせてくれ」

 すると新一はさらに胸倉をつかみ言う。

 「なんでどこの誰かも分からねぇ奴にそんな事言わなければいけねぇんだよっ」

 「じゃあ、俺とお前が友達だとしたら言うのか? 言わねぇだろっどうせこの夏が終わったらもう一生会うこともねぇんだから、だから……」

 と達也も負けじと叫ぶ。

 それに今まで黙っていた悠季が口を開く。

 「分かった、どうせこの夏が終わったら一生会う事もないし……教えてあげる」

 そう言い彼女は語りだす。

 「もう十二年前かな……私と新一は遊んでいて偶然ここに迷い込んだの、そうしたら丁度私たちと同じぐらいの、女の子がいてね呼びかけるの、遊ぼうよって……」

 「私たちはすぐに意気投合したんだ、毎日っていってもいいぐらい一緒にいた、そしてある時いきなり……」

 悠季は遠くを見つめながら話す。

 「消えちゃうんだって……なんかよく分からなかったけどしばらく会えないって言われたの……でもその時約束をしたんだ、必ずまた再会できるよって……そして再会したら一緒にここに秘密基地を作ろうって……笑いながら言うから私もすぐ再会できるものだと信じていた、だけど……」

 自嘲気味に笑いながら悠季は言う。

 「そう、ずっと再会できてないの……でももうそれも今日で終わりにしようかな」

 そんな彼女の姿を見て。

 そんな痛々しい彼女の微笑みを見て。

 達也は、

 「…………」

 怒りが湧いた。

 そして言う。

 「ハハ……おめぇら甘ぇよ、甘すぎだよ、悲劇の主人公気取って自分に酔ってんじゃねーぞ」

 すると、新一が言う。

 「だからお前に俺たちの気持ちが……」

 しかしそれを遮り達也は。

 「あぁ、知らねぇよ、つか知りたくもねぇ、じゃあ何か? 今年だけこんなただ待ってるだけなのか? 違うよな毎年この状況に甘えて、相手に甘えて、自分たちは何の努力もしないで相手から来てくれるの待ってるだけで……」

 語気を強める。

 「悔しくねぇのかよ! 欲しいもんがあったら自分から掴みに行くしかねぇんだよ」

 刹那しばし2人は唖然としていた。

 そしてその達也の言った事に悠季は問う。

 「でもどうすればいいのか……」

 それに達也は、

 「…………」

 そこまで考えてなかった。

 そして不意に頭によぎった事を言う。

 「召喚するんだよ……」

 その瞬間、何とも言えない空気が流れた。

 やべぇ……何言ってんだよ俺……うわーマジやっちまった……俺の中のカリスマ性のない部分が最後に出ちゃった……。

 とか内心思う。だが言った事は、変えられないので、

 「いいから見とけ……」

 と言い、両手を夜空にかざす。

 「我が名は、夏目達也、我が呼び声に答えよ、葉月」

 漠然と無為な時間が流れた。

 達也は焦り、

 「なっ……なんつって……ごめん、最後出ちゃった俺のカリスマ性の無い……」

 と言いかけた刹那。

 高台が強い光に包まれる。

 彼らを取り囲む木々が一斉にそよぐ。

 そして光が消えるとそこには……

 そこには、

 一人の女が佇んでいた。

 悠季は駆けだしていた、そして抱きつく。

 「やっと会えた……もう会えないと思ってた……嬉しい」

 新一も、

 「約束が反故にされたかと思ったぜ」

 などと、照れくさそうに言う。

 すると女は、優しいあの頃と変わらない無邪気な笑顔で、

 「ごめんね、二人ともほんとはもっと早く会いたかったんだけど……でもやっと再会できた……さあ、あの日交わした約束を再開しよっか」

 その少女は無邪気な笑顔でそう言った。

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