アクセス6〜宿屋と旨い飯〜
「にしても……本当に全部木材の建物なんだなぁ。」
俺は初心者の館?を出て其の壁を手で触わってみた。
ざらざらとした木の感触、良く現実世界にあるような綺麗に加工された木材とかではなく、ある程度体裁を整えただけの木材を使ってるみたいだな。
本当にこーゆうの良いな!
俺は改めて街を見まわしてみた。
本当に小さな村だぜ。
初心者の館?の隣には宿。
其の少し離れた隣に恐らく武器、防具の店だろうなあれは、その隣に並ぶのがアクセサリー屋か。
初心者の館?の反対方向にあるのが一つはおそらく道具屋でもう一つは……杖の模様が描かれてるから魔法屋?かね?
良く解らん。
まぁ明日入って聞いてみるとするか。
んでもって街の中央に小さな丸い芝生がある訳だ。
さっきノラから聞いた話だと道具屋の裏手に小さな畑もあるらしいな。
柵とかで街を覆ってないから、どこからどこまでが村かは解らないものの、建物のある範囲だけを見れば、一平方キロメートル位しかねぇだろうなこりゃ……。
「おっ!良い匂いだ!」
俺が宿屋前まで来ると、とても美味しそうな匂いが外まで漂ってきた訳で、思わず宿屋に直ぐ入っちまった。
[カランカラン]
「いらっしゃい!」
入った瞬間元気のいい声が聞こえて少しびっくりした。
俺はキョロキョロと周りを見渡しながら、邪魔にならないようにカウンターまで行こうとしたんだが……。
[ドン!]
「いてぇな!」
間違ってぶつかっちまった。
いやだって、この宿屋酒場も兼ねてるみたいで、入口間際からぎっしり客がいるんだよ!
テーブルについて座っているものの、歩くスペースってのがどうしても余り無い訳で、注意しながら歩いてもこう、ぶつかっちまった訳だ。
「すまねぇ、気をつけてたんだが……。」
「気をつけてたじゃすまねぇんだよ!どうしてくれるんだ!せっかく頼んだビールが台無しじゃねぇか!」
俺はそう言われたんで手元を覗いて見たが……。
「少しこぼれただけだろう?あ、いや、すまなかったとは思うけど、其れ位であんまり怒るなよ。」
そう、手元を覗くと半分以上減ったビールジョッキで、零れたって言っても一口分も無い位のほんの少しだけテーブルに零れただけなんだ。
んなもんでこんなに怒られてもなぁ……と思う訳だがどうよ?
いや確かにぶつかっちまったのは俺が悪いから素直に謝るけど……それにしても怒りすぎじゃねぇか?
「あ?ふざけんなよ餓鬼が!」
「うぉ!危ねぇ!突然何だよ!?」
いきなりぶつかったおっさんが殴り掛かってきやがったんで思わず避けた。
態々好き好んで痛い思いする趣味は無いんでね。
[ガラガラガシャン!?]
余りにも勢いよすぎだろうおっさん。
勢い余って向こうの席に突っ込んで扱けちまってたら良い笑いダネにしかならねぇよ。
「おーい、おっさん大丈夫か?いきなり殴りかかってくるおっさんがいけねぇんだぜ。俺は唯躱しただけだからな〜。」
俺はテーブルをひっくり返しながら転んでいるおっさんの背中にそう声をかけてまたカウンターに向かって歩き始めた。
何やら後ろでそのおっさんをぼこってる数人の男女がいるけど俺には関係ねぇ。
「あっはっは!あんた意外と動けるんだねぇ!殴られそうになった瞬間あちゃ〜!って思ったけど躱わすなんてね!結構結構、男は強くなきゃいけないよ!」
カウンターについて話しかけようとしたんだが、またもや相手から話しかけられた。
(何だかなぁ、今日は出鼻を挫かれる日なのか?)
まぁ大した問題でもないので、愛想笑いを浮かべながら頷いた。
「ふむ?なるほどあんたがレオが言っていた異世界から来たって言う人間だね!話は聞いてるよ。ほら其処に御掛け!直ぐに料理を持ってきてやるからさ!っとと、そうそう!もちろん部屋も用意してあるから、今から用意する食事食べたら軽く汗でも流して休むといいさ!」
何だか一方的な嵐が過ぎ去ったみたいな感覚だ。
何故って……そりゃ。
「……俺何も言ってねぇよ……はぁ。」
何だか本当に疲れた。
俺は言われた通り席について周りを見渡す。
カウンターには俺と同じように一人で来ているであろうプレイヤーなのかね?が五人。
後ろの方ではテーブルが八つあり、一つのテーブルに三人座れるようになっているみたいだが、其処がびっちり……どうにもこうにも息苦しそうな感じだなぁ。
「あいよ、お待たせ!あたしミルカ特製シチューとハムだよ、もうこの味が忘れられないくらい美味しい料理さ!しっかり食べな!」
そう言って目の前に結構大きな皿にクリームシチューっぽいやつと何だか解らないもののハム……にしてもこのハム分厚すぎるだろう!
軽く一枚一センチ以上あるハムが五切れ。
其れにおそらく是……ビールだよなぁ……俺あんまり酒って得意じゃねぇんだが……全部奢り何だし我儘言ってられねぇか。
「……う、うめぇ!?本気うめぇ!」
シチューを一口食べてみたんだが、半端ねぇ旨さだった。
今迄食べた料理の中でも一位、二位を争うほどの旨さだ。
ハムも予想以上に柔らかく、少しピリッとした辛みとしょっぱさが堪らない!
少ししょっぱかったんでビールをグイッ!と飲み込んだんだが、今迄苦手だったビールがとても旨く感じられた訳だ。
「良い食べっぷりだね!そんな感動して食べてもらえりゃこっちとしても凄くうれしいってもんだよ!ほら是サービスだ!」
俺が旨い旨い言いながらシチューを食べつくした時、ミルカが嬉しそうに俺のところにやって来て、ホットドックみたいなパンとシチューをまたくれた。
ホットドック見たいだが、中に入ってる具材はさっきのハムに、これはチーズだよな?
其の上に赤いケチャップみたいなソースがかかってる。
「これは……!!!おおぅ!此れもうめぇ!ってか辛ぇ!けど旨!」
上の赤いケチャップみたいなのは、見た目だけケチャップで味はかなり辛かった。
けど其の辛さが一段とそのハムとチーズの旨さを引き立ててる感じだ!
その合間に飲むシチューがやっぱり旨い。
今日一日、かなり疲れたがこれだけでもう全部どうでも良く感じてきたぜ!
「ごちそうさん!ミルカって言ったっけ?こんな旨い飯食わせてくれてサンキューな!」
全部食べ終わり、食器を下げに来たミルカにそう言ったら大きな声で笑われると「少し待ってな!」と言ってバタバタと裏の厨房と思われる処に入っていった。
直ぐにまたバタバタと戻ってきて袋を渡されたんだが、其の中身が。
「ん?これは……おおう!さっきの旨いパンじゃねぇか!」
「そうさね!あんたが旨い旨い言ってくれたパンだよ!サービスで其れもやるよ!夜食にでも食べな!」
豪快に笑いながらそう言って俺の頭を撫でたミルカは目を細めて呟いた。
「あんたみたいに素直に旨い旨い言ってくれたのは沢山いたけどね、あたしにお礼を言ったのはあんたを含めて数人しかいなかったんだよ……少しばかり気落ちしてたからあんたみたいに旨かった、サンキューみたいに礼を言われるとあたしとしてもやる気が出てくるって訳さ。レオも偶にはいい子を紹介する事もあるんだね。」
嬉しそうに笑うミルカを見ながら俺はレオ?と考えを巡らす。
……ああ!
あの百獣の王か!
あいつレオって言うのか……って名前も聞かねぇで話してたのか俺。
……ま、まぁいいか、今解ったんだし。
「さて!あんたも軽く汗でも流してきな!部屋の方の湯を張っておいたから今直ぐいきな!部屋は其処の階段を上った先の三つ目の扉だよ!」
さっきまでの少し寂しそうで、嬉しそうな表情が嘘だったかみたいに、一気に表情をさっきまでの豪快な笑みを浮かべる表情に変え、俺を「さぁさぁ!」と急かし上え追いやりやがった。
「……耳赤かったなぁ、恥ずかしかったのかね。ってかあれNPCだろう?リアルすぎるぜ本当にさ。」
俺はそうぼやきながら自分の部屋と言われた部屋に入った。
中にはベッドが一つと小さなテーブルが一つ、そして普通の風呂場の四分の一位の浴槽にお湯が張られていた。
「ふむ、流石にシャワーとか湯浴みとかは出来んのか。タオルがあるからこれで汗を拭いて流せって事だろうな。」
今迄そんな事をやった事は無かったが、まぁ解らない奴なんていないだろうな。
全身を御湯を含んだタオルで拭き終わりベッドに腰かけると、予想以上に疲れてたんだろうな、物凄く一気に眠たくなってきた。
「……ふわぁぁぁ……、ん、寝るか。」
俺はミルカからもらったパンをテーブルの上に置き、ベッドにもぐりこんだ。
……っは!一瞬で今意識飛んだぜ。
……ってなんで起きたのよそれで俺。
……いいから素直に寝るかね。
そして、数瞬の後、意識は落ちていった。
可笑しな点や間違い等ありましたら御指摘、御報告があると大変助かります。
自分自身でも何度も見直し確認しましたが、何かありましたらよろしくお願いします。