アクセス1〜キャラクターメイキング〜
「新たに生れし汝よ、これより訪ねし問いに心のままに答えよ。」
キャラクターセットが終わりログインした瞬間、目の前に綺麗な女性が現れて突然そんな事を言い出した。
ああ、ちなみにキャラクターセットとはいっても実際、このゲームは本人がそのまんま投影されるから名前ぐらいしか弄れないんだけどな。
っとと、目の前の女性だよな問題は。
「……にしても……綺麗だよなぁ……流石ゲーム、現実にゃこんな女いねぇよ。」
「あら、嬉しい事を言って下さいますね。ありがとうございます。」
思わず呟いた独り言に返事が返ってきたのには心底ビビった。
そりゃもう、思わず飛び跳ねちまうくらいにな。
目の前の女性、翡翠色の腰までのウェーブのかかった髪にワンポイントの蒼色の月の髪飾り。
顔立ちは日本人のようだが小顔で目元何かは少し垂れて、いかにものほほんとしたイメージ。
そして身長は恐らく155cmくらいだろうな……恐らくっていうのは……だって空飛んでんだもんっていうか、浮かんでんだもん。
着てる服も白いんだけど何か輝いてる足下までの衣に薄い水色のヴェール。
いかにも女神様って感じだな!
「……ってNPCじゃねぇの!?」
「違いますよ、私はレイアスと申します。以後もしかしたらこれからも出会える事があるかもしれませんのでよろしくお願い致しますね。」
うわっちゃ……いつ入ってくるかわからねぇ俺達ユーザーの為に常時待機してねぇといけねぇだろうそれじゃあ……考えただけで疲れる。
絶対俺には真似できねぇし、真似したいとも思わん。
「そうだったのか……にしても……大変だねぇ。こんないつ誰が来るか解らないこんな場所で待機し続けるなんてさ。」
「意外とそうでもないんですよ、こうやって私と御話出来ると知ってる人も少ないですしね。」
そりゃそうだろう。
わざわざ如何にも最初の説明NPCみたいな感じだからな、普通話しかけたりしねぇでそのまま次へ次へって進んじまう。
俺だって思わず呟いちまっただけで、実際話しかける気なんて無かったんだからな。
「ふ〜ん、そうなんだ。あーそういや俺の自己紹介がまだだったな、俺はし……サヤだ。これからまた会えるのか会えないのか解らないけどよろしく頼むわ。」
俺がそうやって片手をあげて挨拶するとクスクスと笑いながら応えてくれる。
「さて、本題に戻りましょうか、これから幾つか質問しますのでそれに答えてくださいね。この質問の答えによってサヤさんの身体能力、魔力、体力、職業が決まります。だからと言って余り考えず、心でそう感じたままに答えてくださいね。」
「了解。にしても一々こんな説明までしなきゃいけないなんて、実際やる側とやらせる側だと大変さの度合いも違うんだねぇ。」
「ふふふ、実際こうやって説明なんてほとんどしませんよ。普通であれば最初のあの台詞から次へ次へといった感じで進むんです。今回偶々こうやって御話させて頂きましたので説明させていただいただけなんですよ。ちょっとした特別扱いです。」
悪戯っ子みたいな笑みを浮かべながら話しかけてくるレイアスは、綺麗だと感じる中にも、どこか可愛いと思える部分もあり、すげぇ魅力的に見えた。
「コホン、では次から台詞通りに行きますのでお答えください。」
黙って頷いた俺を満足そうに見つめると、さっきまでの生きた笑みが消え、作られた微笑みが浮かぶ。
「まず、汝の名を答えよ。」
「サヤ」
「サヤよ、汝は今旅立った瞬間、背後から突然斬りかかられ瀕死の状態になりました。後ろを振り返ると其処には剣を振り下ろした汝と同じ人間が立っています。そして汝の手にも同じ剣があり、一突きすれば相手を葬りさる事が出来ます。汝はこの時どう動きますか?」
また最初から変な質問ってかなんて応えていいのか解らねぇ質問だな。
ってかこんな感じの質問で、選択肢を設けて無いのであれば、答えは千差万別だろう。
……つまり、答えにカンニングってのは無い訳だな。
「……まぁ殺しはしねぇけど、死にたくないからな、相手から何とか剣を奪って戦闘不能の状態まで持っていけるようにするかな。」
「さやよ、汝は今目の前にボロボロになりながら泣き崩れる女性がいます。そして女性の背後には汝が決して倒すことの出来ない様な高レベルのモンスターが数匹います。その女性を見捨てれば逃げることは出来ますが、女性を抱えて逃げる事は不可能です。汝はどう動きますか?」
普通にそうやって聞かれれば逃げるか助けるかの二択だよな。
逃げて一人助かるか、助けようとして二人で死ぬか。
……ん?こういうのはありなのかね?
「んじゃその女性に逆に助けを求めながら二人で戦ってみる。最後の最後まで何とか抵抗してみるかね。」
質問には逃げることしか言われてなかったけど、普通戦うなら一人って考えるよな?
でも俺捻くれてるのかね、咄嗟にそんな考えが浮かんできたんだから。
まぁどっちにしても死ぬ確率が高いものの、生き残る可能性もゼロじゃないはずだからな。
少しでも生存確率の高い選択をしたいな……実際その場に立つとどうなるか解らんけど。
「サヤよ、汝は今仲間と共にクエストを受けました。そのクエストの最中いるはずのない高レベルモンスターが現れ仲間を一人、また一人と殺していきました。そして最後の一人が汝です。そして目の前には仲間を殺した高レベルのモンスターが瀕死の状態で倒れています。その隣でそのモンスターの子供が数匹不思議そうにその倒れたモンスターを起こそうとしています。汝はどう動きますか?」
……何なんだろうなこの質問、性質が悪いというか意地が悪いと言うか。
つまり復讐を遂行するか、その子供達を見て復讐を諦めるかって事かね?
……どうするよ俺。
仲間が殺されたら絶対許せねぇ……だけど実際そんな光景見ちまったら絶対倒せねぇよな。
「……取りあえずそのモンスターの傷をかろうじて動けるであろうレベルまで治す。もしくは看病する。殺しはしない、ただ決して許しもしない。そして二度と被害が及ばないように人のいない処まで連れて行き、そこで離す。」
……理想はそうだけど、実際途中で暴れたりとかして結局倒しちまうんだろうなぁ……まぁ出来ればそういたいって事でいいだろう。
「最後の質問に移ります。」
レイアスがそう言って一歩俺に近付いてきた。
「サヤよ、今汝が手に一振りの剣がありますね?その剣を持って私を斬りなさい。私を殺した際レアアイテムの武器と防具が初期から手に入ります。私に傷を負わせれば、傷の度合いに応じてアイテムが配布されます。貴方が思うままにその剣を御振りなさい。」
そう言って目を瞑ると斬りやすいだろうにと両手を広げ斬りかかって来るのを待ち続けてやがる。
「……冗談じゃねぇ。散々な質問ばっかりで最後の最後で殺せだと?ふざけるにも程がある!いくらゲームでも人なんて殺したくねぇよ!」
俺は思いっきり持っていた剣を投げ捨ててやった。
ザマァミロ。
ガチャンという剣が地面に落ちる音と共にレイアスが目を開いた。
「これで全ての質問が終わりました。これからサヤ、汝は旅立ちの時を迎えます。この世界は貴方の世界。汝に少しの幸と希望があらん事を。」
何事も無かったかのように終わっちまった。
少し納得がいかずむすぅっとしてたんだろう、可笑しそうにレイアスが笑いながら話しかけてくる。
「あはは、流石にこの質問は変ですよね……私も実際何度やっても可笑しいとしか思いません。でもサヤさん程、意図した答えと全く違う選択をした人はほとんどいませんよ。私が質問した人の中ではサヤさん一人だけです。最後の質問もそうですね、大概の人は何の疑問も抱かずそのまんま斬りかかって来るのですが、今まで数人サヤさんと同じように斬らない人もいましたね。その人達はそのあと剣を投げ捨てたりはしませんでしたけど。」
どこか嬉しそうに笑うレイアスを見てると、怒ってる筈なんだが段々と力が抜けてくる。
挙句の果てには何故か苦笑まで漏らしちまった。
「……ゲームだもんな、実際はそういうのが普通なんだろう?多分俺は今までゲームってもんをほっとんどやった事がないからかもしれねぇな。」
とは言っても事前にネットで簡単に調べはしたんだけどね。
「なるほど、そういうものなのかも知れませんね。それでは名残惜しいですが御別れです。これからサヤさんは初心者の平原と呼ばれるところに降り立ちます。其処からまっすぐ北にと言っても解りずらいと思いますので、看板から真っ直ぐ前に進めば村に着きます。其処でいろいろと説明を受けて見て下さい。」
「了解、何かすまんかったな、迷惑掛けて。でもいろいろ助かった、話せて良かったよ。もしまた会う機会があればその時は宜しくな!」
そう言った瞬間、少しずつ眠りから覚めるような感覚で意識がその場所から離れていく。
意識を手放したと思った瞬間、すぐに意識が戻って来て俺は平原に立っていた。
そして自分の身体を確認していく。
特に異常がない事を確認した後、自分自身の身体の感覚をそれぞれ確認していったんだが……。
「はぁ……これがゲームの中か、現実と何も変わらねぇじゃねぇか。」
本当に現実そのまんまで凄かった。
可笑しな点や間違い等ありましたら御指摘、御報告があると大変助かります。
自分自身でも何度も見直し確認しましたが、何かありましたらよろしくお願いします。