2話 僕と迷子のお姉さんの話し
「おぉい、我が弟よぉ。どこにいるんだいぃ?愛しのお姉さまはここにいるんだよぉ。早く見つけておくれぇ」
#####
金髪で背の高い、だが顔は幼さを残してる女性。どこかで見たような、いや、実際に見たのは初めて(綺麗な女の人を忘れるわけがない)なはずだが。
「お、そこの汗だくのお兄さぁん。ちょっといいかなぁ?」
その女性は僕に気がついた。正直気がついて欲しくはなかったが気がつかれたのなら仕方がない。
再び滴る汗を拭った。
「な、なんですか?どうかしたんですか?」
息も切れ切れではっきりと言葉になったか怪しい。一瞬女性は頭に?を浮かべたように感じたがなんとか通じたようだ。
「お姉さんさぁ、迷子になっちゃったんだぁ」
迷子。
確かにこの人は迷子と言った。
最近どこかで迷子がどうとかって話を…。
「あ、思い出した」
先ほど出会った少年。彼が探していた女性は間違いなくこの人だった。写真で見るより数段綺麗なように感じたが間違いない。
本当に迷子を探していたのか、彼は。
「さっきあなたを探してる少年に会いましたよ。今から行けば会えると思いますよ」
「え、本当ぉ?よかったぁ、君は救世主だよぉ!」
表情がパァっと明るくなった。
まるで真っ暗な世界に照らされた一筋の光。例えるならそんな笑顔だ。眩しすぎる。
「どっちどっちぃ?どっちに行けばいいのぉ?」
眩しすぎる笑顔は僕の前にグイッと近づいてきた。
近すぎる。
僕みたいな女性免疫の無い男にこの距離はマズい。
あらゆる理由からマズいのだ。
「あああ、あっちです!」
グイッと距離を取り、上ずった声を出しながら元来た方向を指差した。
「助かるよぉ、本当にありがとねぇ!」
わざわざ僕が遠ざかったのにも関わらず彼女は距離を詰めてきた。近い近い、特に顔が---
次の瞬間、僕に何が起きたのか理解出来るまでに時間がかかった。
唇に何が触れ、そして視界が何かで遮られている。
「んーーー!!!!」
何が起きたか理解出来てきた。いや、まだはっきりと頭は回っていない。
何故ならこのような経験は生まれて初めてだからだ。
「これはお礼だよぉ!本当にありがとねぇ!」
彼女は僕の唇から自らの唇を離して悪戯っぽく、また子供っぽく言った。
僕の顔はおそらく真っ赤になっているだろう。初対面の女性に唇を奪われるなど到底起こりうることではない。
「じゃあお兄さぁん、また会えたら会おうねぇ!」
彼女はいつの間にか走り去っていった。惚けている僕をよそに。
「僕のファーストキス…」
とにかく頭が回らない。嵐が去ったような静けさだけがこの場に残った。
今思い出しても顔が赤くなる。生まれてこのかた恋人と言うものは出来たことは無いが、いつか出来た時にファーストキスをするのだろうと思っていたがそういうわけにもいかなかったみたいだ。
人生とは分からないものだ。
先ほどまでとはまた違う汗をかいてしまい、より一層シャワーを浴びたくなった。
「なんて日なんだ…」
歩みが止まっていたが、再び歩き始めた。今日は早く休もう、そう心に決めた。
家まではもうそんなに距離は無い。すぐ着くはずだ。
少し早足になり、僕は歩く。
ほんの数分で僕は家に着いた。いや、家があったはずの場所に着いた。
確かにここには家があったはずだ。
「家が、無い」