1話 僕と迷子探しの少年の話し
「この人を見ませんでしたか?」
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ある日の昼下がり、春にしては少し暖かいそんな4月のことだった。コンビニへ行き雑誌を立ち読み、そしてスナック菓子とジュースを買っての帰宅途中、僕は彼に出会った。
「この人を見ませんでしたか?」
小学生くらいだろうか。帽子を深々と被った小さな少年が話しかけてきた。その手には女性の映った写真を持っていた。
「君、迷子?この人のところに帰りたいの?」
「違います。迷子はこの人の方です」
迷子ではなく迷子を探していた少年。彼の持つ写真を再度見てみる。
(うーん、この子が迷子なんじゃないのかな?)
写真に映った女性は成人をしているように見える。だが顔は幼さを残している。体の成長が早いのだろうか。
「見た覚えはないかな。こんな可愛い子なら忘れることもないと思うけど」
「そうですか。わかりました。お手を煩わせてしまい申し訳ありませんでした」
礼儀正しい子だなと感心し、再び帰路につく。家までは徒歩で10分ほどだ。
(うーん、今からすぐ帰っても特にすること無いしな)
帰り道を少し外れたところに公園がある。そこへ行って少し時間を潰すことにした。
僕が向かったのはこの辺りではそこそこ大きい公園だ。大きいとは言えない湖があり、その周りを囲うようにある散歩道。そのところどころには数カ所ベンチもある。デートスポットとしても人気のあるこの場所に1人で歩いてる僕の姿は滑稽なものだろう。
平日の昼間だからか人も少ない。
ベビーカーを押して歩いている女性。
ベンチに座って会話を楽しんでいる老夫婦。
綺麗な髪を靡かせながら歩いているセーラー服を着た美しい女性。セーラー服を着た女性?
「あら。久しぶりじゃない」
「げっ。二葉。なんでこんな時間にこんなとこにいるんだよ」
二葉葵。モデルの様にスラッとしたスタイル。綺麗なサラサラとしたロングの黒髪。透き通る様な白い肌。芸能人のようなよく出来た顔立ち。彼女の事を一言で表すなら美しいの一言だろう。
非の打ち所がないような彼女を前にして心を奪われない者はそうはいないだろう。僕も心を奪われてしまった1人だ。
「げっ、って何よ。失礼ね。あなたにそんな事を言われたくは無いわ。あなたこそ何をやってるの?なんで学校へ来ないのよ」
同級生である彼女はやはり僕が学校へ行ってない事を知っているようだ。
不登校。
今となっては珍しい事では無い。理由は様々あるだろう。イジメ、精神的な問題、人間関係、挙げればキリがない。
僕はと言えば、集団生活が苦手なのだ。同世代の男女が大人数集められ、狭い教室に閉じ込められ生活をする。そんな物に僕は吐き気すら覚えてしまう。
「質問に質問で返してんじゃねえよ。んー、まあ僕は散歩だよ。学校へは行きたくないんだよ」
あしらうように適当な返事をすると彼女の表情は少し引きつった。
「学校へ行きたくないですって?知っているの?この世界には学校へ通いたくても通えない子供がたくさんいるのよ?それなのにあなたは--」
「煩いな、ほっといてくれよ!学校へ行かないは僕の勝手だろ!」
「あ、ちょっと待ちない!」
僕はいつの間にか走り出していた。彼女の言っていた事は至極真っ当なことだった。逃げ出した理由も彼女の言っていることに罪悪感にも似た感情が湧いてきたからだ。
いつかは学校へ行かなければいけない。
いつかは。
いつかは。
そうこうしている間に結構な月日が流れてしまった。
走り続けていたが、僕の息はすぐに上がってしまった。不登校を始めてからそれなりに時間が経っている。運動もしていない。元々体力のある方ではない僕には数分走るだけで限界だ。
公園からある程度離れた場所にあった電柱にてをつき小休止を挟むことにした。
苦しい。気持ち悪い。膝がガクガクする。
(くそ。公園なんて行かなければよかった)
僕はそう思いながらも呼吸を整えようとした。
汗が滴る。早く帰ってシャワーを浴びたい。
多少は呼吸はマシになり、滴る汗を服の袖で拭った。結構な量の汗で服が変色するほどだ。
フラフラになりながらも僕は再び帰路についた。さっさと家に帰ろう、そう意気込むとどこからか女性の声が聞こえた。
「おぉい、我が弟よぉ。どこにいるんだいぃ?愛しのお姉さまはここにいるんだよぉ。早く見つけておくれぇ」