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マザーポリス  作者: 山門芳彦
第一章 脱出
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回想と脱出作戦の準備

 中にエレベーターがある巨大箱型倉庫は、ヒロとトシロウの拠点としては都合の良い場所だった。アンドロイドは全く近寄って来ないし、かなり広い空間なので何をするにも特に不自由はない。

 足音がして半開きのシャッターからその者の影が伸びてきた。

 「あのぉ…僕です。ヨタです」

 「ん、くぐって入ってくれ」

 ヨタが薄明るい倉庫に入ってきた。

 「上司に怒られたか?」

 「嫌味を言われるのはいつものことです。今日は『お前なんかとっくにスクラップになったかと思った』なんて言われましたよ」

 「ここは危険レベルが高いんだったか」

 「ええ。でもどうやら嘘のようですね」

 ヨタがそう言うとトシロウは微笑した。

 「どうかな。案外アンドロイドは人間を一番恐れているのかもしれないぜ」

 ヨタは地べたで飯を食っているトシロウの向かいに座った。彼の横にはヒロもいる。

 「じゃあさっきの続き、教えて下さい」

 トシロウとヒロは五年前の回想を始めた。


 ―まさか、こんな場所だったとは。今にも力尽きそうな子供を目撃した時、三人は動揺した。

 三人にとって最初、マザーポリスはあらゆる事において人間の他の都市を超えていたように見えた。建物の高さと密度、インフラ整備、何よりもそこに住むアンドロイド。ここを一言で表すならば、全ての歯車が完璧に噛み合っている。そんな印象だった。「人間が見当たらない」という一点を除けば。

 二十年前からここにいた人間が今どうなっているのか。その疑問は栄養失調で倒れている子供を見た時、解消された。答えは決して芳しいものではない。

 「人間は彼らに虐げられている。恐らく地下か何かしらの建物に隔離されているのだ」 立派な口髭を生やした鼻の高い中年―ヒガシの呟きに、子供を抱えた青年と手持ちのパンをその子に食べさせていた青年の二人は思わずハッとした。この子のみならず他の人間も同じような状態を強いられているかも知れないと悟ったからだ。

 「先生、その場所を突き止めましょう」

 子を抱えていた青年―ヒロは動揺混じりの声色で提案した。

 「その前に目の前の子供だ。もし、その子が話せるようなら、聞いてみるんだ」

 ヒロは頷き、じっと子を見続けているもうひとりの青年―トシロウはパンを食べたその子の反応を見ていた。

 子供はゆっくりとパンを噛んで食べていた。勢いよく食べていないのは食べるだけの元気も無くなっていたということだろう。トシロウは子が哀れでたまらなく感じ、目頭が熱くなっていた。

 「しっかりするんだ。ほら、ちゃんと食べて」

 「…ン…」

 「ボク、どこから来たのか教えてくれないかな」

  「…」

 言葉を発する元気も無いのか、彼はある建物を指差した。その先を見ると箱型の大きな倉庫のような建物があった。


 「―それから間もなくその子は力尽きてしまったよ。その場所に僕達はバツ印をつけた。ここを出てすぐのとこにある」

 「それから皆さんはどうしたのですか」

 「あの子が指してくれた場所はこの倉庫だ。そこの階段を下りて俺達はスラムを見つけた。ゾッとしたさ。アンドロイドの憲兵が人間を働かせていた。それに人間は皆やせ細っていて、疲れた顔だった」

 「強制労働ですか」

 「そうさ。俺達もすぐに憲兵に捕らえられてしまった」

 ヒロとトシロウは暗い面持ちであったがそれよりも怒りに震える様子であった。それも自分たちへの不当に対してではなく、スラムの存在を知らなかった自分たちに対しての怒りであった。

 「人間による反乱などは無かったのですか?」

 「一度は武装蜂起を試したさ。だがうまくいかなかった。ヒガシ教授をマザーポリスから脱出させるだけで精一杯だった」

 「僕達は教授がこの事を話してくれれば外から助けが来ると信じていた」

 「事実、助けは来た。しかも軍隊がね。だが、やはりというべきかアンドロイド達も逃げるどころか迎え撃ってきた。直接対決では無かったけどね。ポリスの中心に塔があるだろう?あそこから人間にのみ効く強力な洗脳電波を流したんだ。スラムには届かなかったが、ポリスに進軍していた軍は統制が乱れ、兵達は狂ったように同士討ちを始めてしまったそうだ。敵と戦わずして人間は負けたわけさ。それだけじゃない。軍が撤退した後、アンドロイド達は更に強い洗脳電波を全世界に流した。流した時間はわずかだったが、全世界の人達はマザーポリスの存在を記憶から消されてしまった」

 「それと同じ時期、マザーポリスにアンドロイドの新しい長が現れた」

 「アードルフ・・・」

 ヨタはその名を呟いた。マザーポリスとスラムの者達の中で首長アードルフの名を知らない者はいない。

 「僕達に軍の敗北と洗脳電波のことを知らせたのは奴だ。就任の時、奴は街中のモニターというモニターに映っていた」

 「そこは記憶にありますよ。『アンドロイドの世界を人間から守った』と演説していましたね」

 「・・・ああ。それから五年が経ったわけだ。アンドロイドによる支配などあってはならない。俺達はその現状を打破するためにスラムから上がってきた。ここの人達の自由を取り戻すために。その手伝いを、君にしてほしいのだ。ヨタ」

 「アンドロイドの僕がですか?」

 「そうだ。そしてそのための計画と作戦は考えてある」

 ヨタは二人の瞳を凝視した。覚悟に満ちた瞳だった。

 「僕にできることを、やらせてください」

 二人の表情が喜びに満ちた。

 「よし決まった!これで僕達は同志だ!ヨタも人間と同じさ!」

 「こうなれば早速作戦の打ちあわせだ。ヨタ、忘れないようにちゃんと聞いておけよ」

 「はい」

 「では、作戦概要は以下のようになる。」 

 トシロウは自信ありげに話を始めた。

 「先ず目的はこの三つ。

 一、マザーポリスを脱出し外界の街に辿り着くこと。

 二、外界の実情を把握し、外界の人々にマザーポリスの現状を知らせること。

 三、外界の人々と協力してスラムの人間の解放及び、マザーポリスの破壊をすること。

 そして今回は第一の目的、つまり脱出を図る。」

 「具体的にはどうするのですか?」

 「それを今から話す。ヨタは今夜警備する場所は?」

 「ポリスの外へ続く道路です」

 「よし。君は先ずそこにいてくれ。この時間になったら作戦開始だ。」

 そう言ってからトシロウは一枚のビラをヨタに見せた。

 「花火大会・・・七時からですか」

 「その通り。その時になったら周囲の警備を黙らせるのが君の仕事だよ。警備の人数は多いだろうから、拳銃を渡しておくよ」

 ヒロは腰の拳銃をホルスターごとヨタに渡した。

 「その時俺達は車をパクってお前の所に行き、ポリスの喧騒に紛れて脱出する」

 三人は目を合わせて頷き、互いの拳を軽くぶつけ合って成功を誓った。


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