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疾風のごとく  作者: 陸風
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4人の新入生

ーー1位のランナーが競技場に戻ってきました。山乃内高校、森俊樹。もう優勝は間違いないでしょうーー

緑色の襷をかけ、俊樹は確かに走っていた。この全国高校駅伝の先頭を。

実況の声が聞こえる。ゴールで待つ仲間の声もはっきり聞こえる。体が熱い。足が重い。でもあと100メートルでゴール………だ………


   ガッ!


「うわっ!」

思わず声がでた。突然後ろから襟を引っ張られたのだ。

……襟?ユニフォームに襟なんか…

ーー続いて校歌斉唱ーー

この声で完全に目がさめた。今は入学式の真っ最中だったのだ。周りからの視線を感じる。

『先生に引っ張られたのか…うわ〜、恥ずかし〜』

ピアノの演奏が始まった。俊樹は校歌が終わるまでボーっと周りを見渡してみた。どこを見渡しても真っ黒い学ランに包まれている。女子は後ろか…

そこで俊樹は2人の男を発見した。1人は清水駿。同じ中学で同じ陸上部、そして同じ長距離をやっていた。ツンツン頭ですぐにわかる。相変わらず小さいからだいぶ前の方だ。俺も駿も高校でも陸上部に入るつもりだ。

だがもう1人の男を発見したとき、俊樹の体は一瞬ビクッとなった。あの坊主頭に鋭い目、そして180はあろうかという身長。こんなところではみるはずのない男、五十嵐走太。前年度、この栃木県の中学生で一番1500メートルが速かった男だ。何故か関東大会には出て来なかったが…普通そんなやつは強豪校にいくのだが。

ーーこれで入学式を終わりますーー

この声で俊樹は再び現実に戻された。

そもそもなぜ俊樹が山乃内高校に入ったかというと…交通が便利だから。

という単純なものなのだ。この山乃内高校はレベルもそんな高くなく、中の中から中の下くらいだろうか。スポーツだって特に目立って強い部はない。陸上部だってそんなに強いという噂など聞いたことがない。ただ一つ他の高校と変わっているのは、高校が山のふもとに建っている、ということぐらいだ。


   ………


「ほんっとにおまえはよく寝るな〜」

駿の感心したような呆れたような声で俊樹は目が覚める。

「もうHR終わったぞ!」

「………。なんで駿がここにいるんだよ…」

まだ眠たそうな目をこすりながら俊樹は言った。

「だ・か・ら!もう放課後だって!部活見学に行こうぜ」

「部活…」

まだねぼけていた俊樹はあのことで一気に目が覚めた。

「五十嵐走太!!!」

俊樹はさっきまで上半身をもたれかけていた机からとびはねながら言う。

「なんだよいきな…」

まだ駿が言い終わらないうちに俊樹が割って入った。

「いたんだよ!五十嵐走太が!この学校に!!!」

「へ?」

駿は思わず変な声をだす。

「マジだって。入学式の時見た。あれは確かに五十嵐だった。」

興奮しながら俊樹が言う。駿も驚いている。そりゃあ栃木で陸上をしてるひとなら誰だって驚くだろう。

「早く部活見学行こうぜ!五十嵐がいるかもしれない!」

そう言って駿は1年3組の教室を飛び出していった。

「おい!ちょっとまてよ!」

俊樹もあとをすぐに追う。



校庭では様々な部活が活動を始めていた。

新入生を勧誘してる部もある。山乃内高校は山のふもとに建っていて周りは山なので敷地がとて広い。

野球部のグラウンドは外野まできちんとあって、ホームランを撃つと山の中にボールが消えるようになっている。そのグラウンドの南側にはテニスコートが8面あって、野球場の東には広いサッカー場がある。バスケのコートは体育館内にもあるが外にも1面あり、そしてすみには幅跳び用の砂場と鉄棒がならんでいた。ここだけでなく他の場所にも運動場があるらしい。ほんとに山をフルに使ってある校庭だ。

しかしどこを見渡してもトラックがない。陸上部が走っている様子もない。

「陸上部って…あるよな?」

駿が恐る恐る聞いてきた。

「そりゃああるだろ」

俊樹は根拠も何もないがそう答えた。

「あの部室みたいなとこ行けばわかるかも」

駿はそういって白い二階建ての建物を指差した。両側に階段がついていて、一階、二階ともに10部屋くらいあるだろうか。横に細長い建物だ。

サッカー場と野球場の北にある。



「まずは一階からだな」

駿はそう言ってズンズンと歩いていった。こういうとき駿は頼りになる。図太いと言うか無神経と言うか…


野球部ーサッカー部ーテニス部ーバスケ部ー…………そして1階の最後の一室……陸上部ー

   ガタン!

陸上部の部室を見つけ出した瞬間、駿はドアを勢いよく開けた。ほんとに図太いというか…

「ちわーっす!陸上部に入りたくてきました!」

駿は元気よく言った。駿の後ろから俊樹は中をのぞいてみると3人の男の人がいた。みんなこちらを見ている。当たり前だが…

「新入生だって〜」

「入学式早々…今年は期待できそうっすね!」

「でも俺たちいまからペーラン行くんだよね…どうしよっか」

3人の男が話だす。ちなみにペーランとは『ペースランニング』のことだ。ある一定のペースを決めて走る。

「じゃあ俺たち見学してます!どこにトラックあるんすか?」

俊樹がはいまだに駿から半分顔をのぞかせながら、自分をアピールするかのように言った。

「見学って言われても…俺たちの練習場はこの山全体だからなぁ…」

どうりでトラックがないわけだ。


「まぁ、部室で待ってても暇だろうから、今日のところは帰っていいよ」

すこし長めの髪の優しそうな先輩が腕時計を手につけながら言った。

「明日はたぶんjogだっただろうから、明日から一緒に走るか」

3人のなかで一番小柄な先輩が話しかけてきた。

「体が冷える前にとっとといくぞ」

部長らしき先輩が軽く走りながら言う。

こうして3人はいつの間にか遠くへ走り去ってしまった。


……………


「あれっ?ところで五十嵐は?」

駿が思い出したように言う。

「さぁ…」

俊樹は首を傾げながら言う。取り残された2人はしばらくサッカー部の練習風景を眺めていた。






さかのぼること1時間前。 坂本達也は1年3組の教室で帰る準備をしていた。そこで

「五十嵐走太」と言う言葉が聞こえた時、とっさにその方向を見た。2人の男が話している。1人は…さっき入学式で注意されてたやつだ。もう1人は……??何にしても

「五十嵐走太」という名前を聞いて黙っちゃいられない。ここまで達也はそうとう早いスピードで思考回路を巡らせていった……が2人はそれよりも早く教室を出ていった。達也もそれを急いで追いかける。しかし教室を出るところで扉に白いエナメルバッグを引っ掛けて大転倒してしまう。周りの笑い声が聞こえるが今はそれどころではない。すぐに立ち上がると目の前の1人の長身の男が邪魔そうにこちらを見ている……

!!!!

なんとその男は五十嵐走太だったのだ。五十嵐はとっととよけて通り過ぎる。それを引き止めようと達也は五十嵐の腕をつかむ。

「何?」

五十嵐は冷たい目で達也を見下ろす。それを聞いて達也は慌てて言う。

「えっと…あの…オレ、坂本達也!!」

「ああ、そう」

再び五十嵐は歩き出す。だがまたも達也が引き止める。

「だから…何?」

今度は少し邪魔そうに言う。

「あの…だから…オレ今度陸上部に入……」

「陸上部には入らない」

そしてまた五十嵐は歩き出す。五十嵐の意外な一言にあっけにとられてた達也だが、すぐに追いつき今度は達也も一緒に歩き出す。

「なんで?あんなに速いのに。1500なんかオレ感動したよ!関東には出なかったけど、ケガでもしたの?ケガしたから高校で陸上できないの?」

五十嵐の歩きに合わせながら達也は次々と質問していく。だが、五十嵐の次の一言でその全てを一層した。

「つまらない」


……………


達也はその一言を聞いて、立ち止まってぼーぜんとした。その間に五十嵐はどんどん歩いていく。ついに五十嵐は見えなくなってしまった。




この4人の山乃内高校への入学が、いずれ大きな風となって、高校陸上界を疾風のごとく駆け抜けてゆくのだ。



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