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幹事の役得

作者: 葛城さく
掲載日:2014/12/29

第二作目です。

拙き文章には、ご容赦を。

「じゃあねー!ちづ、来年も愛してるよー!」

「はいはーい。また来年ね」


よし、あと一人。

忘年会の幹事である、私、佐藤ちづるは、ほろ酔い加減で上機嫌の友人を駅へ下ろすと、そっとため息をついた。


二十歳になったので、せっかくだから記念に、ということで、年末にひらかれた高校の同窓会。3年生の時に、副室長だったというだけで、ちづるは、幹事をおしつけられたのであった。

会計や司会とかより、楽そうかな♪という理由で、軽く車を出すことをOKしたちづるだったが、今になって激しく後悔していた。

気持ちよさそうに、グラスを空けていく友人をただただ眺めながら、ソフトドリンクを飲むというのは、酒飲みな、ちづるにとって拷問に等しかった。


「ふはー」

無意識に漏れる、ため息。あー生中飲みたかった…などと、未練がましくぶつぶつ呟いていると。


「大丈夫?やっぱ、運転疲れた?」

そんなおっさんじみたことを考えているとは、露知らず、隣からちづるを心配する声がかかった。池谷くんである。先ほど、ちづるが、あと一人と言った、駅まで送り届ける最後の人である。

彼も哀れな幹事の一人だが、ゲームの進行係りなので、アルコールを、しっかりちゃっかり、召されている。ちづるにとっては、それだけで羨ましい限りである。


「や、そんなことないよ。やっぱり年末だから、変な混み方するなぁと思って」

内心で生ビールっ!と思っていたことなど、おくびにも出さず、ちづるは答えをかえした。

それをわかってか、わからずか、彼は、ちづるをじっと見てから、ふーん、と気の無い返事を返した。


その後は、ひたすら無言である。

二人とも幹事だが、各クラスから適当に選抜されただけで、あまり面識もなく、会話は弾まない。

そして、池谷くんのみ、最寄り駅が遠く、駅に着くまでの時間が無駄に長い。


ちづるが、こーゆう時、何話すのがふつーの女の子なんだろ…と同窓会で、積極的に男子に絡んでいっていた女子を、必死に思い出していると、池谷くんがふっと沈黙を破った。


「ミッションなんだね、この車」


ちづるは、女子にしてはそれなりに珍しいミッションの免許を持っていて、なおかつ車もオートマチックではなかった。

そんな物珍しさを、なんとか会話にしようとしたのであろう。


しかし、ちづるとしては、特に車好きな訳でもなく、ミッションで取ったんだから、とりあえず、ミッション乗らなきゃ、というだけで車を選んでいるので、特に返す言葉も思いつかず、あ。うん。とだけしか言わなかった。

お人好しな池谷くんは、特に気にした風もなく、興味深そうに、ギアを眺めている。


「よかったら、動かしてみてもいいよ?今、赤信号だし」

何がそんなに面白いのか、ちづるにはわからないが、彼が退屈そうにしていないのに気を良くして、そう申し出た。


「いいの?じゃあ、遠慮なく」

嬉々として、ギアをガコガコ動かす池谷くんに、やっぱり男の子は、こういうの憧れるんだなぁと微笑ましく見守っていた、ちづるだったが、いかんせん、そんなに長い信号ではない。そろそろ信号が変わる頃である。


「あの、信号、変わるから。離してもらってもいい?」


池谷くんは、ああ、ほんどだ、と呟くと、ちづるをそれなりに驚かせることを申し出た。

「運転してるかんじを味わいたいから、この上から、ギアを動かしてくれない?」


え?とフリーズする、ちづる。

や、つまりそれは、ギアを握っている池谷くんの手の上に、手を重ねて操作しろということですか?

突然の理解不能な申し出に、ちづるが反応しかねていると、


「あ、信号変わっちゃったよ?早くいかなきゃ!」

たしかに、後ろに待っている車もいるが、いやなんだこの状況。なんか間違ってないのか?確かに彼氏もなんもいないから、要らぬ誤解を招くことはないけどっ!?

と、混乱を極めるちづるだったが、後ろの車から早く行けとばかりにクラクションを鳴らされて、結局、車を発進させた。池谷くんの右手を自分の左手で、包み込んだまま。


池谷くんは、駅に着くまで終始、ご機嫌であった。満足げな微笑みを浮かべている彼に対して、ちづるは、これが昨今の若者か!?とひたすら当惑して冷や汗をかいていたのだが。


やっとのこと、池谷くんの乗る駅について、ちづるは、ほっと胸をなでおろした。これで、心臓に悪い時間は、終わりだ、と。

緊張のあまり手汗をかいて、気持ち悪いやら申し訳ないやらの左手を、そっと何気なく外そうとした、その時。


池谷くんは、少し上に上がったちづるの手を、すっととらえた。

あまりにも自然な動きすぎて、ちづるは一瞬、反応できなかった。

え?と自分の左手をつかむ、手をたどると、その先には、少し恥ずかしげな池谷くんの顔があった。


「こうしてるの、すごい落ち着く」

「え?」

「佐藤さん、1年の頃、同じクラスだった時のこと、覚えてる?」


そう言われても、顔覚えの悪いちづるである。記憶をひっくり返して思い出したが、1年の男子のクラスメイトなど、おぼろげにしか思い出せない。本気で困ったが、そこは日本人、あぁそうだったねと、上手く合わせてしまった。


「よかった。忘れられてたら、どうしようと思ってた」

そうして、真面目そうな顔からは想像できないような、熱っぽい視線をちづるへ向けた。


「あの時は、助けられてばっかりだったけど、今度は僕が君を守りたいんだ。僕を男として、見てくれない?」

なんだか、さっぱりわからないうちに、人助けをしていたようなかんじのちづるである。

本人は、ひたすら当惑なのだが、しっかりしてる反面、押しに弱いともっぱらの評判のちづるは、無理かな…とちょっと残念そうに彼がしょんぼりすると、慌てて肯定の返事を返してしまったのである。


そんな、流されやすい彼女が、策士な池谷くんに、本気で惚れるのは、時間の問題ともいえるものである。

最後まで、ありがとうございました。

ご感想、ご意見など頂けますと、作者がうひゎうひゃします。

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