#9
裕也はクレイバーと名乗った白兎と握手を交わすと、母親の方に近付く。
母は片目に涙の跡を残し、まだ眠りについている。
裕也が母を起こそうとすると、クレイバーがそっと止めた。
「お母様はそのままで。丁度良いタイミングでいらっしゃる」
「お母さん僕がケガしてから、毎日泣いてるんだ」
「御心配なのでしょう。親とはいつの時代でも、そういうモノです。では出発の際に、一言ご挨拶をして行きましょうか。ミスターユウヤ、こちらをお持ち下さい」
言うとクレイバーはふかふかの手で、一つの貝殻を手渡した。
雫型で丸みがあり、二枚殻の口は固く閉ざされ、表面は薄いピンク色と乳白色が混ざり合いキラキラと光っている。
「夢渡りの通行証のような物だと思って下さい。肌身離さず持って、決して無くさないこと。危なくなった時はこれを壊せば元の世界に戻れます」
「うん、わかったよ」
「もしも、無くした場合は夢の世界に取り残され、二度と戻れませんので、そのつもりで」
クレイバーは強い口調で静かに言うと、裕也の手を取った。
「わかった」
裕也が口元を固く締め、うなずく。
クレイバーが白いふわふわの指先を高く掲げ、パチンと鳴らした。
「では参りましょう。まずは母君の夢の中へ」