#4
病室で裕也は三度目の昼を迎えていた。
昼食を下げに来た柊は空になったトレイを見て満足そうにひとつ頷きを打ち、手早く裕也の口周りを拭く。
「いつもエライぞ!残さずたくさん食べて、早く治さなきゃね」
柊は枕元にある水瓶を手に取り、薬の用意をする。傷口の化膿止めと痛み止めだ。
薬を片手にふと見ると裕也がしきりに手をモジモジさせている。両の手をスリ合わせ眉根を寄せて。
柊がどうしたのかと尋ねると、
「手がかゆいの」
と、裕也。
食後はいつもそうなのだと言う。一時的に体温が上がる為だろうと後に医師は言ったがとにかく、両手の包帯をはずさないように柊は彼の両手をマッサージする。
「痛くない?あんまりかいちゃダメだからね」
優しく言うと裕也は何度も頷きを返した。
「他になにかある?」
尋ねる柊。
ひと呼吸置いて、
「かお……」
ポツリと裕也。
柊も眉根を寄せた。困ったように確認する。
「かゆいの?」
裕也はちがうちがうとブンブン首を振り、
「……顔が見たい」
柊を驚かせた。
「鏡を見たいのね?」
裕也は何度も頷いた。
「わかった。ちょっと待ってて」
病室には手頃な鏡がなかった為、柊はナースステーションまで取りに戻った。またすぐに病室へ踵を返す。
ベッドの上でおとなしく待つ少年の顔を映すと、包帯に巻かれた無表情が少年を見返した。
ひと呼吸の後、
「顔、わかんないね」
呟く裕也。
柊は一瞬息の詰まる空気を避けるように、
「そんなことないよ」
反射的に応えていた。元気付けようと言葉を続けながら先ほど用意していた薬を飲ませる。
「たくさん食べて、良い子にしてたらあっという間に治っちゃうんだから」
「ほんと?」
「もちろんっ」
「いつぐらい?一週間?」
「うーん……?」
少年の純朴な質問に言葉が詰まる。
「今度一緒に江崎センセに聞いてみようか?」
「……」
自己嫌悪に陥る柊を置いて、尚も裕也は呟いた。
「ずっとわかんないままだったら、みんな僕の顔忘れちゃうね」
鏡を見つめる少年。
再び息が詰まる刹那。
その姿に弾かれるように柊は口を開いていた。
「裕也くん、〈夢鏡〉って知ってる?」




