#22
紹介をされた夢防人の小人は胸を張り、腰に手を当てながら裕也達を見上げる。
「いいかよく聞け!この女の子はいい夢をたくさん見る上玉だ!いつもなら一人でも余裕なんだ、それをお前達が余計な事しやがるからブクブクとデカくなっちまって、おかげでわらわらいっっぱい湧いてくるわ、仲間を呼ぶ羽目になるわ……!」
「ブクブク?」
裕也は何の事か合点がいかずに、由香の寝顔を振り返る。ベッドの中のクラスメイトは先ほどと変わらず安眠を貪り続けているが、別段太った様子はない。
クレイバーが裕也に言う。
「夢を見ている時に、夢の力が結晶化するんですよ。小さなボールみたいに。夢の内容によって変化しますが、力が強いとそれが大きくなり過ぎてしまう」
「へぇー、それでブクブク。由香ちゃんが太ったのかと」
「違うわい!」
小人にツっこまれた。
「もともと夢を見る時間は短いですからね。結晶化するのも稀ですし、そんなに大きくなりません」
「僕のせい?」
「ユカ様が抱くミスターへの愛が強かったのも原因ですが、自己の欲求と愛情表現は欲望と紙一重ですからね。いい夢になればまだいいのですが、欲望が強く出ればそれはいい夢とは呼べません。むしろ悪い方です」
「愛とか言われるとすっごく恥ずかしいんだけど、いい夢にする必要があったから僕にあんな事言わせたのかっ!」
「ミスターも本心でしょう。まんざらでもなかったくせに」
「うるさい!」
「こら巨人ども、お取り込みのとこ悪いんだが、用が済んだら出てってくれないか?まだその辺に【ヤツら】が潜んでるし、このお嬢さんがさっきの夢の続きを見る可能性もあるんだ」
「やつら?ってさっきクレイバーも言ってた……!?」
「結晶をエサにして食べる悪いヤツらで……」
そこまで言って、三人の視線が緊張感と共に由香の寝顔へと集まる。予感ともいえる兆しだ。
キ……ィィン
小人の持つ剣から甲高い音が響き、それと同時に由香の寝ている頭上に光が集まっていく。
「……始まりましたね」
クレイバーの冷静な声に弾かれるように小人が机の上を駆け出す。
「お前らさっさと消えろよ!これを狙ってさっき逃げた連中が戻って来るぞ!」
「行きましょうミスター」
「何処へ?」
「ああ、そうでした。もしもし?夢鏡が見たいんですが【ミカガミの姫】はどちらに?」
白兎が小人に尋ねる。
勉強机の天板は裕也達からすればさほど大きくないが、小人にとっては体格の何十倍ものスペースだ。走り出してからさほど距離は稼げておらず、ようやく辿り着いた机の角で振り返りながら小人が答える。
「ひめぇ?……サリィならたぶん教会だ。用があるならどっかの水たまりで呼べるだろ!ついでにありゃあ姫じゃねえ、ババアだ」
言うと小人は背中の剣を抜いて机から身を躍らせた。
空中で叫ぶ。
「ジン!モーリス!さっさと出てきて手伝え!ベッドの下に一匹来てる!」
すると先程赤帽子の小人が出てきた本棚の同じ場所から、二人の小人が現れた。
「待って!レン、今そっちに行く!」
青い帽子を被って大きな弓を背負った青い服の男の子と、
「ゴミ箱の影に小さいのが一匹居るわ!ジンはそっちを相手して!私がレンの援護するから!」
黄色いワンピースを着た、緑色の長い髪の女小人。
小さな身体とは思えないジャンプ力で空中を舞い、床に置いてあったクッションやカエルのぬいぐるみに着地して、すぐさま走る。
先行して駆ける赤小人のレンは、ベッドの脚にまとわりつく影、丸く蠢く闇の塊に剣を向けた。ソフトボール程のサイズのそれは、濡れた毛糸を丸めたように表面が波打ち、垣間見える触手が足と腕の役割を担って居るようだ。
「さぁ、ミスターユウヤ、ここは彼等に任せて行きますよ」
白兎の声に裕也がうなずく。差し出された白いふかふかした手を取る。クレイバーは部屋のピンクカーテンを掴むと大きく広げるように舞わせた。カーテンが白兎と少年を包み込むようにして呑み込むと、部屋には小人達の三つの声と、少女の寝息一つだけが残された。