#2
少年の名は 菊地 裕也 といった。
好きな授業は理科、図工に体育。中でも図画工作で絵を描くのは大の得意で格別に大好きだった。
「いまごろミンナなにしてるんだろうなぁ」
溜息混じりに傍らの目覚まし時計を見る。
二本の針は午前の11時15分を指している。
今日は水曜日。
時間割は国語/体育/図工/図工/給食/掃除。
体育の後で図工がなんと二時限続き、さらに給食を食べてから帰りという夢のような時間割。
唯一最初の国語だけガマンする必要があるが別に不得意ではないし、後に続く満ち足りた時間を思えば楽しくすら過ごせる。
ちょうど今、四時限目の図工が始まった頃だろうか。
自分は何をやってるんだろう……
否応なく、また溜息が裕也の口から漏れる。
それに応えるかのように
コンコンッ
ノックの音。病室のドアが開く。
現れたのは淡いピンクの制服に身を包んだ女性の看護師だった。
思わず身構える少年。疚しい事は何もないのだが、つい体が反応する。警察官でも同じ気分が味わえるがこちらはどことなく甘い匂いが感じられる。
顔を朱らめた裕也に近寄り、
「気分はどう?痛いトコロとか無い?」
笑顔で覗き込む。下を向く裕也の視界に、豊かな胸の膨らみと〈柊〉と書かれたネームプレートが映る。それがどうやら彼女の名前らしいが、残念な事にまだ裕也には読み取れなかった。
大丈夫ですと言わんばかりにぶんぶん首を振る裕也。
今は痛み止めの薬が効いているだけなのだがそれは彼の知る処ではない。頭も少しボーっとするがそれは寝起きの為だろうと思えた。
柊看護師はその仕種に微笑みながら、
「じゃあ包帯替えるね」
頭の包帯に手をかけ、仕事を始めた。
裕也の身体は、
今、あらゆる所を包帯に巻かれている。
頭部から顔面は右眼を隠し、右肩、胸部、両手足には多数のスリ傷が見られる。もちろん事故によるものだ。痛々しいそれらを順に手早く交換していく柊。彼女が動く度に、優しく甘い空気は裕也の周りに増えていき、包み込む。そして、
「……」
赤面する裕也。
たまらず口を開く。
「あの……お母さんは……?」
尋ねる。
入院してからずっと付き添ってくれていた母の姿がない。
いや、先程担当の先生と話があるからと言って出ていったのはわかっている。だが、思わず聞いてしまった。そして、
「今ね、お母さん……先生と大事なお話してるからチョット待ってようねー」
思った通りの返答があった。




