#13
長い耳を折って両手で押さえながらクレイバーは鼻をヒクヒクさせ、何故か楽しそうに笑う裕也に不機嫌な声を投げる。
「ミスターユウヤ、一つお願いがあるのですがね、あそこにある時計をもう少し遠ざけて頂きたいのです」
リビングにある小さな本棚、その上に置かれた金属製の置時計を指差す。
裕也が足元に擦り寄る猫達を踏まないように近付き、置時計を手に取りながら尋ねる。
「よっぽど時計が苦手なんだね」
「夢世界において、天敵ですよ、て・ん・て・き!」
白兎はアカンベーして見せた。
裕也が時計の盤面を見ると、病室で見たのと同じように、針が通常とはかなり早いスピードでクルクル回り、せわしなくそこを走る小さな人影があった。
「あ、お父さんだ!」
秒針、分針、回転しながら迫り来る針達。それを避けながら走るリクルートスーツを着た小さな男性の姿。
「おお、時間に追われていらっしゃる。哀れな……」
白兎が首を軽く振った。
「時間に捕らわれ、時間に追われる。こんなに哀れな事はない」
「ねぇ、助けてあげてクレイバー!」
「私と同じように時計を止めてあげればよろしいかと」
裕也の訴えに白兎が猫を撫でながら答えた。すぐに時計を裏返し、電池を引っこ抜く。時計を表返すと父親の姿は消え、止まった針が残っていた。裕也は周りを見る。すぐ近くに父親が現れると思ったのだが、リビングにもキッチンにも、その姿は無かった。




