#12
自分の家なのに手招きされて不思議な感覚を味わいながら、裕也はドアを閉めた。
いつものように靴を脱いでスリッパに履き替えようとした所で、自分が裸足だった事に気付く。病室から飛んで来たのだから当然だ。靴を脱ぐ動作はあきらめてスリッパだけを突っかける。
玄関から細く伸びる廊下を突き当たると、左手にリビングへのガラス戸がある。白兎がそのドアを開けようとして、一瞬ためらい裕也を振り返った。
「どうぞ、開けて下さいミスター」
振り返った眉根が寄っているのを見ると、住人を優先したわけではなさそうだが、促されて裕也はドアノブに手をかける。その背後で白兎の表情が若干引きつっている気がした。
ガチャリ、ドアを開ける。
10畳程の広間、中央に小さなテーブル。それを囲うようにソファが並び、正面にはテレビが陣取る。
奥まった場所にダイニングテーブルとキッチン、裕也が見慣れた部屋がそのまま……
「にゃーん」
……
……
猫が居る。
「にゃーん」「にゃーぁん」「にゃにゃーん」「にゃにゃーぁん」…
いっぱい居る。
黒いの白いのトラぶちシャムマンチカンわらわらわらわらわらわらわらわらわらわニャンニャンにゃんにゃかお祭り騒ぎだ。
裕也があっけにとられながらも、その愛らしい小動物に微笑んだ背中で、クレイバーが尋ねる。
「お母様は猫がお好きなんですか?」
「うん。好きだよ。一軒家じゃないから飼えなくて残念がってる。けどこんなに沢山飼うつもりだったのかな」
「さて、それにしても足の踏み場もないとはこの事。ニオイはまだしも騒がしいですね!」
ドアを開ける手前で察知したであろうクレイバーは部屋の片隅でイラ立った声を上げた。裕也から見れば猫の群れに戯れるデカイ白兎なので、微笑ましい限りなのだが。