#11
白い指先を向けられた三日月は、照れるように桃色に染まり、細いカラダを一瞬にしてふくらませ蒸気を上げながら満月に変わる。 裕也がそれに歓喜の笑みを見せると、月は照れながらくるりと一回転して豊満なウエストをぷりぷりと振ってみせた。
白兎と少年を乗せた雲塊は翼の生えた白馬のように姿を変えながら空を駆ける。夜闇に乱雑とそびえる高層ビルや鉄塔を縫いながら、時折高く咆哮を上げ、風をまとい、小さな雲を蹴散らしていった。
「まずはあれに見える扉から参りましょう」
クレイバーが声を上げ、ビル群の中に埋もれる一画を指し示す。赤茶色に灼けたレンガ作りの外観、幾つもの窓とドアが整列している。近代的な構造に外からレンガをあしらったマンションのようだ。裕也は白馬の背中にしがみつき、その建物が何かを確かめていた。
「僕のウチだ!」
見る間に近づくマンションのドア。それはまさしく裕也が暮らす見慣れた扉であった。
「おや、さようでしたか。ではおじゃまします。」
「え?カギがないよ」
「カギがないとは無用心な」
裕也の言葉に呆れた白兎。
雲馬はドアの前にひらりと舞い降り、その背中から荷を降ろすと空に駆け上がりまた雲に戻って流れた。
荷物のひとつ白兎のクレイバーは黒い扉を軽くノック。
「最近の扉はカギも装飾もないのですね。実にシンプルだ」
そして無造作にドアを開ける。
「あれ、開いてた?」
ドアノブに目を向ける裕也は、いつもそこにあるはずのカギ穴が消えている事に気付いた。まるでドアノブを交換したかのように。だがそれを握ってみると、いつもと同じ感触が手のひらから腕に伝わる。
「さぁ、入りましょう」
ウサギが中から手招きした。




