#10
再び裕也の身体を浮遊感が包む。
次の瞬間に七色の光りが弾け、視界一面を桜色に染めた。
空間に流れる桜色は花びらの渦となって逆巻き、裕也の身体を飲み込む。
「カイをしっかりと握って漕ぎ出しなさい。恐れず、流れを受け入れて飛び越えるのです」
頭の上からクレイバーの声がした。
裕也は右手に握り締めた貝殻に力を込め、花びらの渦に向かって突き入れた。
するとふわりと身体が浮き上がり、ピンクの渦は水面のように波を打つ。裕也の身体は花びらの中を舞うようにポンと浮かび上がった。
「クレイバー!」
「上手ですよミスター!さぁ、次はジャンプしますよ、おもいきりけって!」
裕也は自分の頭上にふわりと浮かぶ白兎の背中に向かって手を伸ばし、桜色の水面を蹴った。
高く、高く踊り上がった身体はピンクの波を飛び越え、青い夜空を突き抜けた。
星が無数に広がり、遠くに見える三日月は赤や紫に色を変える。
眼下にはビルが建ち並び、都会的な風景がキラキラと光っていた。
「お見ごと!」
伸ばした腕を、白兎が掴む。
「あの雲に乗りましょう」
目の前に流れて来た馬……の形をした真っ白い雲に、裕也とクレイバーは跳び乗った。
「ここは夢の世界なの?」
裕也が尋ねると、白兎は鼻をフフンと鳴らし、
「さぁて?考えた事もありません。お母様の夢の前、もしくはずっと奥の方かと」
「お母さんが見てる夢?」
「まだ、中ではありませんよ。外と呼ぶのがよろしいのでは?」
クレイバーは遠くを指さす。
「月が出ていますから」




