扉のこちらとむこう
説明回のつもりでしたが、それほどでもなく、長くもない半端な感じになった気が・・・
あれから数時間、奇妙な同居人ア-ロンとサミュエルとの粘り強い対話が続いた。
なんとか入手した情報は有益であったが、代償としての精神疲労度合いが見合ったかというと正直分からなかった。
「で、結局、オマイらと上手く付き合えば、超能力が使えると?」
「またザックリだねぇ」
呆れた神埼の声をスルーし、ふよふよと浮かぶ小人型おっさんを見つめ、得られた情報をまとめる。
この二人というか、二匹と言うべきか、コイツらは錬金精霊と言うらしい。そして俺の新しい心臓に宿っているそうだ。そうなると、手術をした皇医師は当然知っていると言うことになる。
「錬金術の圧縮って、どこまで可能なんだ?」
「原則として事象は物質本来の特性以上は示さぬ」
「いや、よーわからんが」
「ただの土を圧縮しても、石以上の硬度は持たないってことじゃないの?」
「ん~?じゃぁ鉄粉を圧縮すれば、鋼鉄位の強度は持たせられると?」
「基本はそうっスね。でも、鉄だけでは鋼鉄にはならないので、組成は大事っス!」
「そうは言っても、炭素の割合とか詳しく知らんぞ」
「その辺りは勉強するしか無いんじゃない?」
「えぇ~」
勉強の二文字にベッドへ倒れ込む。
正直なところ理科は苦手なのだ。
「多少は勉強してもらう必要はあるが、最低限の知識としっかりしたイメージがあれぱ、ワシらがサポートするのじゃ~フンハッ!!」
「・・・」
「どうしたんだ、恭一?」
「いや、精霊とは言え、このふざけた存在に理科系知識が負けている事実が直視できなくて」
ぼむっ、と肩に何かが置かれたのを感じ、振り返ればドヤ顔のサミュエルが素晴らしく煌めく白い歯と満面の笑顔でサムズアップを決めていた。
ゴンッ!べちっ!!
的確にスイングされた左の裏拳が、絶妙なる速度と角度でサミュエルを撃ち抜くと、間髪を入れずにサミュエルと部屋の壁が生々しい音を奏でた。
ぷらぷらと手首に痛みがないかを確認をして、右手で最終チェックをしながら後ろを見る。
カエルの如く叩きつけられている錬金精霊サミュエル。
そしてあわあわと手を持ち上げたまま、所在無げに狼狽えるア-ロン。
「ま、まぁ兄者・・・ワシらがサポートすれば、イメ-ジと現実の壁はあるが、異能の発現は、問題ない」
よろよろと体を起こしながら、サミュエルが呟く。
どうやら勉強云々は冗談だったようで、圧縮できる異能は現実を越えることはできないが、そこに近い形で実現ができるようである。突拍子もないイメ-ジは現実補正で、レベルダウンするといった所か。
まぁ理論的な所で悩まずに異能が使えると言うのは安心した。とは言うものの、俺は何処でこんな力を使う羽目に陥るというのか。
使わざるを得ない状況を想像して、思わずぞっとする。安穏や平穏とは程遠い世界だ。
基礎的な情報をまとめ、夜も更けたと言うことで、今日はお開きとなった。
「そういや、俺は明日からどんな顔して登校すりゃいいんだ?」
ぶちのめした連中の事を今さらながらに思い出し、呆然とする。
「とりあえず・・・皇医師に朝一で連絡すっか」
分からないことは、いくら考えても答はでない。ならば、出せる人間に頼むのが最適解だ。
頭は悪くともそう言った要領の良さは、顔も知らない親のお蔭かも、とこれまた答の出ない思考を巡らせながら、意識を眠気の妖精へ引き渡すのだった。