子猫のコンチェルト
征暦2514年6月20日 09:05PM
九州ステート 鹿児島カウンティ カゴシマ・シティ 第2種禁止区域
連日噴火が続く桜島は、2100年代半ばより立ち入り禁止となった。一時は大規模な移住も計画されたが、九州を統治する複合企業体〈ロレーム・イプサム・ノイン〉の新技術による防護フィールドのおかげで、噴火による揺れを除く、噴煙と火山灰の負担から解放され、禁止区域は存在するものの継続的な都市活動は続いており、九州ステートの中核都市として発展している。
桜島の立ち入り禁止区域で、噴火の音に混じる爆発音を聞く者は少ない。
飛び散る火花。
砕かれる火山岩。
常人の視力では捉えられない何かが、冷えた溶岩等という、足場の悪い場所で激しい戦いを繰り広げていた。
ドドンッ!!
ギャギャギャッ
破壊音、衝突音、爆音がそこかしこで発生しては上塗りしていく。
異能者同士の高速戦闘であった。
黒い戦闘服の拳が的確に急所を狙って放たれるが、突如高熱の塊が出現しては、その軌道を逸らしていく。掌底や裏拳で弾くが、黒いスウェットが時折思い出したように放つ蹴りが軍服の接近を阻んでいる。
キィンッッ
場違いな急速冷却音とともに、スウェットへ氷のナイフが10本近く降り注ぐ。
「「「キィ」」」
何かが鳴いた。
氷の刃が突き刺さった場所に無数の歯を持つ口が開く!
その間に迫る戦闘服へ、スウェットが右掌をかざすと、先程放たれた氷のナイフがそのまま吐き出され、戦闘服の右大腿へ突き刺さる。
「ぐうっ?!」
戦闘服から溢れた苦悶の声は女のもの。
ついに足が止まった相手に、スウェットが笑う。
「残念だったなぁ。放出系と身体強化系じゃぁ、オイラの相手は厳しいぜぇ~?」
放出系ー戦闘服の仲間の火球や氷刃といった攻撃を、全身に異形の口を生やして吸収しながら、スウェットは近づいていく。
掌から先刻同様に、火球を膝をついた相手に容赦なく放つ。
が、撃ち抜かんと放たれた火球を屈むように回避する戦闘服。そのまま飛び込むように前転し、回転エネルギーを加えた踵を落とす。
スウェットは慌てて後退するが、油断と足場の悪さに両腕を交差する。
ゴキンッ
鈍い音が聞こえた。
「ぐぉぉっ・・・いてえ、糞ッ!」
呻きながらたたらを踏むスウェットへ追撃をかけるものの、氷刃と火球の弾幕を張られ、逆に距離をとる。
同時に水と火が反応し、一面水蒸気が広がった後にスウェットの姿はなかった。
「逃げられたか・・・」
辺りを探索するも、姿無しの報告を無線で確認しつつ、戦闘服は悔しげに呟いた。
征暦2514年6月18日 11:12AM
九州ステート 福岡カウンティ フクオカ・シティ郊外
「大尉」
声に応えて、金髪の女が振り返る。
白い廊下に、黒い軍服が対照的な空間に二人の人物が向かい合う。
レジーナ・カーウェル大尉、 〈ロレーム・イプサム・ノイン〉の機密防衛組織の特務第3小隊 隊長である。ブラジル人とアメリカ人のハーフだが、日本生まれの日本育ちだ。ラテン系の血筋故か、軍人らしく引き締まった肉体に不釣り合いな果実を胸部に搭載していた。
「どうした、イワン?」
「【ケムダー】が確認されました」
イワンと呼ばれた男が手元の端末を操作し、レジーナへデータを送信すると、レジーナの視界にデータ受信とウィルスチェック完了のメッセージが表示された。
「カゴシマか」
「はい、移動挺は抑えております。召集をかけますか?」
「頼む。ブリーフィング後に、すぐ出られるよう通知しておけ。」
「はっ!」
イワンをその場に残し、自室へ急ぐ。
はやる気持ちに対し、足の遅さがもどかしい。装備を整え、ブリーフィング室へ向かうべくドアを出る。振り返ると飾り気のない部屋に唯一、卓上の写真立てが見える。
「姉さん・・・待ってて」
部屋の明かりを落とし、廊下を急ぐ。
ストック完全に切れましたので、
不定期更新とあいなります