ハッピーエンドへのすゝめ
今更感が否めないが前世ものです。
書きたくて書いてしまった!!!落ちがないけど、それでもよかったらどうぞ!!
いや、読んでくれるだけで嬉しいです。
「いいなぁ、こんな人たちに出会えたら人生薔薇色だよ。きっと。」
おいおいっ。そんな言葉、どこで覚えたんだ~?
内心、呆れながら来年小学生にあがる我が子に視線を向ける。
いや、我が子の視線の先に。
・・・これは確か、最近流行りのネット小説が映画になった作品だったか。
「落ちてないかなぁ。あんな人。」
「犬や猫じゃないんだから」
まだ幼さのある声にクスクス笑いながら答える。
「確かにー。ぱぱ、見てるとねーだきょうも必要かなって」
「・・・パパが聞いたら泣くわよ~」
きっと意味なんてわかってない。
娘はどこか楽しそうに笑い出す。本当にどこで覚えてきたんだか。
確かにこの画面に映るイケメン俳優に比べたら、夫はそりゃ劣るだろうが。
まあ、人生においてこんなキラキラした人たちと関わる機会など巡ってこないだろう。
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・・・そう思っていた。
いやまあそう、だった。その人生における私はそうだったのだ。
平凡な私は、まあ平凡な男性と結婚し、平凡な家庭を築いた。
いや別に後悔なんてしていない。平凡最高ではないか。
平凡万歳である。
だから不満などまったくないし、可愛い娘にも恵まれ、確かに幸せだった。
今、の私はそれをとっても痛感している。
私には前世の記憶があるのだ。
一応、言っておくけど危ない人、とか頭のおかしい人、とかでは断じてない。・・・本当にあるのだからしょうがない。
まあ思い出したのはつい最近だけど。
アーサー・ノーティス。
これが今の私の名前である。男の子のような名前だけど、気に入ってる。カッコイイでないの!
でも、男の子みたいなのは名前だけだ。
初対面でまず男の子に間違えられた事はないし。さらに言えば、・・・実年齢に見られたこともない。それはきっとこの低めの身長に若干タレ目のこの童顔の顔のせいだ。
「アーサー、聞いてる?」
おおっと、まずい。全く聞いてなかったぞ。
「ええ、陛下。聞いてますよ。」
「ならさっきから無言なのはどうして。私といるときに考え事かな?」
「いえまさか。そんな滅相もない」
「すごい棒読みだ!その無表情もいいね!」
変態か。
第一、そんなセリフをそんなキラキラした笑顔で言うな。
ガッシリとした肩幅に筋肉質な身体。金の髪に青い瞳。腰まであるサラリとした線の細い髪を横に流し、薄い大きな白地の布を上半身にゆったりかけて着ている。若干だらしなく思えるこの人はこの世界の王様、ディラン陛下である。
そして私はこの陛下の妻、ウィア王妃の世話係である。
私は知っている。
この王と王妃、世間では恋愛関係はないと思われているが、・・・実はそうじゃないことを。
この王様、民の声に耳を傾ける優しき王である。・・・しかし如何せん。女関係がだらしがない。
基本、来るもの拒まず、去る者追わずの姿勢なのだ。
いやまあ、女の敵だよ。簡単に言えば。
民のあいだでは「いい王なんだけど、ちょっとね~」な状態である。
だけれどそんな王にウィア様は長い長い片思いを続けていらっしゃる。・・・王妃になった今も。
ディラン陛下にはお兄様が一人いらした。そして陛下はいわゆるお気楽な次男坊で。
・・・本当ならその方が王であるが、三年前流行病で亡くなられてお気楽次男坊だった陛下に白羽の矢が立った。そして彼が即位をし、婚約者だったウィア様が王妃になられたのだ。
ウィア様と陛下は生まれる前からの婚約者同士の間柄だったそうだ。
そんなウィア様の世話係に任命されたのはつい最近のこと。ちょっとした出世である。
私の他に世話係は5名。そのうちの一人、ノーラ・シュカンナとふたりで即位後の二人の初夜の朝、声をかけた。
その時である。
ドアをノックしたその瞬間に強い既視感、いやフラッシュバックした映像があった。色んな映像が超早送りで頭の中に流れ込んでくる。
頭がグワングワン高速で回されてる感じだった。立っているのがやっとの位の強いめまいがしたのに、よくその場で倒れなかったと後で自分を褒めたさ。
そして、一番気になったというかはっきりと見えたのがあの映像だった。今でも鮮明に思い出せる。
30代頃の女性と幼い少女が二人でテレビを眺める、そんな映像。
いや問題はそのふたりが見ていたその流れる映像だ。・・・映るのはとある女性がやけに絢爛豪華なドアを叩こうとしている姿。
その女性は目の前にいたノーラ・シュカンナに瓜二つだった。いや、似ているどころではない、そのまま切り取ったかのようなモノで。
・・・ちょっとまってええええええええええええええええええええええ!!!!!!
その時の私の心情であり叫びである。
その時だけじゃなく、今だって叫びたい。いや出来ないけど。
まあ、私がそんな混乱の前でも、実際の彼女はドアを開け王と対面、いや顔はその時点では拝見していなかったか。でも、あんだけの混乱はきっと今の人生ではあれっきりだと思う。
・・・いや、そうだと思いたい。まあそのおかげでここがどこだか分かったのだけれど。
・・・けれど、わかったところで今更だど思う自分もいるのだ。
「聞いてる、アーサー」
おおっと、また聞いてなかった。まずい。
「ええ陛下。聞いてます、聞いてます」
「わあ、嘘っぽい。ほんと面白い。ね、アッシュとはどんな関係?」
「アッシュ様ですか。陛下の騎士と王妃の世話係、でしょうか」
「ん、傍から見ると確かにそうだね。じゃあ、マービィスとは?」
「・・・陛下の補佐官兼魔術師様と王妃の世話係、ですが」
「・・・ではトリスとは?」
「陛下の世話係と王妃の世話係、じゃないですか」
なんだい。言いたいことがあるならはっきり言ったらどうなの。男のくせに!
・・・そんなこと間違っても口には出せないけれど。
しかし、アッシュにマービィスにトリスだと?可笑しいぃぃぃ・・・どんどん増えてくぞ。
大体この役目は私、ではなくノーラ・シュカンナ、彼女の役目だったはず。
主役は私ではなかったはず!
・・・どこで間違えたのだろうか?
(いいなぁ、こんな人たちに出会えたら人生薔薇色だよ。きっと)
それは前世の私の娘がとある映画を見てたまたま呟いた言葉。
「・・・陛下。この状況はいったい何でしょう。」
しまった。また思考のうちに沈んでいた。気付けば陛下の腕の中。・・・いやこれは押し倒されてるではないか。
まずいでしょ~。ベッドはまずいでしょ~。てかいつの間に移動したんだ。ホント、手ぇ早いな!
「いや~どこまで気づかないのかなと思って」
「今気づきました。起きていいですか。」
「ふふ、・・・だ~め」
おわ。すっごい、いい笑顔だ。
「だって面白くないんだもん。」
「ロリコンですか」
「ロリ・・・なにそれ?」
知らないか。
「・・・このまま先に進んだら君は私に興味がわくかな?」
「・・・」
興味・・・。じっとりと品定めをするかのような目つきだ。妖艶に見えるのはなぜか。
「最低、だとは思いますが・・・興味は、下がります。」
「へえ。それって上下するものなの。」
「・・・下がります」
「そう、ふふ」
「・・・」
子供のようにクスクス楽しそうに笑う陛下にゾクリとする。
・・・ほんとになんでこんな展開に。
・・・出来れば関わりたくなかった。
何故なら私は知っているから。
物語の結末を。
それはどっかの誰かがネットで書いたのがドラマ化し映画化した作品だった。
・・・物語は急遽即位した王とその王妃の初夜、その朝にとあるメイドが声をかけるシーンから始まる。
実はそのメイドは王妃の世話係。王妃とは冷え切った関係であり、どこか孤独な王は楽観的で優しい彼女に段々と惹かれていき、彼女もそんな彼に段々と惹かれていく。その間、相談役として現れる魔術師に騎士、同じ世話役の彼らと交流をとりながらも少しずつ恋愛も含まれていく王宮ラブロマンス的な物語だった気がする。別段、その映画にハマっていたわけではないからちょっとあやふや。一生懸命思い出そうとしてもそれは断片的なものばかりで。
でも、間違いないのはあの物語の世界はこの世界で。今や現実。
そう。前世でたまたま見ていた映画の世界が現実になってしまったのである。冗談ではなく。
断片的にしか出てこないけれど、私は知ってる。そう、あの物語はハッピーエンドでは無かった。
あの時、あの頃の娘と見るにしてはちょっと早いかなと途中で見ていて、私は、思ったのだ。
王と
メイド。
彼らの恋愛の問題は身分差。・・・それと王妃。
冷え切った関係の王と王妃だったが王妃が王に恋情を抱いていたから、あの結末だったのだ。
・・・困ったことに私、あの王妃様嫌いじゃないんだよねぇ。
本当だったら一目散に逃げ出すところ、未だにここに残り続けているのがその証拠。優しい優しいウィア王妃様。これは物語じゃない、現実なのだから。
・・・あの結末まであと少し。
どこで、どう間違えてノーラの位置にちんちくりんな私が来てしまったがわからないが、来てしまったのだ。しょーがない。
バッドエンドなど冗談じゃないわ。
結末としては美しかったが、現実となったいまではただの脅威でしかない。
(いいなぁ、こんな人たちに出会えたら人生薔薇色だよ。きっと)
・・・してやろうではないの。
どういうものがそれに繋がるのか具体的な案はないが、このままだと駄目だ。
私は主役ではない。
会えたからだと言って薔薇色の人生などふってこない。
だから自分で掴みとるしかない。
がむしゃらに足掻いて、見苦しくとも掴みとるまでだ。
だだ、時々前世のあの平凡な人生が羨ましく思うのも
いなめないし、しょーがない。
前世もの大好きです。
主人公が主人公じゃないけど、みたいなものが。
感想くれたら、作者はきっと泣いて喜びます。