まさかの日常崩壊です。
その日、ヤツが花束を持って我が家にやって来た。
そして何を思ったのかヤツは私に、それを「あげる」と言った。
「は?」
「だから、プレゼント」
「意味がわからない」
「律。」
「いや、だから」
「律。早くしないと」
「有り難くいただきます!!」
私が花束をヤツから奪うように受け取ると、ヤツは満足気に口の端をあげた。
「受け取ったな。」
「え…」
「じゃぁ、おばさん達に挨拶しないとね。」
「え、ちょ、は!?」
「それ、花言葉、結婚しようだから。」
「…嘘つけ!カーネーションにも、かすみ草にも、そんな意味ない!」
「母の日とは、色が違う。」
「でも、絶対違う!」
「ま、違うけど。で、守屋律になってくれるよね?」
「うわっわ…」
また、仁輝の悪質な悪戯なはずなのに、何故か顔が暑い、言葉もうまくでない。
「律、耳と尻尾。」
仁輝は柔らかく笑みながら、毛並みを確かめるようゆっくりと私の尻尾を撫でる。
ってか、なんだこの雰囲気!?
「さわ」
「律、守屋 律になってくれるよね?」
優しげな笑顔の向こう側に何かある気がして、ただ何も考えず頷いてしまった。
仁輝がニヤリと笑ったのにも気付かずに…
「好きだよ、律。」
真っ赤に熟れたトマトのような頬に仁輝は静かに口付けた。
私が持っていたピンクのカーネーションの花束がスローモーションで床に落ちていった。
「尻尾」
仁輝はビックリして固まった尻尾を軽く撫でながら、今までの笑顔が嘘かのように無邪気に笑った。
「律、律。」
「なっ、なにさ…」
「親父さん許してくれるかな?」
「し、知らん!!!」
とりあえず、この雰囲気いやだ!
「やれやれ…」
仁輝が小さく溜め息ついたけど、私は気にしない!
「このままですむと思うなよ。」
思わぬ仁輝の低い声に、若干体が震えたが、今が大切な私は気付かないふりをしてみた。
そのせいで怖い目見ましたが、それは別のお話。
花言葉:あなたを熱愛してる