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受験JKと心霊探偵の事件変奏曲  作者: 星乃紅茶
8 第6変奏「終曲」 finale
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第6変奏「終曲」 finale

「あ、あった……」

 合格発表の日。

 自分の番号を何度も何度も確認して、ようやくユメコは相澤を振り返った。

「確認、長かったな」

 人の波に呑まれないように、ユメコの体を支えて心ゆくまで確認させてやっていた相澤は、ようやく肩の力を抜いた。

「俺様がマンツーマンで教えていたんだ。当然」

 と言いつつ相澤も安堵し、心から嬉しそうな表情になった。

 ユメコの頑張りを知っているだけに、だろう。仕事につき合わせていたことも、実は気にしていたのだ。

「ユメコ?」

 ユメコは、ポカンとした顔のまま固まっていた。

 相澤の細く長い指で(ひたい)を軽く弾かれ、ようやく瞳に力が戻り、相澤の顔を見た。

「今のはびっくりしてしまいました」

 頬を膨らませかけ……ようやく緊張が緩んで、ほにゃりと顔がニヤけてしまうのを両手で押さえた。

「言っておくが、ユメコ」

 相澤が長身を折り、ユメコの目線に合わせるようにして、その瞳を覗き込んだ。

「ここはスタートであって、ゴールではないぞ」

「は、はい。わかっています!」

 ぴしっと背筋を伸ばすユメコに、

「まだ、そうとうテンパっているな」

と相澤がため息をついた。

 ふわっとユメコの体が宙に浮く。いつものように、相澤の腕で抱き上げられたのだ。

「――はわわ、恥ずかしいですッ。こんな人がいっぱいのところで!」

 けれど、周囲でも胴上げとか抱擁とかが行われていて、今はあまりこの状態でも目立ないような気がした。

 だからユメコは息を吸い込んで鼓動を少し静め、抱えられたまま、相澤の頬に両手を添えた。

 思いを込めて、微笑みかける。

「……ショウ、ありがとう、本当に」

「――どういたしまして」

 相澤もまた、口の端を持ち上げてニヤリと微笑んだ。

 それはユメコにとって、病院ではじめてショウと出逢ったときを思い出す表情だった。

「あたしね、ここでいっぱい勉強して――もし、将来、ショウがお父さんの会社を手伝うことになっても、探偵事務所を続けるとしても、役に立てるようになりたいんです」

 ユメコはそこで言葉を切り、瞳に力を込めて言葉を続けた。

「いつまでもお荷物はイヤなんです。ちゃんとあたしも、ショウを支えていきたい」

 それが、途中で志望大学を変えた理由だった。

 少しでも、相澤――ショウと同じ位置に、そばに立っていたかった。

「それなら礼を言わなければならないな、人生のパートナーに」

 相澤は、ユメコの腰をつかみ、その腕を天に向かって真っ直ぐに伸ばした。

「えっ――きゃあッ!」

 自分の背ではありえない目線の高さに、ユメコが思わず悲鳴をあげる。

 足をバタバタしようとして、スカートであることに気づき、素直にそのまま掲げられる。

 ユメコを見上げる相澤の表情は、悪戯っぽく、だがまぶしそうに……そしてこの上もなく嬉しそうだった。

「このくらいで悲鳴をあげられては困る。心霊探偵ならば」

 相澤はニヤリと微笑んだ。

「いじわるです。出逢った頃と――変わりませんね」

 頬を膨らませて言うユメコに、相澤は楽しそうに笑った。

――けれど巡り逢えて、本当に良かった。

 一度死んだけれど、また復活した、意思の強い、優しいひと。

 これからも、いろいろ事件はあるだろうけれど、一緒に歩んでゆけるひとだとユメコは感じている。



 郷田翔平自身は、将来行政を動かす仕事に就きたかった。

 だが一度死に、この体に転生してからは希望が変わった。仕事も軌道に乗り、このまま現状を続けていくつもりだった――心霊探偵、という。

 父親の仕事のこともあるので、いつまで今のままの日常を続けていけるのかは、わからない。

 だが、自分にしか解決できない依頼がある限り、この心霊探偵を続けていこうと思う。

 その辺りはユメコとも相談していた。

 人生は迷うことばかりだが――ユメコと一緒ならばそれも楽しいだろう。

 ここは、ゴールではなくて、スタート。

 それは、相澤自身にもいえる言葉だった。





 心霊探偵として、ふたりが一緒に歩む道に、幸あらんことを!




【 完 】

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