可哀相な春日井くん
「僕は死んだらどこへ行くんだろう。」暗い屋上の真ん中で、春日井くんが意味のない質問をした。私はどう答えるか躊躇った。
黙ったままの私の側を、8月の終わりの冷えてきた風が掠める。
いつまでも言葉を返さない私にしびれを切らしたのか、彼は空を見上げた。つられて私も見上げる。そこには薄い月がポツンとある。
「どうしてそんなこと?」
やっと出た私の言葉にも何の意味もなかった。
「だって、僕らはこの世界から逃げるために死ぬのに、もしまた、生まれ変わってこの世界で生きていかなくちゃいけないなら死ぬ意味なんてないじゃないか。」
こういうとき春日井君は賢いと思う。同時に臆病だとも思う。
私は彼のそういうところが嫌いじゃない。
「輪廻転生?」
私の問い掛けに彼は頷いた。振り向いた彼はこちらに手を伸ばす。
「生まれ変わりたいのかな、僕は。それとも、僕としてやり直したいのかな。」
私は彼の手をとり、笑ってみせた。
「それが分からないから、私たち死ぬんじゃない。」
薄い月が雲に飲み込まれてく。生きていくうちにボロボロになった私たちは、手を繋いだまま、夜を歩く。
見つけられなかった存在意義が、そこらへんに落ちてないか、探すみたいに、一歩ずつ慎重に。
世界の終わりみたいな屋上の淵に立って、春日井くんは言った。
「次は僕たちこんなこと繰り返さずにいれたらいいね。」
「そうね。」
私たちは夜の淵から飛び出した。




