プロローグ どうしてこんな目に
澄んだ青空に見惚れていた。
全身に力が入らない。
魔力も絞れないし、頭も回らない。
これ死ぬな。
地面だと思われる場所転がり、悟る。
そして次の瞬間、やけに弛んだ服装の男に跨られる。
右手に美しい剣が一振り。
其奴は他に、何も身に付けていなかった。
魔族と神の戦いにおける最前線。
奴等は信仰を捧げる人類に見返りとして、時たま小さな奇跡をくれてやる。それを人類は超常の奇跡だとか謳ってありがたがる。
冗談じゃない。
奴等の権能を鑑みれば、その奇跡とやらはお遊びだ。児戯に等しい。
都合の良いようにこき使うためのちょっとしたパフォーマンスだ。
だがそんなことはどうでもいい。
魔王とて魔王。そも、人間のために苦心したりはしない。
弱肉強食は世の理。
歯向かうならば、そこに同族も他種族も関係ない。
それこそ、哀れみなど欠片も無い。
だが――
私は同胞を守るため、果敢にも立ち向かった。
だというのに!
その同胞には裏切られた挙句、直接報復する前に皆殺し。そして今、私の命も、世界を救うなどと吹聴する不届者。勇者に奪われようとしている。
理不尽だ。納得出来ない。
いやだがしかし!そこにも納得しよう。
魔族だ神族だと区分けしているが、結局はそれぞれ別個の存在。
種族なんざ毛程も気にしていない奴だって少なくないだろう。
ただそれは、この戦いはーーこの世界での話だろう。
なぜ奴等は異世界から援軍を呼んでいる?
いやまぁ、分からないでも無い。別にこれはお遊びじゃない。おままごとじゃないんだ。
ルールも容赦も無用の戦争だ。
だがしかし!なればこそ私は問いたい。
ーーこっちだってズルをしてもいいだろう?と。
破壊だの。支配だの。
そういったことが得意なことは否定しない。
だが誰も、それしか出来ないとは言っていない。
徐々に狭まる視界。私は必死に睨みつける。
この可憐で華奢な身体に跨り、聖剣とやらの切先を今にも心の臓へと突き刺さんとする者。
異世界から召喚されたとかいうーー勇者。
瞳を介して見る自分の表情。きっとこの世のどこを探しても見つけられないほどの、憎々しい面持ち。
「して、勇者よ」
命を取るでも、一発叩いてやろうというわけでもない。堪え難い思いが込み上げ、気づけば頬を撫でていた。
あぁ……
「なんて悲しい顔をしているのだ」
そのとき、初めて世界が逆行した。




