2 転生したら絵馬だった件
「……え?」
目覚めた瞬間、俺は思った。
まず、身体がない。
次に、声も出ない。
そして何より――
視界が木目。
「いや、待て待て待て待て」
木目ってなんだよ。
俺、さっきまで会社の飲み会で「人生詰んだ」って愚痴ってたサラリーマンだったよな?
酔った勢いで神社の階段を踏み外して――
そこで記憶が途切れた。
つまりこれは……転生?
異世界転生!?
俺は勇者!?
魔王討伐!?
ハーレム!?
そんな期待を抱いた瞬間、俺の視界に文字が浮かび上がった。
【奉納物:絵馬】
「…………」
絵馬?
え、俺?
転生したら絵馬だった件。
いや、件じゃねえよ。
俺、板じゃん。
俺は神社の絵馬掛けに吊るされていた。
隣には先輩絵馬たち。
『第一志望合格しますように』
『推しが幸せでありますように』
『世界平和』
……おお、清らか。
しかし俺に書かれた願いは違った。
『課長が腹を下しますように』
「誰だよ書いたの!!!!!」
良識どこいった。
神様に何頼んでんだ。
俺は板なのに怒りで震えた。
日々、願いが奉納される。
しかしこの神社、異世界仕様なのか願いがヤバい。
『隣国の王子が滑って転びますように』
『ライバルが永久に寝違えますように』
『ガチャでSSRを出せ。出なければ神を呪う』
「おい!! ここ願いの投げ捨て場か!?」
絵馬界隈、民度が終わっていた。
しかも神様は全然叶えない。
なぜなら――
神様が見ているのは願いではなく、
絵馬の裏のレビュー欄だった。
【この願い:☆1】
【他力本願すぎ】
【もっと努力しろ】
「神様、Amazonみたいな採点してんじゃねえ!!!」
異世界、システムが冷酷すぎる。
ある日、神託が降りた。
【ユニークスキル発動】
『願いをねじ曲げて叶える』
「え?」
つまり俺は絵馬として、
願いをそのまま叶えるのではなく、
解釈違いで叶える能力を持っていた。
最悪じゃん。
試しに隣の絵馬。
『恋人ができますように』
発動。
結果――
恋人(※ヤギ)ができた。
「違うそうじゃない!!!!」
『お金持ちになれますように』
発動。
結果――
お金(※銅貨1枚)を持った。
「しょぼ!!!!」
俺は悟った。
この異世界では、
願いは叶う。
ただし、最悪の形で。
ある日、とんでもない願いが奉納された。
絵馬に書かれていたのは――
『転生して最強になりたい』
「おお!!まとも!!」
異世界転生ラノベ王道!!
俺は震えた。
この願いなら正しく叶えたい。
発動。
ユニークスキル全開。
結果――
その願い主は転生した。
最強になった。
ただし――
絵馬に。
「おい!!!!!!」
願い主、俺の隣に吊るされた。
板になって絶叫していた。
『なんでだよおおお!!』
俺は言った。
「ようこそ、絵馬界へ」
『勇者じゃないのか!?』
「勇者はいる」
『どこに!?』
俺は神社の奥を見た。
そこには――
巨大な奉納箱に鎮座する存在。
全ての願いを受け取り、叶えもせず眺める者。
異世界の神。
いや違う。
スーツ姿の男。
電卓を叩きながら言った。
「今月の奉納金、過去最高だな」
その瞬間、俺は理解した。
この異世界の神とは何か。
願いを叶える存在ではない。
願いを集める存在。
そして絵馬とは何か。
願いを託すものではない。
願いを消費させるもの。
つまり――
異世界転生とは何か。
夢を叶える物語ではない。
現実から逃げた人間が、
別世界でも同じように願いを投げるだけの仕組み。
そして神は笑う。
願いが多いほど儲かるから。
俺は最後に悟った。
転生して絵馬になった俺の役目はただひとつ。
願いを叶えることではない。
願いを商品にすることだった。
神様(経営者)が言った。
「よし、次のキャンペーンだ。 『絵馬SSRガチャ』実装」
俺は震えながら思った。
転生したら絵馬だった件。
いや。
転生したら絵馬課金システムの一部だった件。
完




