1 転生したら転生(概念)だった件
目が覚めた。
……いや、正確には「目が覚める」という概念が目を覚ました。
俺は死んだはずだった。
トラックに轢かれて。
異世界転生テンプレの最初の一文として完璧すぎる死に方で。
そして次に来るのは普通――
女神とか。
チート能力とか。
「ようこそ異世界へ」とか。
なのに。
聞こえたのは、声だった。
《転生処理システム、起動しました》
え?
処理?
システム?
目の前には光の画面。
そして俺の身体は、ない。
手も足もない。
魂っぽい何かすら、ない。
ただ“概念”として存在している。
俺は叫んだ。
「え!? 俺どこ!? 異世界!?」
画面が淡々と答える。
《あなたは転生しました》
《転生先:転生》
「……は?」
理解が追いつかない。
「転生先が転生ってどういうことだよ!!」
画面が説明する。
《あなたは“転生”という現象そのものに転生しました》
《役職:転生管理概念》
《業務内容:全転生者の転生処理》
「待て待て待て待て」
「俺、転生したい側だったんだけど!?」
《異議申し立て:却下》
俺は絶望した。
異世界で無双するはずが。
俺が回す側だった。
異世界ガチャの運営になっていた。
最悪である。
気づけば目の前に魂の列ができていた。
死んだ人々だ。
「異世界でスローライフしたいです!」
「勇者になりたいです!」
「悪役令嬢に転生して破滅回避します!」
テンプレ欲望の見本市。
俺は概念として淡々と処理する。
《転生先:スライム》
《転生先:村人A》
《転生先:畑のカブ》
「おい!! 畑のカブってなんだよ!!」
《ランダムです》
「ランダムじゃねえよ!!」
魂たちが泣き叫ぶ。
「そんなの嫌だ!」
「女神は!?」
「チートは!?」
俺は言った。
「女神は有給取ってる」
「チートは課金制だ」
「現実を見ろ」
概念になった瞬間、心がブラック企業になっていた。
ある日、気づく。
転生希望者が増えすぎている。
列が地獄のディズニーランド。
なぜ?
なぜこんなに転生したがる?
俺はシステムログを見た。
《原因:異世界転生ラノベ人気による転生希望者増加》
「……え?」
ラノベ人気?
つまり。
俺たちが読んでた異世界転生作品が、
死後の魂にまで影響している?
俺は震えた。
「まさか……」
画面が追撃する。
《転生ブーム最大原因作品:転生したら転生(概念)だった件》
「…………」
「それ俺じゃねえか!!!!!!」
そう。
俺が概念になったことで、
転生という現象が自己言及ループを始めていた。
転生が転生を呼び、
転生が転生を宣伝し、
転生が転生を増殖させている。
世界が“転生”で埋まっていく。
俺は叫んだ。
「こんなの間違ってる!!」
「転生は希望じゃなくて逃避じゃないか!!」
「転生先で無双したいって…現実を捨てるな!!」
その瞬間。
画面が静かに告げた。
《転生概念としての最終業務》
《あなた自身の転生処理を行います》
「え?」
《転生先:現実》
「…………は?」
眩しい光。
目が覚めた。
病院のベッド。
医者が言う。
「よかった、意識が戻りましたよ」
俺は呆然とする。
「……俺、異世界は?」
医者が首を傾げる。
「異世界?」
「あなた、トラックに轢かれたショックでずっと“転生転生”うわごと言ってましたよ」
俺は震える。
「じゃあ……全部夢?」
その瞬間。
スマホが震えた。
通知。
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俺は叫んだ。
「誰が書いた!!!」
画面に小さく表示される。
《作者:転生(概念)》
そして最後の一文が脳内に響いた。
“転生とは、逃げた者が次に逃げるためのシステムである。”
俺は理解した。
俺が転生したのではない。
転生が俺に転生したのだ。
完




