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エノー・ドス

 長野日報が入っているビルは会社専用の建物ではない。高層ビルの2階分を使っている。よって受付は各社共用の1階フロアーにあった。

 浅川がエレベータを降りると、フロアーの受付前に二人の女性がいた。

 そしてその容姿に少し驚く。両人ともスーツ姿で、どこかの営業のようにも見える。ただ、明らかに日本人では無かったのだ。黒人である。

 怪訝そうな顔で浅川が近寄る。

「長野日報の浅川です。何の御用でしょうか?」

 若い方の女性が話す。

「急に来て悪カッタネ。私はフランソワ・エダン、そしてコチラハ、エノー・ドスと言いマス」

 もう一人はフランソワよりは少し年配のようだが、その佇まいがどこか只者ではない。何と言うのだろう戦士とでもいったほうがいい。スーツを着ているが、精悍でアスリート体形なのがわかる。そして何よりその目つきがするどい。獲物を射抜く眼をしていた。

 フランソワが続ける。

「ワレワレはベナン共和国から来ました」

「ベナン共和国?」

「アフリカにありマス。西側のナイジェリアの隣デス」

 そう言われても地理がよくわからない。アフリカであることは理解する。

 話が長くなりそうなので、浅川がロビーの打ち合わせ場所に案内する。

 席に着くと二人が名刺を出す。それを見るとどうやらフランス語のようだ。裏には英語もあるがよくわからない。浅川は英語が苦手だ。

 よく意味がわからないので、浅川がきょとんとしているとフランソワが付け加える。

「エノーは大統領補佐官デス。私は通訳デス」

「大統領補佐官ですか…」名刺にあるこの言葉はそう言う意味なのか。ロゴになった国旗もあるし、それなりの地位の人間だということか。それとも新手の詐欺だろうか。

「ご用件を伺えますか?」

「エノーが言うには、この場所にはアクマがイマス」

 エノーが鋭い目で浅川を見ている。エノーは話さない。おそらく日本語はフランソワしか話せないのだろう。

「悪魔ですか…」

「あなたがそれにカカワッテイル」

「え、どうしてそう思うんですか?」

「ハナシが長くナリマス」

 通訳のフランソワは日本留学の経験があり、日本語が出来るということで今回、派遣されたそうだ。それでも流ちょうな日本語ではなく。詳細を掴むために浅川からの確認が必要だった。何度か確認しながら、話してくれた内容は次のような事だった。

 彼女たちは日本政府とベナン共和国との交流のために来日した。ベナンと日本は友好関係にある。そして政府高官の一員としてエノーも参加していた。

 エノーは大統領補佐官としての仕事もするが、元々はシャーマンである。シャーマンとは、神や精霊などと交信ができ、予言、祭儀などを執り行う呪術的かつ宗教的な職能者を言う。そして悪魔祓いも出来るのである。彼女は学業優秀で学力もあることから、政府高官と言う地位にいる。また、大統領補佐官としての仕事をする際には、シャーマンとしての精霊の加護が必要だと言う考えが根底にはあるらしい。

 今回エノーは来日した当初から、この国に強い悪霊の気配を感じていた。悪魔の存在を感じたという。ただ、場所までは特定できなかった。それでネットで情報を得る。情報は簡単にとることができた。今やこの地の悪霊騒ぎは全国規模で話題となっていたのだ。長野日報の浅川という名は知れ渡っていたことになる。

 日本政府との会議が無事終了し、エノーは悪霊対策に関して、何か出来ることは無いかと、こちらに来たと言うことだった。つまりまったくの善意からの申し出だった。

 エノー・ドスは英語とフランス語、そして現地語は話せるが日本語は無理で、こうして通訳のフランソワが同行していた。

「ベナン共和国はヴードゥーン発祥の地デス。ですからアフリカでは最強のアクマバライがデキマス。そしてこのエノーは最強デス」

 浅川は呆気にとられる。はたしてアフリカの悪魔祓いしに、日本の悪霊退治が出来るのだろうか。

 エノーがフランソワに話しかける。フランス語のようだ。

 フランソワが浅川に向き直る。

「アサカワさん、あなたにアクマがついてイマス」

 浅川は思わず、あっと声を上げた。

「それはどういうことでしょうか?」

「日本語で何とイウノカ。フランス語ではヴェヴェといいます」

 浅川がスマホで検索する。

VeVe―依りよりしろ

 浅川はそれで理解する。萩原が最後に言った言葉はまさに依り代だったのだ。つまり悪霊が浅川を媒体として存在しているということだ。

「その悪魔が私の中にいると言うんですか?」

 フランソワがエノーに確認する。そして通訳する。

「ムズカシイデス。あなたの中にイルのではなく、あなたを通していると言えばイイノカナ」

「媒体になっているんですか?」

「ソウデス、ソウデス。バイタイ、アンテナ、そんな感じ」

 エノーが再びフランソワに話をする。

 そしてフランソワが通訳する。

「一度、あなたの中のアクマと通信シタイ。それでアクマがナニかわかる」

「通信ですか」どういうことなのだろうか。「それで悪魔の正体がわかりますか?」

「ワカリマス」

「どうやるんですか?」

「セイなる場所でギシキをシマス」

「聖なる場所ですか…」果たして日本の聖なる場所でいいのだろうか。「それは日本の神社でもいいんですか?」

 神社について説明し理解すると、エノーはうなずく。

「わかりました。ではこちらで用意します」

「いるものがアリマス。ソレとトモダチいますか?」

「友達ですか?」

「エノーがシャーマンになるのを聞く人が要ります。エノーはあなたに乗り移りますから、言葉を聞く人がもう一人イリマス」

「わかりました」それは戸川に依頼しよう。

 エノーから必要な物を聞き、戸川と神山神社の比嘉宮司に連絡する。

 その後、デスクを呼んだ。彼も最初は疑っていたが、政府広報などを確認すると、確かにその中にベナン共和国の大統領とともにエノー本人が映っていた。

 エノーとフランソワの滞在費用全額は、長野日報が持つこととなった。

 そして儀式の決行は明日となった。

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