静かな灯火
澄川悠は、クラスの中で特に目立つ存在ではなかった。
派手に笑うわけでも、大きな声で意見を言うわけでもない。
けれど、彼の席の周りにはいつも不思議な安心感が漂っていた。
ある日、友人の直哉が大きなプレゼンの発表を控えていた。
直哉はリーダー気質で、周囲から頼られることも多い。だが、発表の前日はさすがに緊張の色を隠せなかった。
「…やっぱり無理かもしれない」
机に突っ伏す直哉の声は弱々しい。
悠はしばらく黙って彼を見守り、ふっと微笑んだ。
「直哉はさ、これまで準備をちゃんとしてきただろ?
それって、誰にでもできることじゃないと思うよ」
直哉は顔を上げた。
「でも、本番で失敗したら…」
悠は少し考えてから、静かに言った。
「失敗しても、直哉がやってきた努力は消えない。
むしろ、そういう姿を見て励まされる人だっている。
俺もそうだよ」
その言葉に、直哉はしばらく黙り込んだ。
そして、肩の力を抜いたように小さく笑った。
「悠、お前って本当に不思議だな。隣にいると、なんか大丈夫な気がしてくる」
悠は少し照れくさそうに、けれど穏やかに頷いた。
翌日、直哉は堂々とプレゼンをやり遂げた。
教室に拍手が響く中、悠は静かにその姿を見つめていた。
――自分は目立たなくてもいい。ただ、友のそばで灯火のように支えることができれば。
そう思うと、心の奥が温かく満ちていくのだった。