第9話『晴れ時々魔炎龍日和、気分は曇り予報です』
「これがゴーエ火山か...遠かったなぁ...」
リナさんにクエストを押し付けられた俺は、目的地であるゴーエ火山に来ていた。
ここまで来る道のりの天気は快晴だったが、ゴーエ火山の周辺だけは曇り模様だ。そして不気味な空気感を醸し出している。
「なかなか雰囲気あるじゃん。魔炎龍とのバトルの舞台としてはピッタリだな」
「呑気だなぁ...勝てる見込みはあるの?もう名前からして無理ゲー感出てるんだけど」
「ユウキはともかく、私たちは結構強い自信がありますから、なんとかなりますよ」
「初っ端から俺を戦力外にするな...!事実だけども!」
まだ火山に踏み入れてもいないのに、こんなところでのんびりしている暇はない。
さっさとのぼって、早いところ戦ってしまおう。勝てる見込みはないけれど。
「...とりあえず登ろうか。ここでグダグダしてても何も始まらないし」
「そうですね〜、パパッと魔炎龍にカチコミ入れますか〜」
「それなりに長いこと冒険者やってるけど、魔炎龍は初めての相手だな...胸が躍るな!」
「何でそんなやる気なんだアンタらは...」
◆ ◆ ◆
「こりゃすげえな...火口が丸見えだぞ」
「めちゃくちゃ暑い!なんで平気なんだよアンタら!」
火山を登り始めて30分ほど経った頃、意外と道のりは険しくなく、すでに中腹ほどまで来ていた。
ここまでの道のりは、かなり大きい洞窟を登っていくという感じだったが、ここに来て火口が目の前に現れた。
どうやらここからは火口沿いを螺旋状に登っていく道のりになるようだ。
「それよりも、ここまでモンスターに一切遭遇していないのが不気味ですね...これも魔炎龍の影響でしょうか?」
「そういえばそうだな、楽ではあるが...不気味だな」
「まぁボス戦手前はあんまりモンスターが湧かないってのはよくあるし、魔炎龍の縄張りならなおさらモンスターも近寄らないんでしょ」
「ま、何も出ないなら体力も温存できるし、ラッキーか」
「そうですね、もう頂上に近づいてますし、何も出てこないでしょうね」
「待て...そういうのはフラグって言うんじゃないか?嫌な予感がするんだけど......!!!!!」
突如、目の前の壁が崩れた。
通れないレベルで崩れた訳ではないが、どうもおかしい。
「なんだ...?壁が揺れて...いや、これは...!!」
「この辺り全体が揺れてます....!!」
「うわぁ...嫌な予感的中じゃない?これ...!!」
辺りの壁がパラパラと崩れ、地面にも小さなヒビが入るほど揺れている。
ゴゴゴゴッっという音と共に、揺れは徐々に大きくなっている。
「ゴァァアアアアアアア!!!!!」
揺れに振られて火口に落ちないように体勢を整えようとした時だった。
ちょうど真横、火口側から耳を劈く強烈な咆哮が火山に響き渡った。
「うぉおい!!おいおいおいおい!!!」
「コイツは...魔炎龍か!!」
「この巨体、紅い鱗...間違いありません!魔炎龍です!!」
「フラグ回収乙!!!そういえば道中から始まるボス戦もあるあるだったなぁ!!」
次の瞬間、魔炎龍は口を大きく開き、巨大な火球を放ってきた。
「マジか...!!!っぶねぇ!!!」
間一髪で回避したものの、俺の居た場所には巨大なクレーターが出来があっていた。だが、ここで唖然としている時間はない。
顔を上げ、魔炎龍に向き返った時には、すでに次の攻撃の準備が完了していた。
「まずいぞこれ!!アイリ、レーネ!!頂上に急ごう!!」
「だな!ここはアタシたちに不利すぎる!」
「ユウキはステルスを!私は防御魔法がありますので、一旦私が惹きつけます!!」
「いけるのか?!流石にこの火力は...!!」
「私も走りますが、それぞれ距離を空けた方がいいでしょう!!良いから走ってください!!」
「仕方ない...“ステルス”!!!」
俺はレーネに背を向け、ステルスを使用し全力で頂上に向けて走り始めた。
背後では火球が放たれた音がしたものの、着弾したような音はしなかったのを聞くに、おそらく防御魔法で弾いたのだろう。
俺が思っているより、レーネは強いのかもしれない。
一心不乱に走って数分、思ったより早く頂上に辿り着いた。
「っはぁ...!!アイリ!レーネはきてるか?!」
「いいや...まだ見えないな...大丈夫なのか?」
「祈るしかないな...」
頂上は不気味なほどに静かで、ただ快晴の青空が見えるだけだ。
だが、そんな静寂もすぐに打ち破られることになる。
「グァアアアアアアア!!!」
火口の穴から魔炎龍が飛び出してきた。
「来たかッ!!!」
「ユウキ見ろ!あいつの身体...傷だらけだぞ!!」
「本当だ...レーネがやったのか?!」
魔炎龍の身体には無数の傷がついており、どれも魔法によってつけられた傷のようだ。
瀕死というわけではないが、全快の状態よりは幾分マシだろう。
「レーネは...?!レーネは大丈夫なのか?!」
「こいつが上がってきたってことは、戦闘は一旦終わったんだろ...レーネは...」
「嘘だろ...?!会ってそんなに経ってないけど、仲間がやられるってのは...」
レーネとは会ってそんなに経っていない。
だが、一緒に居た時間は短くとも、そこには確かに友情に似た何かはあった。
それを失うとなると、心に来るものがある。
「あらあら、私が死んだとでも思いましたか?」
「レーネ?!」
「無事だったのか?!」
背後から良く知る声がしたと思ったら、服に傷はあるものの、ピンピンした姿でレーネが現れた。
声色を聞くにケガも何もしていないようだ。
「えぇ、少々手こずりましたが、魔炎龍の体力を削ることはできました」
「レーネ...もしかしてそのムチでやったのか...?」
「ええそうですよ。図体が大きいので当てやすかったですねぇ」
「無茶苦茶かこいつは...?!」
「グァァァァアアアアアアア!!!」
そういえば、呑気に会話をしている場合ではない。
背後から聞こえた咆哮に反応し、咄嗟にその場から離れると、俺たちがいた場所が大きくえぐれる。
「まだこの威力の攻撃ができる程度には元気なのか...!」
「いや、見てみろ!連射はできないっぽいぞ!」
「体力は確実に減っているはずです!今のうちに畳み掛けましょう!」
「勝てる気しないけど、ここまできたら...やるしかないか!!」
俺たちは魔炎龍と向かい合う。
魔炎龍との決戦のゴングが、今鳴らされた。