第8話『この異世界...あまりにも理不尽なようです』
「なぁ〜いい加減元気出せよ〜」
「そうですよユウキ。私たちならなんとかなりますから」
「...えらく楽観主義だなぁ〜、180“金貨”だぞ?“銀貨”でも“銅貨”でもなく!!わかってるのか?!本当に!!」
俺たちはパーティを組んだ。
テンプレならここから華々しいスタートを切れるはずだったんだ。
だが、現実はそうはいかない。意味のわからないうちに借金をこさえて、途方に暮れている。
「くぅぅぅぅ....!!テンプレ...!テンプレはどこに行ったんだ...?!帰ってきてくれ!!」
「まぁまぁ!とにかく借金返済に向けて...クエスト行こうぜ!」
「そうですね!どれにしますか?」
「クソ...どうにかして挽回しないと...!」
そうだ、ひとまずはクエストだ。金を稼がないと借金は返せない。生活もできない。
より簡単で効率よく金を稼げるクエストを見つけなければ...!
俺はクエストボードに向かって歩みを進めた。
クエストボードには常にそれなりの数のクエストが張り出されている。高難度から低難度まで、満遍なくである。
「ん〜、やっぱり低難度だと報酬も下がるよな...とはいえ高難度は俺には厳しいしなぁ...」
「まぁ私達も居るし、中難度あたりは狙ってもいいんじゃないか?」
「ん〜まぁそうか...レベルも上がりやすいだろうし、中難度あたり狙ってみようか」
俺がクエストボードに張り出されている中難度の討伐クエストを取ろうとした瞬間---背後から嫌な視線を感じた。
「ユウキさ〜ん。少しよろしいでしょうか?」
この声、間違いなくリナさんだ。
よし、無視しよう。聞こえないふりをしよう。
「......これにしようかな」
「ユウキさ〜ん、聞こえてますよね?わかっていますよ?意図して無視しているのは」
「おいユウキ、なんか呼ばれてるぞ?」
「無視はいけませんよ?」
「お前らうるさい。どうせ碌なことじゃないんだ。無視するのがベストな選択なんだよ」
そんな会話をしているうちに、背後からカツカツという足音が近づいてきた。
そしてちょうど俺の真後ろで静止した。
ダメだ、振り返ってはいけない。あの地雷受付嬢のことだ、絶対碌でもないことに決まっている。
「あら、そのクエストを受けられるのですか?」
「.........はい」
「ちょっと〜聞こえてるじゃないですか〜」
俺の返事を待つことなく、リナさんが俺の肩を掴んできた。
絶対怒っている。めちゃくちゃに力が強い。痛い、めちゃくちゃ痛い。
こういう時はどうするか---
「ちょ、痛い痛い!!すみませんでした!無視してました!」
土下座である。
「それはいけませんね、人の話は無視してはいけないって学校で習いませんでしたか〜?」
「いや!だってどうせ変なクエスト押し付けられるじゃないですか!」
「私はユウキさんを呼んだだけですよ〜?何を勘違いされてるんでしょうか」
くっ!反論できない...!
だが、ここで引き下がって話を聞いてしまったら、絶対碌でもないクエストを受けさせられる。
どうにかして回避しなければ...!
「ま、まぁとにかく!僕はこのクエスト受けますから!話なら終わってからで!」
「クエストですか...どれどれ〜?あ〜このクエストもう終わっちゃってますね!剥がし忘れでしょうか〜?」
俺が持っていたクエスト用紙を素早く奪い取り、真っ二つに破りながらリナさんはそう言った。
「おぉい!嘘つけ!クエスト期限まだ先だったぞ!!」
「見間違いじゃないですか?それよりも、受けるクエストがなくなったユウキさんにピッタリのクエストがあるんですよ〜」
「ほら来た!ちょっとアイリ、レーネ!助けてくれ...っていねぇ!!」
気がつけば、隣に居たはずの2人は遠くで談笑しながら食事をしていた。
「あらあら、見捨てられちゃいましたね。とにかくですね、このクエストは高時給、高待遇の良いクエストですから!借金塗れのユウキさんにはピッタリですよ!」
「待て、そういう仕事は大体超ブラックのハズレなんだよ!」
「そんなことはないですから、ほら、もうユウキさんの名前でクエスト受領してますから、頑張ってくださいね♡」
「アンタ受付嬢の立場使って無茶苦茶やってるな!!」
リナさんは俺の名前を書かれたクエスト用紙を俺に押し付けると、カウンターに帰っていってしまった。
魔王よりもあの地雷受付嬢を先に倒すべきだろ。
「クソ...どんなクエストなんだよ...」
「おっ、終わったか?」
「あら、クエストですか...どんな内容です?」
【魔炎竜討伐】
■ 魔物討伐依頼 【難易度:高】
・場所:ゴーエ火山
・内容:火口に生息する魔炎龍の討伐
・報酬:金貨5枚
【担当:ユウキパーティ】
「.........」
「これは...なかなかハードだな」
「まぁ...報酬はかなり良いですし、なんとかなるんじゃありませんか?」
「ファーーーーーーーーッッック!!!!!!」
毎度お馴染み、虚しくも俺の叫びはギルドの喧騒に掻き消えていった。