第7話『パーティ結成!輝かしい門出...とはいかないのがこの世界です』
あれから30分ほど経ったが、俺は依然戦闘中だ。
先程から何度も火魔法をぶつけているが、ゴブリンウォーリアが倒れる予兆はない。
「クソ!ぜんっぜん倒れねぇじゃん!ダメージがゼロってわけじゃなさそうだけど...これじゃ俺の魔力が先に尽きちまう!」
俺の魔力は残り僅か。数回魔法を放てば、魔力は切れてしまうだろう。
「ユウキ、苦戦してますねぇ...もうかなりの時間戦ってますよ」
「そうだな、姿は見えないが、火魔法が時々見えるところを見るに、まだ粘ってるんだろう」
「どうします?そろそろ助けてあげますか?」
「いや、まだ大丈夫だろ。限界って感じじゃないし」
「ま、そうですねぇ」
「おぉい!!俺割とジリ貧状態でピンチなんだけど?!」
姿が見えないから仕方ないといえば仕方ないが、割とピンチであろう俺を助けようともしないのはどうかと思う。
「クソォ〜!こうなりゃ限界まで粘ってやる!」
何度も膝裏に火魔法を喰らったゴブリンウォーリアは、体力自体はまだありそうだが、膝をついてその場から動けないでいる。
ゴブリンウォーリアが動けないのは好機だ。だが、ここからどうする?俺に与えられた攻撃手段は初級火魔法のみ。まともに攻撃しても効果は薄いだろう。
「ハァハァ...!俺の体力もそろそろやばいな!どうする?考えろ、考えろ俺!」
考えながら、ゴブリンウォーリアの背後に回り込もうとしたその時だった。
この現状を打開する策が俺の視界に飛び込んできた。
「あれは...!樽...火薬か?!そういえばここは鉱山だったな!」
鉱山とはいえ、ここはどれくらいかはわからないが、捨てられた廃鉱山だ。
あの火薬が着火するかは賭けになる。だが、ゴブリンウォーリアの近くにそれなりの量の火薬がある状況...試してみる価値はある!
「一か八か!どうせこのままじゃジリ貧だ!やってやらぁ!!」
俺は火薬樽に向かって初級火魔法を放った。
掌から放たれた火の玉は、正確に火薬樽を捉え、命中した。
次の瞬間、俺の火魔法では起こり得ない程の強烈な爆炎と爆発が巻き起こり、ゴブリンウォーリアを包み込んだ。
「うぉおおおお!!!流石に近すぎたか!?」
「これは...!やばそうだな!!」
「えぇ...!早く離れましょう!!」
少し離れた位置で見ていたアイリが俺の方へと走ってきた。
俺はステルスを解除し、アイリに位置を伝えた。
「どうしたんだ?そんなに急いで」
「お前は馬鹿か?!あんな爆発...廃鉱なんかで起こしたら...!!」
「あっ...」
ゴブリンウォーリアを爆炎が焼き尽くす中、嫌な音が俺の耳に響いた。
それは、何かが崩れようとしているような、とてつもなく不安を煽る音だった。
「まさか...!崩れるのか?!」
「その通りだよバカ!さっさと逃げないと全員死ぬぞ!」
「アイリ!ユウキ!話してないで早く逃げますよ!もうほとんど時間がなさそうです!」
「なんでだよ!!せっかく初戦闘の初勝利なのに!なんでこうなるんだぁぁぁぁぁ!!」
「これは予想できただろ!!!」
俺たちはダッシュで出口の方へと走り出した。
背後では廃鉱がガラガラと崩れる音が聞こえ始めた。
これはやばい!洒落になっていない!気持ちよく終わらせてくれないのが、この世界の常なのか?!
「うぉおおおおおお!!間に合えぇぇぇ!!!」
◆ ◆ ◆
「はぁ...はぁ...はぁ...!!」
「はぁ...!なんとかなったな...!」
「これほどスリリングな経験は初めてです...!」
瓦礫に塞がれた廃鉱山の入り口の前で、俺たちは息絶え絶えで倒れていた。
本当に、ひとついいことがあれば倍の災難がないと気が済まないのかこの世界は!
「まぁ...とりあえずゴブリンは倒したし、クエストはクリアと言っていいだろう」
「あぁ...だけどこの廃鉱山はもう入れないな...」
「あぁ...せっかくの私の狩場が...」
廃鉱山はおそらくもう入ることはできないだろう。まぁ捨てられた鉱山であれば、入ることはないだろうから大丈夫だろう。
「...仕方ありません。ユウキさん、アイリさん。私をあなた達のパーティに入れていただけませんか?」
おっと、レーネが何やら嫌なセリフを言い出したぞ。
というかパーティ?俺がアイリと?勘弁してくださいよ。
「は?いや待て、アタシらは別にパーティってわけじゃない」
そうだそうだ。もっと言ってやってください。俺はこんな癖の強いパーティメンバーなんていらないんです。
「あら?そうなのですか?でしたら...この3人でパーティを作りましょう!」
「待て、なんで俺が入ってんの?!俺はいいから2人で組みなよ!俺はソロでやってくからさ!」
この流れはまずい。こんな奴らとパーティなんて組んだら碌なことにならない。
ドSエルフとステゴロヤンキー美少女なんて癖が強すぎて俺の精神が持たない!
「いえいえ、ユウキさんの“ステルス”は使い所によっては強力ですし...最悪囮として使えますので是非ともパーティに入っていただきたいです♡」
「それが頼んでいる態度なの?!ムチ!ムチが怖いから!ペチペチしてるけど、断ったらどうなるの俺!?」
「さぁ?断ってみればわかることです♡」
「いえ、謹んでその招待受けさせていただきます!」
金属製のムチでしばかれた暁には、ゴブリンと同じ運命を辿ることになりそうだ。
流石に死ぬよりはマシなので、俺はパーティに半強制的に入ることになった。
「なんか面白そうだし、アタシもオッケーだ!」
「では決まりですね!前のパーティは追い出されてしまって、ずっと独りだったので仲間ができて嬉しいです!」
「追い出された...?」
「えぇ...なぜかはわからないのですが、『お前の戦い方は怖い』と言われてしまって...」
「俺もそう思います...」
なんやかんやでパーティを組むことになったが、メンバーはともかく、異世界っぽい展開で少し胸が躍る。
これからパーティでクエストに挑んだり、もしやすると魔王を倒すことになるかもしれない。
そう考えると、今後の生活に希望が湧いて出てきた。
「なんか...楽しくなってきたな」
これからの人生に期待を抱きながら、俺たちは崩れ去った廃鉱山を横目に、街への帰路に着いた。
◆ ◆ ◆
「はい、クエストクリアです。てっきり逃げ出すと思いましたが...少しは根性あるみたいですね」
「ちょっとは棘のない言葉を使えないの...?!」
「それで、クエスト報酬は?ゴブリンウォーリアも倒したし、結構あるんじゃないか?」
「そうですね、ゴブリンウォーリアを倒したのは正真正銘ユウキさんですし、追加報酬があってもおかしくないですよ」
アイリとレーネが報酬の話を持ち出した途端、リナさんの表情が曇った。
おや?嫌な予感がする。この先はきかない方が良いと俺の直感が伝えている。
「アイリ!俺はちょっと向こうで夕飯でも食うからさ!報酬はアイリが代わりに貰っといてくれないかな?!」
「は?いやどういうーーー」
「いいから!なんかすっごいお腹減ってて!」
「ユウキさん、何やら勘付いてるようですが、逃げるなんて許すと思いますか?」
「いやいや!逃げるなんて滅相もない!ただお腹が減ってるってだけで!」
「ユウキさん。あなた...廃鉱山を崩壊させましたよね?」
「...いいえ?」
「ユウキさん?嘘はいけません...あの廃鉱山に行ったのはあなた達だけなのですから、あなた達の誰かだという事は確定しているんですよ」
これは非常によろしくない。この展開でハッピーエンドなんてあり得ない。
一刻も早くここから離れて、遠い街に逃げなければ!
「ギルドは全ての街にありますし、情報共有も早いですから...逃げても無駄ですよ♡」
「エスパーなの?!」
「ユウキ、とりあえず話を聞いてみましょう」
「そうだぞ、聞いてみないと話が進まないだろ」
「進めたくないんだよ!!」
「ユウキさん。あなたにはあの廃鉱山の管理者から損害賠償請求が来ています。額は200金貨ですが、今回のクエスト報酬とゴブリンウォーリア討伐分の報酬を差し引いて、180金貨の請求になります」
「あぁ...聞いてしまった...俺の冒険者人生...終わってしまった...」
180金貨の請求ーーー日本円にしておよそ1800万円である。
鉱山一個潰してこの値段なら安い方かもしれないが、駆け出し冒険者がポンと出せるような金額ではない。
まぁまぁ強いゴブリンウォーリアを倒しても20金貨しか減っていないのが、やばさを際立てている。
「あ〜ユウキ。あの戦闘に関してはアタシらも悪かったと思うし...」
「そうですね...ユウキさん、私達も手伝いますから、元気を出してください」
「.........こんな世界!クソッタレだぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺の魂の叫びは、ギルドの喧騒に虚しく掻き消えていった。
これから俺の人生、どうなるのだろうか。