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第6話『逃げようとしたら、“気合い”で戦えと言われました』


 突然だが、今俺はぐるぐる巻きにされて吊るされている。

 よくわからないと思うが、俺もよくわかっていない。いや、まぁ逃げようとしたからなんだけどもね。


「突然逃げようとするなんて、貴方怪しいですね〜」


「アンタってヤツは...情けないとは思わないのか...?」


「これ俺が悪いの?!普通の人は逃げるでしょ!笑顔でゴブリンしばき殺してる人が目の前にいればさぁ!」


 目の前には美少女2人。文だけ見れば、ハーレム状態だが、実態はヤバい女の子2人に振り回されているだけだ。

 いきなり異世界に飛ばされて、出会う人はみんなヤバい人ばかり。俺は一体何をしたって言うんだ。


「貴方、この人の仲間ですよね?この人大丈夫なんですか?」


「あ〜、アタシも出会ってまだ2日だからな〜、正直わからんけど、悪い奴ではないと思う。ヘタレだけど」


「ふ〜ん、まぁいいです。今回は許してあげますけど、あんまり私の前で変な行動はしないことです」


 漸く解放された。

 生きた心地がしなかった。あのムチのようなモノでしばかれなかっただけ良しとしよう。


「いってぇ...ところで、貴方は一体何者なんですか?」


「あっ、まだ名乗っていませんでしたね。私はレーネ。リナさんから依頼を受けて、ここでゴブリン狩りをしています」


「あの地雷受付嬢の仕業か....!」


 間違いない。あの地雷受付嬢は俺がレーネと鉢合わせることを予想して、この依頼を無理やり受けさせたに違いない。

 やはりあのリナさんには関わらないでおこう。


「アタシはアイリ。コイツに付き添ってクエストを受けたんだが、まさか先客がいたとはな〜。リナも適当な奴だな」


「絶対嫌がらせだと思うけど...俺はユウキ。アイリと一緒にクエストに来たんだけど、どうもブッキングしたみたいだ。このクエストはレーネさんに任せるから、あとは頼んだよ」


 俺は一刻も早くここを離れたい。

 アイリだけでもキャラが濃すぎて胃もたれするのに、レーネさんまで関わり出したら本当に俺の心は死んでしまいそうだ。


「あら、何を言っているんですか?ユウキさん。貴方もクエストを受けたのですから、私と一緒にゴブリン狩りをしないとダメでしょう」


「いや、いやいやいや!俺めっちゃ弱いですから!魔法もスキルも何にもないですから!足手纏いになるだけなので、どうぞお一人で無双しちゃってください!」


「あらそうなのですか...まぁ関係ありません。早く先に進んじゃいましょう。逃げたら貴方もゴブリンと同じ運命にしてあげますよ?」


「あぁ...終わった」


「まぁまぁ、レーネは見た感じ強そうだし、クエスト失敗なんてしたらリナにどやされるぞ?」


「選択肢の全てが地獄なのか...!なんなんだこの世界は...!」


 俺は逃げることを諦め、ムチを振り回しながら軽快に奥へ進むレーネの後を着いて行った。


 

 ◆ ◆ ◆



 結論から述べると、ゴブリン狩りは順調である。

 レーネとアイリの圧倒的戦闘力にゴブリンはなす術なく吹き飛んで行く。アニメ調であれば、かっこいいシーンなのだろうが、リアルで見れば、肉片飛び散る阿鼻叫喚の景色が広がっている。


「...俺いらなくない?アイリとレーネだけでいいじゃんこれ」


「おいユウキ!アンタも戦えよ〜!」


「そうですよユウキさん!さっきからぼ〜っと立ってるだけじゃないですか」


「アンタ達の戦闘に巻き込まれたら俺が肉片になるんだよ!」


 アイリの強烈な蹴りでゴブリンの半身が吹き飛び、レーネはムチでゴブリンを死体蹴りしている。

 アイリはともかく、レーネさん。貴方は魔法使いなんじゃないんですか?


「おいレーネ、ユウキ!なんかボスっぽいヤツが来たぞ!」


「グゥオァァァアアアアアア!!!!」


 2人の戦闘を眺めていると、奥の方からゴブリンより二回りほど大きい体躯のゴブリンが出てきた。

 手には人の身体ほどの大きさの剣を持っている。明らかに他のゴブリンよりも強そうだ。


「ゴブリンウォーリアですか...こんなところにいるんですねぇ...」


「珍しいな、この辺じゃなかなか見ないぞ」


「強そうだなぁ〜俺なんてワンパンなんだろうなぁ...」


 ゴブリンウォーリアがこちらに迫ってきている中、何やらレーネとアイリが俺に聞こえない声量で話し込んでいる。

 なんだろう、嫌な予感がする。


「なぁユウキ〜!コイツ、お前が戦え!」


「さぁ、いい運動になりますよ!早く早く!」


 この2人は一体何を言っているんだろうか?気のせいだろうか、聞き間違えだと信じたい。


「え?なんて?2人で倒すって?」


「「ユウキが戦うんだよ」」


「...“ステルス”ゥゥゥゥギャアアアアアア!!」


 最終手段ステルスで逃げようとしたが、この手が初見ではないアイリに阻止されてしまった。

 顔の横にハイキックが飛んできた。もし当たっていたらと思うと、心臓が縮み上がる。


「わかった!!わかったよ!!でも俺武器とかないんだけど?!どうやってあんなのと戦うのさ!」


「なぁ〜に言ってんだ?お前にゃ“拳”があるだろうが!」


「俺は“ステルス”以外は一般人だぞ!ノーマルゴブリンでも即死できるくらい弱いのに、あんなのに勝てるわけないだろ!!」


「情けないですね〜、気合いですよ気合い!頑張ってください!」


「クッソー!!コイツらに情なんて期待するだけ無駄だった!」


 どうする?この状況を打開できる策を考えろ。

 目の前にはゴブリンウォーリア。背後にはヤバい女2人。行くも引くも地獄だ。

 俺の持つ技は『ステルス』のみ。これを使えば、ゴブリンウォーリアの視界からは消えることができるはずだ。


「よし、とりあえず....“ステルス”!!」


「グゥオオ?!グゥオオオオオ!」


 俺が視界から消えたことで、ゴブリンウォーリアが困惑している。

 問題はここからだ。俺にはまともな攻撃手段がない。


「...そうだ!レーネ!!なんでもいいから簡単な魔法を使ってくれ!!コイツに撃たなくてもいいから!!」


「はい?突然消えたかと思ったらなんですか急に」


「いいから!」


 レーネは困惑しながらも、近くの壁に向かって火の魔法を放った。

 火力は低そうだが、問題ない。数撃ちゃなんとかなるだろう。

 俺はレーネが魔法を放ったのを確認すると、ステータスを開いた。


「俺の予想だと...!よっしゃビンゴ!」


 目の前のステータス画面には、スキル欄に薄く『初級火魔法』の表示があった。薄いのはまだ習得していませんと言うことだろう。

 どうやら魔法は俺が教えて欲しいと言う意思を持って、見せてもらうと使えるようになるようだ。

 上級のものが同じ感じで取れるかはわからないが、これはいいことを知れた。


 『初級火魔法』を手早く習得すると、画面にいくつか魔法が表示された。

 不安だったが、習得はステータスを開く時のノリで可能だった。ちなみにレベルが上がっていました。


「よっし、とりあえず攻撃手段ゲットだ...!まずは足元から崩してやる!」


 俺は素早くゴブリンウォーリアの背後へ移動する。ゴブリンウォーリアは未だに俺を探してキョロキョロしている。

 今が恰好の攻撃チャンスだ。


「くらえ!“ファイアボール”!!」


 初級火魔法の欄にあった魔法を適当に叫んでみると、野球ボールくらいのサイズの火の玉が放たれた。


「ステルスってすげぇな。虚空から急に火の玉が現れたぞ」


「ステルス...?それがユウキのスキルですか?」


「ん...?あぁ、アイツの固有スキルだよ。目の前から姿を消せるんだ。アタシらの視界からも消えてるから、対象は選べないんだろうな」


「あらあら、さっきステルスって言ってたのはこれを使おうとしたんですねぇ」


 何やらのんびり会話をしているが、こちらは戦闘中である。

 俺が放ったファイアボールは、ゴブリンウォーリアの膝裏に命中し、ゴブリンウォーリアが体勢を崩した。


「意外と効果ありだな...この世界のことだから、ダメージなしだと踏んでたんだけど...」


 そんなことを言っている内に、ゴブリンウォーリアが当てずっぽうに手に持った大剣を振り回した。


「危ねぇっ!当たったら即死だぞ!」


 当てずっぽうに振っているのもあり、回避は余裕だったが、振る速度自体はかなり速い。

 しかも当てずっぽうとは言いつつも、俺が魔法を放った位置周辺を狙っている。


「意外と知能も高いのか?知性ゼロだと思ってたんだけど、舐めてたな...!」


 念の為、体力を消費し過ぎないように、ゴブリンウォーリアの周りをグルグルと移動し続ける。

 体勢は崩せたとはいえ、体力が大きく削れているとは思えない。


「これは長期戦になりそうだなぁ...」


 俺は次の魔法を放つ体勢を整えながら、溜息をついた。









 

 

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