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第5話『説明不足(二度目)でいきなり依頼に駆り出されました』


「はい!コレで冒険者登録は完了です。ギルドでは冒険者をF〜Sでランク付けをしています。最初はFから始まりますので、ユウキさんは今Fランクですね。このギルドカードに記載してありますので、自分のランクを確認したいときは確認できます」


 地雷受付嬢・リナが満面の笑みでそう言い放った。

 ギルドに朝集合だったので、早起きしてきてみたら、いきなりリナさんに呼び出されてしまったのだ。

 できればあまり関わりたくはなかったのに、いきなり絡まれてしまった。


「...ん?なんだこれ」


 ギルドカードを受け取った時、ふと俺の目に妙なモノが映り込んだ。

 

【新人歓迎:急募】

■ 魔物討伐依頼 【難易度:中】

・場所:近郊の廃鉱山

・内容:出没するゴブリンの群れの討伐

・報酬:銀貨3枚、食券1枚

【担当:ユウキ】


「え?何これ、クエスト?え?なんか貼られてない?どういうこと?」


「そうですねぇ、貼られてますねぇ。あれ?どうしてでしょう?どうもユウキさんが受けられてるみたいですねぇ」


「待て待て待て!!今登録したばっかりだけど?!しかも急募なのに指名されてるんだけど?!急募とは?!」


「そうですねぇ、間違えちゃったんでしょうか?」


「あえてツッコミ入れなかったけど、今無言でスッ....って貼ったの見たから!目の前でやったらバレるよ流石に!」


「まぁ細かいことはいいんですよ。とにかく、”冒険者の仕事は現場で覚える“が基本ですから。頑張ってくださいね♡」


 初対面の時と同じ怖い笑みをしながら、リナさんは今貼ったばっかりのクエスト用紙を剥がしてスタンプを押した。


「ギルド...ブラック過ぎない?!」



 というわけで、なぜか俺は初依頼を受けることになったわけだが...


「なんで居るの?」


「面白そうだからに決まってるでしょ」


 当然のようにアイリがついてきた。

 

「ってかいつからいたの?クエスト受けたのなんで知ってるの?アイリもリナさんと同じくらいには怖いんだけど...」


「最初から居たけど?朝集合って言ったじゃん」


「じゃあ声かけてくれよ!リナさん止めてくれよ!」


「いやまぁ冒険者って実際実戦で経験積むのがセオリーだしなぁ〜と思って」


「あんたに情けを期待した俺がバカだった...」


 もう受けてしまった以上、クエストクリアを目指すなら、メチャクチャに強いアイリが居てくれるのはとてもありがたい。

 でも、正直クエストを受けさせられる時に止めて欲しかったが。


「まぁそんな難しいクエストじゃないし、パパッとやっちまおう!」


 あぁ、おそらくこいつは戦いたいだけだ。どんな経験をすればこんな美少女が戦闘マシーンになってしまうのだろうか?

 異世界、恐るべし。


「ところでさ、廃鉱山ってのは結構近いのか?近郊って書いてたけど...」


 ギルドを出てからもう30分ほど経っている。

 ゆっくり歩いているわけではないのに、それらしい山が一切見えてこない。


「あぁ、廃鉱山ならあと3時間くらいかかるな〜。まぁ歩くのもいいトレーニングになるし、気長に行こうや」


「全然近くねぇ...!やっぱあの受付嬢、地雷だ...!」


 俺の異世界苦労ライフは始まったばかりである。


 

 体感時間本当に3時間ほど歩いたところで、やっと鉱山に着いた。冒険者稼業は思ったよりも数倍ブラックです。


「やっと着いた...転成者っていっても別にステータスが超強化されてるとかじゃねぇんだぞ...!」


「見た目からして想像はついてたけど、アンタすっげえ貧弱だね」


「現代社会において、3時間平原を歩き続けることなんてないんだよ!」


「はぁ〜?アタシは毎日これくらい歩いてたけど?アンタが変なんじゃないの?」


「毎日...?やっぱフィジカルギフテッドだろアンタ...」


 ゴブリンに出会う前から、もうすでに俺の体力は底につきかけている。始まってすらいないが、もう一刻も早く帰りたい。


「とりあえず、入り口で話しててもしょうがないし、入っちまおうか」


 アイリは全く疲れた様子もなく、俺を引き摺るようにして廃鉱山へと足を踏み入れた。

 

 ◆ ◆ ◆


 廃鉱山の中は、名前からして予想はしていたが、そこら中に蜘蛛の巣が張っていて、放置されたトロッコや道具もさることながら、とてつもなく不穏な空気を醸し出している。

 

「すっごい雰囲気あるなぁ...めちゃくちゃ嫌な予感がするんだけど...」


「まぁ、“何か起きそう”感はあるよな」


「待て、そういうこと言うとマジで起こりそうだから!こんなとこでテンプレ発動しなくていいから!」


「なぁ〜に言ってんの?異世界に着いて早々にアタシみたいな美少女に会えてんだから、テンプレなんて慣れたもんだろ?」


「美少女なのは否定しない...!だけどテンプレとは大きく外れてるんだよなぁ...」


 そんなこんなで廃鉱山を進んでいると、奥から何やら物音が聞こえた。


「ん...?何かいる...?」


「この声...モンスターじゃないな。女の子の声...?助けを呼んでるのか...?」


 ゴブリンとは違う、女の子の声のようなモノが聞こえた。

 だが俺はここで「俺が助ける!」なんて言いはしない。なぜなら、この世界はテンプレが通じない理不尽な世界。どうせこの女の子もバトルジャンキーだったり、地雷臭マシマシ系女子なんだ。

 

 ならばここで俺が取るべき選択肢は---


「よしアイリ、先頭に居てくれ。そしてゆ〜〜っくりと近づこう。すごくすご〜く嫌な予感がする...!」


「アンタ...まぁいいや。まぁゴブリンだったら面倒だし、とりあえずゆっくり行こうか」


 アイリと俺がゆっくりと進もうとした瞬間--


「アハハハハ!!もっと、もっとその顔を見せて頂戴!!」


 助けを呼んでいるとは微塵も思えない声が坑道内に響き渡った。

 俺は速攻足を止めて、無言で踵を返す。


「...いますぐ引き返そうか」


「まぁ待てユウキ。もう遅いっぽいぞ」


「あら?貴方たちは...ゴブリンじゃないみたいだけれど、何者かしら?」


 あぁ、終わった。またヤバい女の子と絡んでしまった。

 いや待て、このまま無視して帰れば無関係のままでいられるのではなかろうか。いやきっとそうだ。そう信じよう。


「貴方、無視とは失礼ね。貴方もやっちゃおうかしら...」


「はい!すみません!僕はしがない駆け出し冒険者です!!」


 俺は首がネジ切れるんじゃないかというレベルで勢いよく振り返り、土下座を繰り出した。


 この子、アイリとは別方向での恐ろしさだ。なんというか、心の深いところからくる怖さだ。”やっちゃう“の文字が“殺っちゃう”に自動変換されたのがはっきりと分かってしまった。


「あらあら、冒険者さん?こんなところで何をされてるのですか?」


「いやそれはこっちのセリフなんだが...アンタこそ何してるんだ?」


「私は趣味です。ここでよく趣味のゴブリン狩りをよくしているんですよ」


「趣味...?アタシも戦うのは好きだけど、流石に趣味ではないぞ...」


 アイリと激怖女の子が会話をしている隙に、チラリと女の子の方を見てみる。

 なぜか容姿だけはレベルが高い異世界のテンプレだけはしっかりしているこの世界、例に漏れず彼女もかなりの美女だった。


 美しい白髪と白い肌、そして魔法使いっぽい高級そうな衣装を身に纏っている。おっとりとしたタレ目の顔立ちは、彼女がとても温厚であると表現しているようだ。

 そして最も特徴的な部分---耳が横に長く尖っていた。


「あの...もしかしてエルフですか?」


 俺は恐る恐る女の子に聞いてみた。

 すると女の子は俺の方へ笑顔を向けると、そのまま近寄ってきた。


「よく分かりましたね、そうですよ、私はエルフです」


「あ、あぁそうですか...あの〜」


「...?どうされましたか?」


 俺は彼女がエルフだという事実よりも、目を疑うようなモノを見てしまった驚きの方が大きくて、エルフと出会った喜びは掻き消されてしまった--


「その右手に持ってるモノはなんですか...?!」


 彼女の手には、そういうプレイをする時くらいしか見ないような、それはもう立派な”ムチ“が握られていた。


「あぁこれですか?これは私の魔道具です。このヒラヒラのところとか、金属が使われていて非常に頑丈なんですよ」


「俺が変なのか...?そのヒラヒラの部分が金属である必要は...?ってかムチである必要性は一体...?!」


「必要ですよ、だったこれがないと---」


 そう言いながら彼女はムチを振り上げながら、先ほどしばいていたであろうぐったりしたゴブリンに向かって歩み寄った。


「これができませんから♡」


 そう言って彼女はゴブリンの頬あたりを思いっきりムチでぶっ叩いた。

 おっとりとした顔立ちの女の子がムチで打ったとは想像できないほどの破裂音が響き渡り、ゴブリンの上半身が粉々になっていた。


「うわぁ強烈だな。死にかけのゴブリンにする仕打ちじゃねえよ...」


「なぁ...もう帰っていい?」


「アハハ!やっぱりこれが1番気持ちいいわ〜」


 あまりにも唐突に起こった凄惨な出来事に、流石のアイリもドン引きだった。


 俺はヤバエルフがゴブリンに気を取られている間に、こっそりと元来た道への一歩を踏み出した。

 この時『ステルス』を使っておけば...僅か数秒後に、俺は自身の判断ミスを呪うこととなるとは、俺はまだ気がついていなかった。



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