第4話『初のギルドで受付嬢に詰められましたが元気です』
「おぉ...これがギルド...!う〜ん、ザ・異世界!!」
目の前に広がる石作りの建物、壁のボードに貼られるクエストらしき紙、ホールで騒ぐ筋肉質な男達、そして酒臭い雰囲気。
まさにザ・異世界だが、雰囲気は混み合う居酒屋という感じだ。
「へっ、憧れてたろ?冒険者ギルド」
「あぁ、まぁ5秒で幻滅したけど」
「まぁ現実なんてそんなもんさ」
俺はアイリに連れられて、冒険者ギルドにやってきていた。
街に着いたときは、石造りの外壁と、中世のような街並みに感動したが、ギルドに入れば内情はほとんど元の世界と変わらない。
厳つい奴らが仕事終わりに酒を飲んでるところなんて見たら、華やかな異世界なんて想像は消し飛んだ。
「とりあえず---おっ、いたいた!」
アイリはずらりと並ぶ受付カウンターに並ぶ受付嬢の1人に目をつけ、歩み寄る。
見た感じだと10人ほど居る受付嬢の中で、アイリが選んだのは、よりによって一際“笑顔が怖い”女性だった。
「よっすリナ、新人連れてきたから冒険者登録よろしくー」
「あらアイリさん、またですか?前回の”勇者様”は3日でいなくなっちゃいましたけど?今回は大丈夫なんですか?」
おっと不穏な言葉は聞こえてきた気がする。できれば聞き間違いだと信じたい。
「そいつは“勇者ごっこ”したいだけの腑抜けだったな〜、今回はそいつよりはマシだと思う。名前は...え〜と、ユウキ」
「あ、結城ユウキといいます。よろしくお願いします...?」
受付嬢のリナさんと目が合った瞬間、リナさんの目がギュンっと鋭利になった。
「また転生者...?流行りですか?自分だけ特別だとか思ってる系の方」
「うわぁ、偏見に塗れた言葉!」
初対面でこれほど刺されたのは初めてだ。
確かに最初は『俺は特別なんだ!』って思いはあったかもしれない。
だが、そんなことは全然ないとこれまでの経験が伝えてくれた。そんな勘違いはもうしていない。
「ふぅ〜ん。まぁ期待していますよ、“固有スキル持ち”さん♪」
「この世界に普通の人はいないのか...?」
今の今まであった人間全てクセの強い人ばかりである。
クセのない人はいないのだろうか?人間関係までハードモードなのは流石に酷すぎやしないだろうか。
俺は心の中で「この人とはあまり関わらないようにしよう」とそっと決意した。
「それで、冒険者登録をされに来たのですよね?ひとまずこの用紙に署名をお願いします」
「名前だけでいいんですか?よくある水晶に手をかざすとかそういうのは...?」
「そんなのないですよ。これだから転生者は。そういった偏見を持つのは、これから生きていくにおいて困ることばかりですよ」
「え、あぁ、すみません」
偏見の塊みたいな人に言われても説得力がない。とツッコミたかったが、なんか倍返しで刺されそうなので、俺は黙って書類に名前を書いた。
「はい、オッケーです。じゃあ冒険者証を発行してきますので、少しお待ちください」
そう言ってリナさんは奥の方へ歩いて行ってしまった。
「リナ、結構面白いだろ。役所仕事みたいなことしてるのに、あの感じ出せる奴あんまいないでしょ。元の世界の奴らはみんな死んだ顔で仕事してる奴ばっかだったし」
「いや、面白いってか怖い。最初から最後までチクチク来てたんだけど。アレが通常運転なの?」
なんだろう、ギルドについてまだ数分しか経っていないのに、異常なほど疲れてしまった。
とりあえず一旦休もうと、近くの席に座った。
「んじゃ、今日はコレで終わりだな。もういい時間だし、金ちょっと分けてやるから宿屋にでも泊まりな。そんで明日の朝ここ集合で」
俺に続くように対面の席に座ったアイリが、俺に金を渡しながら妙なことを口にした。
「え?いいの?...ってか今日はコレで終わり?冒険者証は?」
「あぁ、それ時間ちょっとかかるし、たぶん明日になると思う」
「全然ちょっとじゃないじゃねぇか!!嫌がらせかあの女!!」
リナさん。そんな気はしていたが、たぶん転生者に厳しいタイプだ。
俺は大きめのため息をつき、アイリから受け取った金を持ってギルドを出た。
アイリはどうやらその辺の冒険者と一緒に飲むみたいなので、ここから朝までは1人で休むことができる。
こんなにも1人の時間が幸せだと感じたのは初めてだった。
「はぁ、今日は早く寝よ...」
俺は疲れ切った身体を癒すため、宿屋を探しに街へと歩き出した。




