第1話『説明ナシで異世界送りってマジですか?』
――風が気持ちよすぎた。
どこまでも広がる草原。空は透き通るような青。白い雲がのんびりと流れていて、どこかの観光パンフレットにでも載ってそうな絶景が、目の前に広がっていた。
「うわ、マジで異世界じゃん……!」
思わずつぶやいた声が、周囲の静寂に吸い込まれていく。
俺は結城ユウキ。17歳。異世界転生を夢見る、そこら辺にいそうな高校生である。
その俺が、今こうして“異世界らしき世界”に転がっている。青空の下、草まみれの姿で。
……夢ではない。たぶん。
自分の手をつねる。痛い。間違いなく現実だ。
「いやいやいや、ちょっと待て……!」
立ち上がってぐるりと周囲を見回すが、人の気配はゼロ。あるのは草原、森っぽいもの、あとちょっとした小山。
装備なし。道具なし。地図もなし。ていうか説明すらなし。
唐突に不安が襲ってきた。
「え、これ……マジでなんも教えてくれずに放り出された感じ?」
ぐらりとよぎる不信感。
そして脳裏に、ひとりの人物が浮かぶ。
ふわふわとした巻き髪に、チャラそうな笑顔で “女神”と名乗った、その人(?)の言葉が蘇る。
---ちょっと前---
「はい、結城ユウキさんね。おけ、じゃあ君は異世界に行ってもらうから、よろ〜!」
「え?ちょっ!待て待て待て待て!いきなりこんなとこにきて説明もナシに異世界とか言われてもわかんないから!」
「え〜?日本じゃ結構異世界転生ってメジャーじゃない?慣れてるんじゃないの〜?」
信じられないだろうが、最初のセリフ、まさかの初対面の第一声である。
トラックに轢かれた記憶はあるが、あの後どうなったかとか、俺は死んでるのかとか、とにかく説明の一切が省略されている。
ていうかこの女性は一体誰なのかもわからない。多分女神なんだろうが。
「仕方ないな〜しゃーなし!私は女神!君は事故で死んだ!コレから異世界行き!じゃー行ってらっしゃ〜い!」
「うぉおい!!適当にもほどがあるだろうが!ってか異世界転生ならなんかチートとか貰えるんじゃないのか?!」
「あ〜大丈夫大丈夫!たぶん固有スキルがあるはずだから!たぶん強いと思うから何とかなる!」
「おい待て!たぶんって何?!適当にもほどがあるだろ!もっと説明を---」
「まぁなんとかなるから!あっ、ステータスは頭の中でステータスが見たい〜的な感じで思えば見れるから!そんじゃ転生ボタンポチ〜☆」
「ちょっ!!まだ説明が---ぅおあああああ!!!」
---現在---
「説明の“せ”の字もなかったぞコラァ!!!」
俺の渾身のツッコミは、誰もいない平原に虚しく消えていった。
気を取り直して、あのギャル女神が唯一教えてくれた“ステータス”でも見てみるとしよう。異世界では定番の要素だ。
頭の中でステータスと念じると、女神が言った通り、ステータスが目の前に表示された。
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【名前】 結城ユウキ
【レベル】 1
【HP】 120
【MP】 100
【スキル】 なし
【魔法】 なし
【固有スキル】 『ステルス』
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「以上...?」
何度目を擦っても、表示される内容は変わらなかった。
「チートは?!俺tueeeは?!確かに“固有スキル”はあるよ?!それだけじゃねぇか!!」
ステータスと固有スキル以外、マジで説明がない。初期装備も魔法もチュートリアルもない。ここからどうしろと。
「これ...詰んだ?」
笑って誤魔化したいところだが、笑えない。早々に2度目の死を迎えそうである。
突っ立ってても仕方ないので、ひとまず歩くしかない。目的地もないが、何もしないよりはマシだろう。
ため息をつき、一歩を踏み出そうとした。
---その時だった。
「---ぁぁぁぁぁぁああ!!」
「ん?女の子の声...?」
かなり遠くからだが、女の子の声が聞こえた。
今の今までギャル女神からの説明なしの転生で、テンプレから大きく外れていたが、ここにきて女の子を救うイベントが到来か?!
「これは行くしかないだろ!特に戦えるスキルとかないけど!」
俺は無謀と分かりながらも、女の子の声がした方向へ走り出した。