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出雲玲央の苛立ち1
出雲玲央は校庭の隅の名も知らぬ樹木の幹を見つめる。
そこには薄茶色いカマキリが我が物顔で鎮座ましましていた。
「木の幹はカブトムシの特等席だろ。」
そう心の中で毒づくも目の前のカマキリは真後ろにいる小僧の視線など意にも介さない貫禄があった。
僕はカマキリがあまり好きではない。
嫌いな虫はと聞かれれば100人中98人くらいがあの黒光りしたカサカサ動く生物Gと答えるだろう。
僕からすればカマキリもGも気持ちが悪いという点では変わりないように思う。
逆三角形の頭、ギラギラレンズの眼、その中から浮き出る小さいゴマのような黒い瞳、ブヨブヨの腹、
いや、気持ち悪い点を挙げるならむしろカマキリの方に軍配が上がる気がする。
「Gと言えば気持ち悪い。気持ち悪いと言えばG。」
そういった先入観のせいでGは気持ち悪い生物殿堂入りを果たしている。
なのに同じ生態を持つカマキリは大して非難を浴びずに揚々と狩りに勤しんでいる。
1番矢面に立たなければいけないのはGではなくカマキリの方だ。自分の父親のように…。