復讐の眼光
「英雄」の訃報を知りXは身体中の震えと激しい目眩におそわれた。
英雄が死んだからではなく、加害者が自分の知っている人間だったからだ。
加害者の所在を個人的に探していたが結局最後まで見つけることはできなかった。
ずっと、ずっと、ずっと、「彼」のことを考えて生きてきた。
ニュース番組のキャスターが「彼」の過ちを怒りを抑えきれない様子でまくしたてていた。
「彼」に対して全てを知ってるかのような私見を述べるキャスター失格な、よくわからない評論家の肩書きを持つ中年男性に対してXは激しく憤った。
キャスターだけではない。SNSや動画投稿サイトにて「彼」を絶対に許さないと年来の仇敵かのように
怒りや殺意をぶちまける情報媒体の奴隷達にも腹が立って仕方がなかった。
「彼」を誰よりも知っているのは私なのだから。
「彼」に対して誰よりも怒りと殺意を持っているのは私なのだから。
1日2日寝て起きても「彼」への復讐心が消えることはなかった。この殺意は本物だ。
この殺意をきっかけにXは自分がタイムリーパーに目覚めたのかと思うほどテレビでは連日「英雄」と「彼」に関する事件ばかり報道されていた。
誰よりも「彼」を知り、誰よりも「彼」を恨み、そして誰よりも「彼」を愛していた私にこそ「彼」を
介錯する資格がある。
テレビに映った「彼」と「知らない女性」と「知らない子ども」が楽しそうにしている写真をじっと
見つめながらXは心中に青い炎を灯し続けることにした。