綴られる贖罪
玲華は手紙を手にして家に入ると母が出迎えた。
父は既に寝て、玲央は自室でこもって勉強をしているとのことだった。
玲央にしばらく構うことがなかったばつの悪さもあったが何より手紙の内容が気になったのでキッチンの
調理用ハサミで大雑把に封筒の端を切り離して中身の書類を取り出す。
もしかしたら事務的な書類かとも思ったがどうやら”あの人”からの手紙のようだった。
数年も会えてないうえに許すとか許さないとかそんな事すらもうどうでもいいと思った”あの人”からの手紙
玲華は一瞬立ち止まる。こんなもの急いで読むより玲央に「おかえり」という方が大切なのではないかと…
しかし自分の体は思ったよりも”あの人”いや”純一”のことが気になって仕方がないらしい。
気づけば三つ折りになった白い紙を広げていた。
「玲華へ ”あの日”からまともに顔も合わせず、塀の中で籠もっていた卑怯者の自分なんかが書いた手紙を読んでくれてありがとう。まずはごめんなさい。俺の”軽率な行動”で玲華を玲央を、伸江さんや勇作さん、光さん、俺が今書き連ねてないたくさんの人に迷惑をかけてしまったことを謝らせて下さい。もちろん赦されるなんて思ってないし赦さなくていい。離婚したのだって当然の結果だと思ってる。そしてありがとう。玲央を一人で育ててくれて。覚えているか?玲央がまだ3歳くらいだった頃3人で近所の森林公園に行ったときのこと。玲央がたまたま捕まえたバッタみたいな生き物を俺が預かってビニール袋に入れて放置してたらトイレに行ってる間にベンチにいたカマキリに喰われてて玲央が大泣きしたんだよな。3人で写真を撮った時もずっと不機嫌だったけど、玲央は誰よりも優しい子なんだと思った。
賠償金の負担を玲華や玲央に押しつけてしまった俺が言えたことじゃないけど玲央が大人になっても、
生き物を愛おしく思える優しい子に育ててほしい。
事務的なことは光さんに任せるしかないけど、あの人から玲華に”ある物”を渡して欲しいと頼んである。
玲華が今度光さんに連絡するときに”パリスの弓矢”と伝えてくれれば分かるはずだ。
回りくどいやり方になって申し訳ないがよろしく頼む。最後にこれだけ言わせてほしい。
玲華、玲央、これからも強く楽しく生きてほしい。 純一より」
玲華は手紙を読み終えた。
自分で自分が許せない。
なんで…
贖罪のつもりかもしれないが結局自分が賠償金も悪意も十字架も背負い続けることに変わりはない。
純一が塀の中にこもり続けることに変わりはない。
なんで…
結局何も変わりはない。
玲央のことも私任せ。
なんで…
父や母だけでなく純一の元カノ、光の母親、影翔…純一がいなければ人生が狂っていなかったかもしれない人達だってたくさんいたはずなのに。
なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで……………………。
気づけば玲華は涙が止まらずにいた。