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パリスの弓矢  作者: happy
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冬のヘビが日向に出る

 午後17時、周りの空は完全に薄暗くなっていた。

光と影翔との祝勝会を終えて昼前には特急で東京駅を出たがそれでも時間は夕方になってしまった。

玲華は駅を降りてから自宅までの気が長くなる一本道を早足で歩く。

今までならタクシーを使うのをためらわなかったが賠償金の弁済以降、貧乏性のギアが上がっていた。

今にして思えばタクシーほど「金と健康習慣」を手放すくだらないものはないとすら思う。

本来ならいけないが車や自転車が通ることはまずないのでスマホをいじりながら道のりを進む。

無限地獄のような変わり映えのない景色を視界の端に捉えながら歩き続けていると正面から、

「あっ、玲央くんのお母さん。」

活気のあるかわいらしい声が正面から聞こえてくる。

「あら柚葉ちゃん。学校帰り?遅いわね。」

道の前に立ちはだかったのは玲央の同級生で近所に住む柚葉。

「いえ。家にはもう帰っていたんですけど祖父から餅を荒川さんに届けてくれって。」

荒川さんは確か近所の雑貨屋だったけか…それにしてもこんな夕方に小学生を使いにやって大丈夫だろうか?

「もう18時になるわよ?荒川さん家まで付き添うわよ?」

「いえ。よく伺っているので。玲央君多分さみしがっていると思いますよ。」

敬語に加えて私と玲央への心配りができるなんて。

息子ながら玲央も比較的賢い部類だと思っていたがこういう面では柚葉の方が優れていると感心する。

「そう。気をつけてね。」

小さくお辞儀をして小走りで通り過ぎる柚葉を見送る。

両親ともに東京で働いているらしいがあれだけ頼もしい娘がいれば祖父母もむしろ心強いだろうな。

だとしても柚葉のことは玲央とともに陰ながら見守っていきたいと玲華は強く思う。

そんな思いを馳せてるうちに自宅に到着した。

「ただいま」と言って玲央はどういうリアクションをするだろうか?

ここ最近は特に玲央とちゃんと一緒にいれないことが多かった。

「寂しい」と思ってくれるならそれはそれで嬉しいがそれでは柚葉のように頼もしく育たないのでは?

そんなジレンマが心の中で討論することがある。

仲が悪いわけではないがどうにも玲央に久しぶりに話しかけるのは少し緊張する。

そわそわをごまかすために玲華は意味もなく家のポストを開けてみる。

関係者とはスマホでやり取りをするし実家周りの人とは手紙ではなく直接やり取りするのでポストに郵便が届くことはまずなかったが、茶色いしっかりとした封筒が入っていたので少し拍子抜けした。

外が暗くなっていたのでスマホの光を封筒に当てる。

「…え?」

玲華は冷たい手で心臓を握られたように胸を打たれ、脈が秒読みで速くなるのを感じる。

しかしそう思うのも無理はない。


茶封筒の宛先には黒い印字で「東京拘置所 播磨純一」と書かれていたからだ。


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