氷室凱世の葛藤2
あのDMから自分の人生は一変した。
生活に余裕が無くなっていた自分はDMに書かれた情報をダメ元で動画にして配信した。
にわかには信じられない情報で下手に広まれば自分はメイヨキソン?とかになるかもしれなかったが、
DMに書かれた情報通りの出来事が自分が配信して間もなく本当に報道され続けた。
今までファン2割、人の悪口で飯を食う糞虫扱いするアンチ8割だった自分の登録者だったが、そのアンチすらも自分を「情報通」、なかには「予言者」扱いするものも出てきてあれよあれよと登録者数は10万人を突破した。DMの送り主が何物か気になったが膨れ上がる収益の前では些末な問題だった。
DMの送り主から届く情報を横流しし続けいよいよ登録者数が30万を超え、
「暴露系Youtuber」として世間から注目を浴び始めるようになった頃、DMの送り主から「情報」ではなく、「依頼」という名目でメッセージが届くようになった。
「氷室様 あなた様の功績に敬服いたします。引き続き”情報”の提供をお送りいたしますがその代わり、
こちらの”指令”に従っていただきたく存じます。さすればあなたを[神]にして差し上げることも可能です 鎮魂団体”ヒュドラ”を司るあなたに今後の益々の期待を… 」
神…DMの送り主がタダ者じゃないのは分かっていたが想像以上にヤバい奴かもしれない。
しかしこの送り主からの情報提供が無ければせっかく築き上げた地位もお金も手に入らなくなる。
氷室は自分への依頼という名の「脅迫」を受け入れることにした。
おかげで登録者数は指数関数的に増えていき、DMに書いてあったように自分を本当に「神」扱いする信者も出てきた。
金、知名度、情報、権力…何もなかった自分には有り余るほどの力を手にした。
手にした力で芸能人に会うことも出来たし、信者の女も好き放題出来るようになった。
他人が聞けば羨むような話だが、「自分の能力で力を手にした者達」と関わるようになってから自分という存在が何の取り柄も無い「空虚」であることを実感させられるようになった。
「人の情報を盗み取り、周りにチクる」
そんな格好悪い生き方を続けた自分のクソッタレな部分がより浮き彫りになる日々。
人の欲に際限はないのだと疲れ始めていた頃に、自分の編集パソコンにあるメールソフトから匿名でメールが届いた。
SNSからはDMがうんざりするほど届く毎日なのだが、完全に飾りになっていた自分の編集PCのメールに
通知が来たことにはさすがに不信感と恐怖が出てくる。
(まさか「あの人達」から?DMではなくPCで?)
まったく状況が分からなかったがとりあえずメールを開けてみる。
「あなたに”本物の英雄”になるチャンスをあげましょう。私たちに力をお貸し下さい。反乱同盟”ヘラクレス”より」
何故かはわからない。わからないがこのメールが自分の「空虚」をぶち壊す知らせに違いないという確信のようなものを抱いていた。