反撃の狼煙
玲華と影翔はフードコートのテーブル席に移動して作戦会議を開くことにした。
「光は自分が黒幕に操られていることを私が知っていると悟っているわ。だからここは素直に光と共同戦線を敷いてYを引きずり出すことを優先しようと思うのだけれど。」
玲華はカバンから取り出した手帳に今日の光との会合での要点を思い出しながら記録して言う。
玲央はそんな玲華の意見に対して
「確かにYに近づけるのであれば玲華さんはYと光さんと純一さん全てに対して有力な情報を手にできる可能性が高いですがそもそも既にYさんは自分の存在を玲華さんに悟られているのを察知して光さんにあえて協力させるよう持ちかけている可能性もありませんか?」
と率直な感想と推察を述べる。
「だけど私が光に黒幕の存在を臭わせる発言をした時の狼狽ぶりはとても演技には思えなかったわよ。」
玲華は手帳の余白の部分をボールペンでツンツン突きながらつぶやく。
「ならば光さんは独断でYさんにとって不利益になる協力関係を持ちかけたってことですか?何の為に?」
影翔の疑問は最もだ。この協力は下手をすれば光の黒幕Yに対しての宣戦布告にもなりうる。
「…確かにわからない。でもおそらくだけど光はYに弱みを握られているかも。Yにどれほどの力があるか分からないけどあの子は母親を支えるために必死で働いていると聞いたことがあるわ。優秀で正義感のある彼女が得たいの知れない人の言うことをおいそれと聞くわけがないと思うけど…」
あくまで表面上の友情関係とはいえ光が苦労してきた人間というのは一緒にいて伝わってきたし、今でも
Yという黒幕の協力者とはいえ光をYや純一と同じ”復讐の対象”に入れていいのか玲華自信迷っている。
「正直、母親のためや正義感のあるという点は玲華さんの主観なのでなんとも…だけどYという人間に人を操るだけの力を”持たされている”可能性は十分にあります。玲華さん…”ヒュドラ”はご存知ですか?」
「母親」という単語に怒気を強めて言った影翔の口調が気になったがそれよりも唐突に出てきた”ヒュドラ”という組織の存在のほうが無視できなかった。
「当然知っているわよ。でもヒュドラの主なターゲットは”あの人”だと思ってたけど?」
日に日に膨れ上がるヒュドラという組織の存在に恐れを感じないと言えば嘘になるが、玲華はあくまで
ヒュドラは”英雄殺し”にしか興味がないと思っていた。確かに自分に矛先が向かないと考える方が不自然かもしれない。
「えぇ。話に出た光さんの尽力もあって一時出た玲華さんの”洗脳騒動”はデマとして処理されつつあります。しかしヒュドラはあなたを始めとしてあらゆる事件関係者に接触を図っています。あくまで私の仮説ですがYがもし純一さんと関わりのあった人物であればヒュドラからYに接触を図り後ろ盾となっている可能性があります。そうすれば弁護士1人を操らせるなんて造作もないでしょう。」
影翔は話終えると同時にフードコートの無料で飲める紙コップの水を飲み干した。
「光は本当に母親を人質といっても過言じゃない状況にされててもおかしくないってことね…」
玲華はうつむきつぶやく。
(光さんの弱みを握って操らせているY、それをさらに後ろから支えるヒュドラ。”反撃の狼煙”は今か?)
影翔は心の中で考える。ヒュドラほどの巨大な組織にYという人物を探ったところでトカゲの尻尾切りになるだろうと思っていたがさっき自分で話していてYという人間はもしかしたら思った以上に「純一に近い人間」である可能性が高い。ならばここでYを本格的にしょっぴく選択はアリだ。
「玲華さん。やはり光さんと協力してYを出し抜くという方向でいきましょう。光さんがYの支配から逃れたいという推測はまだ確信しきれていませんが、それがあなたの復讐と前に少しだけ話した”私の復讐”を遂げるための最短ルートです。」
しばらくコップを眺めて考え事をしていた影翔が急に決意を固めた表情でこちらを見つめ話してきた。
詳しいことは知らないが影翔はヒュドラに何か強い恨みがあると言っていた。
「えぇ。今度3人で改めて集まりましょう。あなたと私と光。この決断が3人の運命を変えると信じたい。」
玲華は手帳を閉じると、今日は日帰りの予定なのでとりあえずお開きにしたいと言った。
影翔はそそくさと駆けていく玲華の姿を見送った。
(…話がまとまったのはよし。だけど”念には念を”…)
影翔は次回までに”Yと光”2人について「改めて調べる必要がある」という直感が頭をよぎった。