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パリスの弓矢  作者: happy
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面従腹背

 光は玲華と東京駅近くのカフェで談笑をしていた。

光と玲華は1ヶ月に1回小旅行を兼ねた遊びに行く仲になっていた。

お互いの出費の公平性を考えて集合場所は島根と東京交互にしていた。

無論光が「Y」という自分を貶める黒幕の傀儡であると知ってだ。

「あの事件」の後始末として結局玲華は遺族への賠償を純一に代わって弁済することになった。

玲華にとって純一と袂を分かつ「ケジメ」と光と黒幕Y、そして純一への「殺意を消さないための戒め」にするためだった。

「光に取り入りYの居所と弱みを握り出し抜く。Yと純一と光、全員に復讐を…」

感情がケチな母親が出すカルピスの如く希薄な彼女に沸き起こる「怒り」。

自分でもここまで人に感情的になるとは思わなかった。玲央を育ててきた経験だろうか…。

とにかく今は「光に警戒されず、近づくこと」

「今回の事件に携わったことで光ちゃん法曹界で注目され始めてるようね。」

カフェのチーズケーキを外側のクッキー生地だけ削って食べる光にそれとなく話を振ってみた。

元々優秀な子だとは思っていたが実際彼女の離婚調停や賠償の仲介の迅速さをTVで著名な弁護士が高く評価したのをきっかけに、法曹界だけでなく、裁判や週間記事でちらりと映った彼女のルックスをSNSが持て囃したことで彼女は一部ではあるがちょっとした存在になっていた。

「いえ、そんなことないですよ。速さだけが取り柄ですから。」

一時のしどろもどろさは完全に消え、明るくハキハキとした口調が戻っていた。

私が年上というのもあるだろうが、敬語で話されている時点でまだ彼女と仲が深まったわけではないかもしれない。少し危険な賭けだがもう一歩光に踏み込んでみる。

「そんなわけないでしょ。とても判断力が私より年下とは思えないもの。優秀なブレインでもいるのか疑ってしまうくらいだわ。」

「ブレイン」の単語で光がこわばるのを見逃さなかったがあえてそこには触れない。

「いえ…その。ブレイン、いやまさか…うん。ないない。いやないですよ。」

面白いくらいにしどろもどろさがバロメータになる娘だなと一瞬呆けるが、すかさず

「生成AIかと思うくらいあなたの判断は的確よ。ご両親の教育が良かったのね。」

言い終えると同時に光はフォークをテーブルに強く置いた。

近くにいたおばさんの集団が一瞬コチラを振り返るくらいの音だった。

「…しまった。AIはさすがに失礼だったよな…。」

光に必要以上に踏み込んでしまった軽率さと人工知能呼ばわりした自分の口の悪さを悔やんだ。

光はすかさず、

「あ、すいません。急に大きな音立てて。」

立ち上がって90度に頭を下げる。

「こちらこそごめんなさい。AIだなんてホント無神経だったわ。」

光の肩をさすり、丁寧に座る介助をした。

それから光は30秒ほど黙りこくって俯いていた。

「今日はとりあえずお開きにしましょうか。」

そう促そうとした瞬間光はおもむろに顔を上げこちらの目をまじまじと見てきた。

普段から緊張すると目をそらすクセのある光が見せることのない強い目をしていた。

「知っているんですよね?私がある方から指示を受けていることに。」

映画の敏腕スパイのように少しずつ、水面下で情報と証拠の包囲網を敷くつもりだった玲華にとっては

完全に虚を突かれた。

「いや、それは…」

今度は玲華がしどろもどろになった。光のしどろもどろさをどこか面白がっていた因果応報だろうか。

「協力しましょう。玲華さん。」

しどろもどろな霊が光から抜け出して私に取り憑いたのかと思うほど光は冷静で強い口調で喋っている。

いやそんなことより…協力?セリフからしてもしかすると大分前から私が黒幕の存在を気づいたことに

気づいていたのかもしれない。しかしなんで今?気づけばこっちがパニックだ。

光は玲華が今までになく動揺しているのを見て一瞬たじろく。そこはかとなく周りを見渡すとさっきの

おばさん達…だけじゃない。反対側のママとも達も完全にこちらに聞き耳を立てていることに気づいた。

先ほどの光のテーブル叩きから一連の流れを周りの客が注目し始めていたようだ。

光は狼狽している玲華に、

「後日詳しいお話を電話かメールで話します。パニックにさせてしまい申し訳ございません。」

光は領収書を握りしめてお会計に走っていった。

予定はかなり狂ってしまったが、今玲華はとにかく落ち着きたかったからちょうど良かった。

一度深呼吸してスマホをいじる。

「…落ち着け。こちらにも切り札はある。」

玲華はメールでこの会合の後で待ち合わせを予定していた「協力者」に予定より早くなると伝えた。



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