出雲玲華の決意
ヘレネーとはギリシア神話に登場する女性のことらしい。
トロイア戦争という大きな戦いの発端となった人物で、スパルタという土地の王の妃だったがパリスという
トロイアの王子がヘレネーを連れ去ったことが原因とされている。
ヘレネーが連れ去られた「被害者」か、パリスに恋をしてスパルタの王を捨てた「尻軽女」なのかは議論が
別れるところだ。
マスコミはどうやら純一をトロイア戦争で英雄アキレウスのことを弓矢で射殺したパリス、
私をパリスの被害者に見せかけて「戦乱」をもたらした黒幕とされるヘレネーに見立てたいらしい。
マスコミが私の容姿をやたら持ち上げていたのもヘレネーが「人間の中で最も美しい女性」と言われていたのが関係しているのだろう。私は自分の容姿が平均と比べれば優れているという自負は秘かにあったが、
さすがに「人間の中で最も」という冠詞はさすがに背負えない。
パリスがヘレネーを連れ去った後にパリスはアキレウスという「英雄」を殺しているから今回の事件とは
時系列がまったく違う。
マスコミが情報を司る組織のくせに教養も品性も低俗なのはイメージでは知っていたが、一連の殺害報道をギリシア神話に見立てる想像以上の節操の無さにはほとほと呆れてしまった。
玲華は部屋のリビングで調べていたスマホをテーブルに置いて数分目を閉じた。
頭の中で「作戦」と「感情の整理」を器用に行いたい時はいつもそうする。
玲華は3つのことを決意した。
①賠償金は諦めて私が払い、お金やマスコミから逃れるため実家の島根に玲央を連れて帰る。
②賠償金を払い終えたら光とは「依頼主」ではなく「一人の友人」という関係を装い「Y」という黒幕を
あぶり出す。
③玲央の大学までの学費が貯まったら光とY、そして純一に…。
玲華は再び刮目した。決意は固まった。玲華は再びスマホを取り、実家の母親に電話をかけた。
そして再び時間の振り子は進み出す。