出雲玲華への刺客2
あの女性弁護士が訪れてから3ヶ月。
離婚の調停や親権、苗字の変更手続きなどの手助けを迅速に行ってくれたおかげで少なくとも事務的な
手続きの懸念はほぼ解消されていた。
その後事故による慰謝料などの交渉や手続きも行ってくれるという。
「阿部光」と言ったか。
税理士と弁護士では畑が違うだろうがそれでも彼女は若いながら優秀なのだろうと確信していた。
純一ではなく「ある方」から依頼を受けてこの事件の事後処理として派遣されたと彼女は言っていた。
自分は頼んでいないし「純一のような人種」に弁護士のツテがあるとはとても思えない。
加えて彼女は相談料、着手金は無料で、事故の慰謝料の相場は2千万から3千万らしいがなるべく安くなるように働きかけると言った。
普通に考えれば「正体不明の人間」から依頼を受けた「正体不明の弁護士」の「破格の仕事請負訪問」など門前払いするものだろう。
自分では平気と思っていてもやはり心身は疲弊していたのか、それとも、常時五感から悪意を察知し続けたことにより、大脳皮質が気づかぬうちに恐怖と友達になりかけていたのかもしれない。
一抹の疑念はありつつも彼女を受け入れることにして正解だった。
玲央や両親のメンタルケアを優先させたかった玲華にとって面倒な後始末の手伝いをしてくれる彼女の存在にはかなり助けられる。何より純一との緩衝剤になってくれるのだから。
彼女に聞けば純一の近況をある程度知ることはできるだろう。
だが、私は今までの相談で彼女から純一の名前が出てくることはあっても自分からは1度も純一の名前は出さなかった。
それが純一への怒りからなのか、無関心からなのか、玲華には分からなかった。