弱肉強食の頂点にいたのは
後年北アメリカと称される遥か彼方まで見渡せる大平原を、体長が14メートル以上ある巨大な肉食恐竜が歩いていた。
片足を引きずり、1歩踏み出すごとに巨大な肉食恐竜は痛みで呻く。
彼の片足は腫れ上がり、1歩あるくごとに傷口から膿が混じった血が吹き出していた。
嘗ては自分の倍以上の大きさの竜脚形類でさえ餌にしていたジェラ紀最大の肉食恐竜であり、この一帯の弱肉強食の頂点に立っていた彼だったが、足の傷のため自分より小さな獲物さえ捕らえる事が出来ないでいる。
何度か他の肉食恐竜が仕留めた獲物を横取りしようとしたり、死肉食いが群がり腐臭を漂わせている死体の肉を食らおうとしたりしたが、彼が傷を負い弱っている事を見抜かれ、彼より小さな同族や他の肉食恐竜に追い払われた。
最後に口にした装盾類の獲物を捕らえた時、彼は誤って装盾類の尾の先端にあるスパイクを踏み抜いてしまう。
捕らえた装盾類の肉で腹を満たしたあと、近くの湿地帯に行き喉を潤す。
湿地帯に足を踏み入れた際、濁った水や泥が傷口に入り込んだが彼は気にも留めなかった。
そのとき彼に死をもたらす黴菌が、水や泥と共に傷口に侵入していた事に気が付く事も無く。
獲物を求め荒野をうろついた彼だったが遂に力尽き倒れ込んだ。
何度か立ち上がろうともがくが足の傷がそれを許さない。
倒れてから数日後の朝、彼の心臓は動きを止める。
この一帯を支配し弱肉強食の頂点にいた筈の巨大な肉食恐竜を殺した黴菌は、その事に気を留める事も無く繁殖に勤しむのであった。