ずんぐりむっくりなモテナイだろう父親に、母の違う子供が次から次に出てくるんだけど?!
「お父様!この状況はどういうことですか
?!」
「いや、その・・・だな。つい・・・」
「つい、でこんな状況になるなんておかしいじゃないですか!」
「そんなに怒ると怖いよミナリーレイ・・・」
私の毛細血管がブチブチと音を立てて切れていくのがわかった。
一ヶ月前、母が亡くなった。
私が五歳の頃には床から出られなくなっていたので、亡くなったことは、本人も楽になれただろうし、薄情と思われるかもしれないが、家族も楽になった。
母が亡くなって二週間程経ったある日、一人の女の子が我が家にやってきた。
「お父様に会わせてください」と!!
私より六歳年下で、母親が男を作って出ていってもう一ヶ月帰ってこない。
食べるものにも困ってしまって、母親が昔「あんたの父親はヴァレーン伯爵様なのよ」と言っていたことを思い出し、訪ねてきたという。
人はここまで痩せられるのかと、思うほど痩せ細っていて、その娘に慌てて食事を与えた。
その時、父は王都に行っていて不在だったため、仕方なく従業員用の部屋を与えた。
「食べた分だけは働かせてください」と言われたが、こちらから何かをしてほしいとは言わず「好きにすればいい」とだけ答えた。
娘は名前をマリと名乗った。
マリが来たことが皮切りになり次々に父の子供だと言う子が現れた。
それは娼婦の子から果ては準男爵の息子まで総勢8人。
母が床についてから出来た子供ばかりなら許せたが、私より年上が一人いた。
父が王都から戻ってきて冒頭に戻る。
「お父様、すべての子に心当たりはあるのでしょうか?」
「よくわからない・・・かな。間違いなく私の子だと言える子もいるよ。二人ほど」
「誰ですか?」
「準男爵の子供のラタとマリは私の子供だと聞かされている」
「証拠はないのですね」
「そんなもの有りはしないが、二人はお前そっくりじゃないか」
ピキピキと顳顬の青筋が音をたてる。
「似てません」
「お母様は!知って!らっしゃったの!?」
「確信はなかっただろうけど、外で遊んでいるのはわかっていたと思う。私にかまわず行ってらっしゃいと送り出されたから・・・」
「それで、お父様はハイそうですかと女遊びを繰り返したのですか?」
地を這いずるような私の声に父が震え上がる。
全員と教会に行って、親子鑑定をしてもらってきて下さいっ!
教会では、魔力による親子鑑定をしてもらえる。高い料金を支払う羽目にはなるが。
「ミナリーレイ、ほんとに怖いよ」
子供達を全員集め、教会へ向かう。
何をしに行くのか問われ、親子鑑定をしに行くのだと伝えると三人の行方が分からなくなった。
残りは五人。
金貨五枚が飛んでいく。
父の血液と、子の血液を魔道具に垂らすと親子なら赤、他人なら青、伯父や叔母との関係なら桃色に光ると聞いている。
マリの結果は赤。
ラタの結果は青。
ダダの結果は青。
ユタの結果は赤。
1人は逃げた。
ラタとダダにはお帰り下さいと申し渡し、マリとユタは連れて帰ることになった。
「ラタが私の子じゃなかったなんて・・・」
父は落ち込んでいたが、今までいくら渡したのか聞いて目を剥いた。
執事に頼んで準男爵の家に今まで用立てた金額の全額返金を申し立てた。
一度には返せないので少しずつ返すという約束になり、証文をきっちりとった。
ユタの事情を聞くと母親は娼婦で、最近、男であるユタにまで客を取らせようとしてきたので逃げてきたと言うことだった。
歳は八歳だった・・・。
厳しい話だが、父の子であっても貴族の子として迎え入れることは難しい。
父の子として届けるのはいいが、貴族としての基礎ができていないので、これからどう生きていきたいか本人に聞くことにした。
マリもユタも、我が家で雇って欲しいと言った。
正直、使用人として扱うのも体裁が悪い。
本当にどうしたらいいのか頭を抱えた。
執事のオーラが、貴族としては扱えないが、部屋を与え、学校に行かせてみてはどうかと言った。
マリもユタも残念なことに魔力は殆ど無く、学園には通えない。
私は了承し、二人に家庭教師を付けた。
二人共読み書きができなかったため、家庭教師は苦労するだろうと思ったが全ておまかせした。
「お父様、他には疑わしい子はいないのですか?」
「正直わからない・・・」
「お・と・う・さ・まっ!!」
「アリエスタはずっと寝込んでいたから・・・」
「寝込む前の年の子もいたと思いますが?!」
「それは、その、おや〜?」などと言い訳をしているが、父が不誠実な人間なのだと初めて知った。
ありえないと思うんだけど、もしかして父ってモテるの?
ただのずんぐりむっくりした親父だと思っていたのだけど・・・。
それともお金の関係?
やだっ!
男性不信になりそうよ。私。
マリとユタに私は学園に行かなければならないので二人で助け合って強く生きるように言い聞かせた。
ついでに勉強ができるといい仕事につけるとも言って聞かせた。
一番目を輝かせて聞いていた。
学園に戻ると、直ぐに授業が始まり、家のことを気に掛ける余裕はなくなった。
次々に出る課題に、魔法の熟練度のテストに追われ続け、やっと夏休みになって家に帰るとまた子供が増えていた。
今度は十人。
どこかでヴァレーン伯爵家、ちょろいよとか噂が流れているのだろうか?
「どういうことですの?お父様!!」
「いや、だからね・・・えっと・・・」
「全員と親子鑑定したんでしょうね?」
「いやまだ・・・」
「家に入れる前にしてきて下さい!!早くいきなさいっ!!」
全員が父の子ではなかった。
ホッとした。
だが、女の子二人は連れて帰ってきてた。
「この子達の境遇はちょっと酷くて、帰せない」
父が情けない顔で言う。
子供達が言っていることが本当か調べさせると、聞いた以上に酷かった。
マリとユタの家庭教師に追加のお金を渡して、読み書きを教えてもらうことにした。
新しく来た二人は、学校に行けるようになったら我が家から通わせ、学びながらメイド見習いとして働くことに決まった。
私はオーラと話し合い、いくらなんでもこれ以上は受け入れられないと話し合い、父に後妻をもらうように勧めた。
父は母が亡くなって一年も経っていないのにそんな事はできないと言ったが、父のやっていることはもっと酷いことだと、こんこんと説教した。
「血がつながろうが、繋がるまいが、もうこれ以上は私も許せません。女遊びはすっかり止め、妻一人を相手にして下さい!」
「わ・わかった・・・」
オーラの伝を辿って再婚相手を見つけた。
歳は二十六歳で結婚して三年経っても子ができなかったために家に戻されたワーカレイという、美人さんだった。
正直父には勿体ない。
ワーカレイの月のものが来るのを確認して、父とワーカレイは再婚した。
あれほど多かった父の外出がピタッと無くなり、ワーカレイにのぼせ上がっているのがよくわかった。
マリとユタは学校に通えるくらいにはなったと家庭教師から報告が届き、編入の手続きを父に行わせた。
教材を嬉しそうに抱えた二人は教科書を押さえ、ここまでは家で出来るようになってくるように言われたと家庭教師と話していた。
夏休みが終わり、私は学園に戻った。
オーラとワーカレイには父の子だと言う子が現れたら毎月一日に昼一番に教会に来るように伝え、親子鑑定結果が出てから家に入れるように指示した。
ワーカレイは真剣に聞いてくれていた。
この真剣味が父にも欲しい。
父の子だと言う子はその後もちらほら現れたが、家に入れてもらえず、教会での親子鑑定後の話し合いだと知り、その数は減っていったが、零にはならなかった。
私は学園で一学年下の子と相対していた。
「私、ヴァレーン伯爵が父だと教わって、参りました」
私は深い深いため息をついた。
「お名前を伺ってもいいかしら?」
「私はアングラー男爵家の娘、リラーシュです」
「では、来月の一日、親子鑑定をいたしますので、金貨一枚をお持ちになって教会に十三時に来て下さい」
「私の言うことが信じられないと?」
「はい。父の子だという男爵家の方が多くて、親子鑑定しても親子と認定された人はいないのです」
リラーシュは唇を噛み「わかりました」と私の目の前から去っていった。
翌月の親子鑑定にリラーシュと名乗った男爵家の娘はやってこなかった。
その話をワーカレイと父に聞かせるとワーカレイが父を上目遣いに睨めつけた。
「いや、過去の話だからね。今はワーカレイ一筋だよ!」
「旦那様の言うことを信じていいのか解らなくなってしまいました」
「お、お願い信じて」
二人で勝手にやってくれと私は自室に戻った。
父の隠し子騒動に紛れて印象が薄くなっていたけれど私には婚約者がいる。
ラズベリー・ハルバルクといって同級生である。
ラズベリーと可愛い名前が付いているがれっきとした男の子である。
それもどちらかと言えばごっつい体の、力こそ全て!!と言い切るタイプである。
今日はたまたま食堂で顔を合わせ、互いに一人だったので一緒に食事をとることになった。
父の話を聞かせ、ため息をついた私の顔を見ず、そっぽを向いている。
「ラズ・・・あなた・・・」
「違うんだ!!」
「・・・・・・」
「ほんの出来心で!!」
「婚約解消しますか?」
「そんなっ!」
「浮気者は父一人で十分です」
「浮気なんかしていないっ!!ちょっと可愛いなと思う子がいただけで・・・」
「私のことは気になさらず、その方に告白されてはいかがです?婚約は白紙撤回しましょう」
「好きになったわけではない!!本当にちょっと可愛いと思っただけなんだ!!」
「・・・・・・ラズ、私はもう、疲れました」
私は食べていた食事を半分以上残してその場を立ち去った。
ラズなら、これくらい脅しておけば相手に本気になるか、きっぱり諦めるかするだろう。
最近全然かまえなかった私にも責任もあるし。
翌日、ラズは私の前に跪き「私にはミナリーレイしかいない」と小さなブーケと私の好きなマドレーヌを可愛くラッピングしたものを差し出した。
「ラズ・・・ありがとう。本当に私でいいの?」
「勿論だ!!」
私は受け取ってラズの胸の中に飛び込んだ。
ラズは抱きしめることも出来ず、ただ棒立ちになっていた。
そんな微笑ましい一幕があったものの家に帰ると現実が待っている。
ワーカレイが鬼の形相になっていた。
「まさかと思いますが、父が浮気したとか?」
「亡くなられた奥様の時の話ですが!!」
「・・・またですか」
「親子認定されたんですか?」
「いえ、以前関係があったと女性が出て参りました」
「なに用で?」
「愛妾にしてくれと」
私は頭を抱え込んだ。
「父はなんと?」
「今は私がいるので受け入れられないと」
ホッとした。
「なら、どうしてそこまで怒っているんですか?」
「まだ、この家にいるからです!!」
「なっ・・・!!」
「お父様!お父様!!」
「ミナリーレイ・・・」
「我が家に上がり込んでいる女性はどこにいるんです?」
「客間に・・・」
「なぜ家に上げるんですか?!」
「顔見知りだし・・・」
私は父の足を思いっきり踏んづけてやった。
客間にワーカレイと一緒に向かう。
「はじめまして。娘のミナリーレイと申します」
視線の動きでその心情がわかる人だった。
私とワーカレイを見下している。
「はじめまして私はアングラー男爵家のメルビルと申します」
アングラー家・・・最近聞いたことがあるような・・・。
「リラーシュ様のお母様ですか?」
「そうです」
「リラーシュ様が父の娘だと私に仰っていましたが、親子鑑定を受けて下さいと言ったら、それっきりだった方のお母様が、我が家になに用ですか?」
「ヴ、ヴァレーン伯爵に用事があるだけです。あなたには関係ありません」
「関係なくはないでしょう?私は娘ですし、ここにいるワーカレイ様はれっきとした妻ですし」
「ご用件をお伺いしても?」
「あなた達に関係はありません」
「そうですか。ではお帰りを!!」
「無礼ですよ」
「あなたこそ無礼です。私は伯爵家の娘で、ワーカレイ様は伯爵家の妻です。身の程をわきまえてくださいませ。オーラ!!お客様がお帰りです!!」
メイドが五人とオーラがやって来てメルビルを取り囲んで玄関に連れて行く。
そこにはまだ足を抱えた父が蹲っていた。
「伯爵様!!私を助けてくださいませ」
さっきまでと違い弱々しい雰囲気を作り出し、父に取りすがろうとしている。
「すまないけど、ワーカレイという可愛い妻を貰ったんだ。他の女性に興味はないよ」
足を抱えて蹲っていなければ格好ついていたかもしれない。
「そんな!!いつでも伯爵を頼るように仰ったではありませんか!!」
「娘が私の子だったらの話だろう?!」
「・・・・・・」
覚えがあるのね。お父様。
オーラとメイドの包囲網が厳しくなり、外へと追い出すことに成功した。
「何故家に上げるのですか?!」
「すまない・・・まさか居着こうとするなんて思わなくて・・・」
「どうしてこんな優柔不断が服着ているような男がモテるのよ〜〜〜!!!」
ミナリーレイとワーカレイの苦労はまだまだ続きますが、この辺で・・・。