魔女のおうちの三角帽子
卑怯な事しますが、タイトルは面白そうに投稿したヤツと合わせて一本、みたいな感じなので、以下投稿したネタ原文です。本編との重複・差異は大目に見てね。
町外れの小さな一軒家。
板チョコのようなドアに、キャンディーのようなカラフルな窓ガラス。ビスケットのような壁にはツタが絡み付き、屋根にはわたあめのような煙を吐く煙突。
恐る恐るドアを開くと、ドアベルが高らかに鳴り響き、奥から老婆が現れる。
「いらっしゃい。魔女のおうちにようこそ」
その言葉に、幼い兄妹は顔を見合せ、
「やっぱりここは魔女のおうちなんだ!」
「じゃあ、おばあさんは魔女なの?」
「また随分と可愛いらしいお客さんだね」
老婆はクッキーとミルクを振る舞ってくれて、兄妹はまた顔を見合せる。
「美味しい!」
「なんでこんなに美味しいの?」
「そりゃそうさね。なんたって、アタシは魔女だからね」
いたずらっぽく笑う老婆に、兄妹は決意をもって顔を見合せ、
「おばあさん。ぼく達を、弟子にしてください!」
そして、それから数年。
♪カランカラン、とドアベルが鳴る。
「いらっしゃいませ。洋菓子店・魔女のおうちにようこそ」
「ただいま、兄さん」
魔女の弟子となって、見習いお菓子職人と、見習い魔女になった兄と妹。
魔女はお砂糖とスパイスと、この世のおかしなもの全部で作られている。そんなお話。
板チョコのようなドアにキャンディーのようなガラス窓。ビスケットのような壁と屋根にはわたあめのような煙を吐く煙突。
洋菓子店・魔女のおうち。
幼い兄妹がそこに迷い込んで五年になる。
兄は先代店主に弟子入りしてお菓子職人に。そして妹はーー
♪カランカラン、とドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませ。洋菓子店・魔女のおうちにようこそ」
「ただいま、兄さん」
妹はにっこり笑うと、ケープを翻して店内へ。ほうきと三角帽子を壁に立て掛けて、行儀良くテーブル席に着いた。
「今月の新作と苺ショート」
「はいはい」
兄はいくつか洋菓子が乗ったワンプレートを持ってくる。
クリームが乗ったシフォンケーキに香り豊かなカヌレ。サクサクのアップルパイにとろけるプディング。
そして最後に、可愛いらしい苺のショートケーキにフォークを伸ばしてーー
ドバァンッ! と店のドアが乱暴に開かれた。その衝撃でほうきが倒れ、テーブルの上のショートケーキを叩き潰す。
「見付けたぞ、帝国の亡霊共っ!」
現れたのは、鎧に王国の紋章を刻んだ騎士達だった。
兄はため息を吐くと、
「その帝国も滅びて五年です」
「まだ貴様ら、皇帝の遺児が残っている!」
「親と子供は別人格ですよ」
「そのような理屈が通るか! 貴様ら帝国の人間がどれ程ーー」
妹は三角帽子を頭にかぶり、ひゅんっ、とほうきを肩に担いで、
「踊れよ踊れ、炎よ踊れ」
ぱちん、と鳴らした指から火花が弾け、巨大な爆炎となって騎士達を店の外へ弾き飛ばした。
ほうきに跨がった妹が矢のように外に飛び出して、空に上がって騎士達を見下ろす。
「偉そうに。貴方達が帝国の人間にどんな事をしているか、知ってるんですからね」
「黙れ魔女め!」
「なにより! 大好きな大好きなショートケーキの恨みっ! 許さないんだからぁっ!」
「いや、そこかよ」
兄は呑気に出窓からツッコんで、
「吹けよ吹け、嵐よ吹けっ!」
ふぅーっ! と手のひらの上に吹いた吐息は、竜巻となって騎士達を彼方へ吹き飛ばした。
すとん、と地に降り立つと、妹ははぁ~、と大きくため息を吐き、
そこに兄が苺のショートケーキを差し出す。
「お兄ちゃん大好きっ!」
「ところで妹よ」
ケーキを頬張る妹に、兄は半眼で腕組みし、
「さっきの騎士様達がご来店したのは、どこかの誰かさんが結界を張り忘れたせいじゃないかな?」
「……嫌だわ兄さん。せっかくのケーキが不味くなる」
こつん、と帽子の上から小突かれて、妹はぺろり、と舌を出した。
亡国の兄妹。妹は兄を守るため魔女になり、兄は人間を辞めた妹のため、魔女のためのお菓子を作るお菓子職人になる。
みたいな感じです。前書きと合わせてどうぞ。